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【小惑星にて−遺言メッセージ

−−after「完結篇」 A.D.2204
:お題 No.91「畏敬」


(1)

「見えるか――」
岩の間から辛うじて体を横に向け、石切り場に潜んでいるに違いない敵をうか
がう。
「はい……1、2…3、4人……」
「4人だな――」
「待ってください……もしかして、まだ」
野々村准尉は、その向こうの岩からかすかに土が落ちるのを見た。
「5人です」
 よし、と古代進は振り返り、部下たちにうなずく。
「俺が囮になる。正面走るから、上から岩の裏を回れ――できるか、野々村」
「はい」
「……でも艦長。危険ですっ――やるなら私が」
いや、と首を横に振って。中嶋は有能な若者だが、この環境で先行してもやら
れるだろう。可能性があるなら俺自身が行くしかない――。古代はそう思って
いた。
 岩場を伝い、足場の悪い処を行くには身の軽い野々村の方が良い。そしてそ
の銃の腕はもしかしたら古代自身よりも上かもしれなかった。
「いくぞ」
「はい」と2人は頷き、じりじりと体を動かしていった。

 はっ、と飛び込むように飛び出して氷の上を滑る。
一斉に4方から光線が当たるが、それも瞬時に凍るほどの極寒の小惑星。
古代が岩場に体を投げ出すようにして、また走り近づく上を、別の方から野々
村の銃が追った。見る間に発射点から2人が転げ落ちる。残るは3人――。
 海王星の衛星、トリトン。そのさらに矮星に、今、下ろされて3人はいる。


 「え? 盗掘ですか」
「あぁそうだ」
どっかりと机に座った上級参謀・結城一意は、少佐に昇格したばかりの古代進
を見た。
「――土星の衛星タイタン、わかるな」
「えぇ」もちろん。コスモナイトの産地だ。
あそこは厳重に警備されており、現在も地球資材の生命線として、押さえられ
ているはず。
 「タイタンのほかに、海王星のトリトンにも有用な資源があるのを知ってい
るか」
「えぇそれは、まぁ」
現在は科学技術省に籍を置き、副長官から長官になるのも時間の問題といわれ
ている元ヤマトの同僚で先輩で技師長、真田志朗が先日行ってきたときいたば
かり。
自身の“自家用車”と言ってはばからない工作船「NAYUTA」の改造にかか
っていた――だがこれはほとんど“趣味”と自身の研究のためで、多忙な業務
には直接は関係がない。これ以上資材は提供できないと科学省に言われ、押し
問答の末、「トリトンあたりの資材なら持っていけるものならやる」と言われた
――かどうかは知らないが。先日、海王星まで往復してきて、現場を混乱に陥
れた(真田が留守をすると業務が滞るのだ)のは記憶に新しい。まったく人騒
がせな天才だぜ、と思う古代である。
 「真田副長官から何も聞いてないか――」
「えぇ……管轄が違いますし」きょとんと。
「現在、トリトンは防衛軍の管轄拠点として開拓中だ。――ところがな。
最近その発掘場を荒らす一団があってな」
(宇宙海賊か――)
 宇宙開発発展途上の地球。
幾たびもの侵略と攻撃に晒され――だが試練を与えたアクエリアスは恵み
もまた与えてくれた。ヤマトとともにすべてが去ったあと、地球は太陽系に本
格的にその触手を伸ばし始めたのだ。ガミラスとイスカンダルの、与えられた
科学力を元に。
古代たちには、それを善しとすることに迷いもある。
だが、現実には動き出したプロジェクトは止まらなかったし、確かに防衛の意
味を込めても太陽系を手中にすることは必然で早急な任務でもあった。
 資材は常に必要とされた。
 大採掘場があるのは金星と土星の衛星・タイタン。アクエリアス・ルナは研
究中だが、ほかには海王星周辺のいくつかの惑星と冥王星、第10番惑星エリ
ス、第11番惑星あたりが注目されている。その発展中開発中の採掘場を遅い、
資源を盗っていく連中のことは古代も聞いていた。
「買う者もいるのでしょうね――」
ふと口から出たのは、無頼たちが自分で使っているとは思えないからだ。
「もちろん、そうだ。大手企業や元のラテン系多国籍カンパニーなどが噂され
ているのは君も知っているだろう」「はい」
「その、掃討に行ってほしい」

 “ちょっとした任務”というには、かなりヘビーではある。
 古代進は、1個中隊を預けられ、その艇長兼リーダーとして海王星へ赴くこ
とになった。
「人選は――」
「名簿はできているよ、最終調整は任せる」「ありがたいですね」
「ただし」
 結城は目を上げて、入りたまえ、と言った。
敬礼をし、1人の若者が入り口から入ってきた。
「野々村准尉だ。――今年訓練学校を卒業したばかりの新兵だが、役に立つ。
連れて行ってくれたまえ」
古代はそちらを見た。
ぴ、と敬礼をする若者は黒曜石の瞳、浅黒い肌。どちらかというと小柄だが
意思の強い目と厳しい表情をしていた。……今どき珍しい。
それに、ハーフか。
その古代の思考に気づいたか、「野々村、アズナブルたかし。航法専攻の総合
士官ですが、まだ見習いです――よろしくお願いします、古代艦長」
短く、そう言った。
「ストリート上がりだ。学校は2年でな、途中入学の現場経験者でもある」と
結城。
へぇ、少年兵出身か。珍しいと古代の目が見開いた。
 正確には、今回の職務で古代は艦長ではない。
時折、護衛艦を預かることもあったが、ヤマト無き現在、“自分の艦”を持たな
い古代は、艇長として有人艇を預かったり、いくつかの艦に仕事ごとに振り分
けられた。
だが、それももうすぐ終わる。
しかし古代のことを知り、また昔からの戦友たちは、現在いまでも彼を呼ぶ。
――古代艦長、と。ヤマト最後の艦長であった古代進は、今でも皆の艦長
であり続けていた。


 
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