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【祈りを込めて―永遠えいえんに】

−−A.D. 2202年『ヤマトよ永遠に…』
:NOVEL/「古代進&雪fanのための100題」No.47 祈りを込めて




= 1 =

 太陽系を突破した途端、攻撃らしい攻撃は無くなっていた。
だがおそらく敵陣が近付くに連れ、これまでの比ではないような攻撃に晒される
だろう。
それがわかっていながらの束の間の静けさである。
新波動エンジンと、イカルス基地での本格的改造を施されたヤマトの、ワープ・
ディメンション機能は、イスカンダルへ往復した当時とは破格の航行機能をヤマ
トに与えていたが、それでも、敵本星とされる銀河へは簡単にたどり着けるはず
もなく、しばしの沈黙の中をヤマトはひたすら銀河系の果てへ向け、ひた走って
いた。

 (古代……)

 右正面の自分の位置――操舵席から左隣に並ぶ戦闘指揮席に座る親友に、島
大介は目をやり、艦橋の微かな明かりの中に、まるで表情を隠すかのように静か
に溶け込んでいる同僚の横顔を見やった。
ワープを終え、その直後の慌しい点検作業と、航路のチェック。そして通常航行
の位置確認と進路の微調整が終わると、艦橋は静けさを取り戻す。
機関長の山崎、砲術班長の南部、技術班長の真田、そして第二艦橋へ降りていっ
た副班長の太田らが各部署へ降りていき、艦長の山南が上がっていったあと、
第一艦橋ブリッヂには、古代と島、そして通信機に張り付いている相原の3人
のみが残っていた。
 レーダー席に付いていた真田澪も先ほど退出していった。そのことでほぅ、と
少し肩の力が抜けた気のする島である。
――どうもあのがいると落ち着かない…。
それは自分が神経質すぎる所為だろうか? そうも自問してみるが、真田の姪で
あり、新米戦闘機隊員の加藤の弟らと共に訓練を受けてきたという彼女の過不足
無い技術については文句の付けようもなく、「あの若さで」と感心することはあっ
ても何か言う筋合いではないのだ。だが……その立つ位置と、森ユキの不在。そ
して、澪自身の立ち居振る舞いについては、あまり感心できるとはいえず、島は
親友の心の裡を推し量りかねていた。
 まるで彫像のように、くらい瞳をして前方を睨みつけている古代。
だが彼はおそらく睨んでいるわけでも前方に注意しているわけでもないのだろう。
ただ、まるで埴輪のような顔をして、その、常なら生き生きと表情豊かな瞳が何
も写していないのを、島は長年の付き合いで察知していた。
 あの中にユキを残してきたことへの悔恨と――此処に彼女が居ないことでの
苦悩。
そして、もしも生きていたとして、彼女が置かれているであろう、立場。
……生存しているとはあの状況では考えにくい。
 だが島にしても。
彼女ならもしかして。ユキなら、もしかして生き抜いてくれているかもしれない。
そんな思いを抱いてしまうのは、何故だろうか。
理性や頭では、あり得ないと理解していても、心は別だ。その意味で、古代と共
に、島大介もまた、森ユキが生存しているのをどこかで信じ、それ故に、その代
わりを懸命に務める健気な乙女を、受け入れがたいのかもしれなかった。

 そして島にはもう一つ気になることもある。
 自分の右後ろからの視線――気配に気づいて振り向けば、何食わぬ顔をして
任務にまい進しているかのように見える部下……通信班長である相原義一が、時
折、やるせないような目をして古代を眺めているのを。
そしてそれを、回りに気取られないように努力し、目線をさりげなく遣ればすぐ
さまに目を逸らし、何気ない風を装うのに、島大介はとうに気づいてもいた。
(――そう、自分を責めるな、相原。俺だって――俺こそが)
島には自嘲もある。

 古代が何を考え、相原がどう動いたのかはわかった。
 慣れぬ高速艇の発進とはいえ、島にとってさほど難しい機種ではなかった。
スピードやタイミングが必要だったため手動で発進したとはいえ、回りを察せら
れないほどのことではない。だが、自分は。

(俺は、それでも、切り捨てて発進したのだ――)

 扉が閉じた途端、スピードを上げた。発進し、その場を逃れることしか考えな
かった。それが、パイロットとしての――いや、ヤマトの艦橋を預かるブリッヂ
クルーとしての判断だった。古代を喪うわけにはいかない。この皆で、イカルス
へ行かなければ、ヤマトへたどり着かなければ。逃げるのではない――ユキ。
そして父さん、母さん、次郎。未祐や、無人艦隊の基地の部下たち。
 行く「べき」だで発進してしまった。
感情に素直になれば、反転し、ユキを拾い上げるべきだったのか?
 いや。
――恐らく、もう一度同じ立場に立たされたとしても、同じ行動を取っただろう。
だから責められるべきは、古代を拉致した相原ではなく、それを捨てた俺だ。
だから。だからこそ、島は。古代にも、相原にも、言葉を出せなかった。



 
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