おむすび 出発たびだち・追憶−


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【おむすび−出発たびだち・追憶−】

−−A.D.2230頃
:お題2006−No.98【おむすび】B

−−このお話は、宇宙戦艦ヤマトの二次創作小説ではありますが、
当ウェッブのオリジナル設定で進行します。
主役は次世代で、登場人物はオリジナル・キャラクターです。
本編および登場人物のイメージを壊されたく無いという方は、
お読みにならず、ページを閉じてお帰りください。
この警告を無視してお読みになった場合、当方で責任は取れません。
ご了承ください。
−−なお、原作の著作権を侵害する意図はありませんが、
パロディおよびオリジナルとして掲載された作品
およびデザイン等の著作権は放棄しません。
無断転載・転売・設定の勝手な持ち出しその他はお断り申し上げます。

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 かつ、かつ。と靴底の音が通路に響いた。
 ――なんだかそういうのにもホッとする。空気があるんだなぁ、そう思うからだ。
背の高いその人について歩きながら、きょろきょろと、回り中を好奇心いっぱいで
見回していた。
だって。
噂には聞いていたけど、月基地――それも、見学コースじゃなくて。こんな基地の
中枢、奥深くに入ってくるなんて初めてなんだもの。
 真田光規・16歳は、その母にそっくりな生き生きした目をくるりんと動かすと少し
緊張しながら、通路を続けて歩いていった。

 「こちらで少しお待ちください」
連れてきてくれた事務官の人――だろうと思うけど――が丁寧にそう言ってくれて
ゲストルームらしきところに通される。
「はい」、って緊張して中に入ると、広い部屋に座り心地良さそうなソファ。小さな
バーカウンターまであって、もちろん執務デスクやら……棚、装飾。趣味の良さそ
うな部屋は、もしかしたら“正式な”ゲストルームなのかな、とも思う。ふぅん。
 すとん、とだだっぴろいソファの真ん中に座る。
 ちょっと寛いだ気分になって、あたりをゆっくり観察する――へぇ、あんなところに
に明かりがある。自動なのかな? 入ってきた方向と反対側…3方向に動線があ
るや。やっぱり安全性、とかかな。不思議な色――これって、経済効果、なんだろ
うか? 立ってあちこち見てやろうと思った瞬間、するりとその動線の一つの戸が
開いて、僕は慌ててソファに座りなおした。
「失礼します――」
そういう声とともに隣の部屋と続きになっているらしい扉から、士官の制服(だと
思う)を着た女性が、お茶を持って入ってくる。
「――いらっしゃいませ。司令はもうじき参られますから。遅れて済まないと仰って
おられましたわ」柔らかい声でそう言われて、「はい」と、答え。
じっと見返すと、相手が驚いた。
「――真田長官の息子さん、でしたわね」
「そうだよ。お姉さん、ここの人?」
それには答えず、「――16歳で国費留学生に選ばれるなんて、さすがに、ご立派
ですわ」と言われた。え? 僕のこと?
目を白黒させて、思わずその女性を見上げる。な、なんだろ。
 お世辞だったのかもしれなかった。名前を知っている人は皆、自分の後ろに、科
学技術省長官で、軍にも政府にも……そしてあろうことか銀河の彼方まで絶大な
影響力を持つ父・真田志朗の姿を見る。
…もういい加減、慣れたけどね。父は父。僕は僕。
だけど、僕は父さんを尊敬もしているし、そして、父としても大好きだ。
 ここの(に勤めている)人なのは当たり前だった。失敗したかな……ちょっと、赤く
なって、「あ、そうだよね。お兄さ――加藤司令の部下の人なの?」と言う。
カチャカチャとグラスと氷が触れ合う音がして――あ。アイスティだ。すごいすごい、
僕の好み。それを淹れてくれながら「ここの人間は全員、加藤司令の部下ですよ」
と言われ、ますます光規は赤くなった。
 そ、そうだよね。
 焦ったので、細長いグラスを取ると、ストローでちゅるちゅると一気飲みする。
そうしたら、少し良い気分になった。
その女性はまだソファの後ろに真っ直ぐ立っていて、「お代わり、する?」と手を出し
てくれた。「うん、もう少し…」。
砕けた口調につられたのか、少し馴れ馴れしいっぽい態度になって、彼女はそう言
うと、すっとコップを取り、氷とお茶を足してくれた。
……あ。お袋さんに言われてたんだ。言葉はきちんとしなさい、軍の中ではそれが
常識よ。もちろん貴方は地球の代表の一人なんですからね、恥ずかしくないよう
に――って。
 だけど、生まれ持った性格ばかりは――こればっかりは、ね。
光規は心の中でぺろっと舌を出すと、にこっとお姉さんを見た。

 「――では、少しだけお待ちくださいね」
すっとその人は席を外し、あとにぽつんと、残された。
――静かな基地…。
 父の勤める科学技術省にも出入りすることがないではない。そして父の仕事上の
相棒でもある古代進総司令のお陰で防衛軍本部なんかにも顔出すこともあるけど。
どこも喧騒に溢れていて、確かに皆、物凄くきびきび働いているけど、こんなに人
が少なくて、こんなに静かじゃなかった……やっぱり地上とは違うなぁ。
光規は感心する。

 静かな時間。
考えてみる――これからのこと。地球から昨日、発(た)ってきた。
お父さんに「月での乗り換え便なら、加藤に会っていけ」といわれていたから。地
球から直接行く方法もあるけど、ここから戦艦に便乗させてもらうんだ。定期便は
あったけど、かかる時間がぜんぜん違う――これってやっぱり“特権”なのかなぁ。
 で、もちろんお兄さんには挨拶していくつもりだったから。だから月発着の艦に
頼んだんだもの。――それに、一度は。月基地っての見てみたかったしさ。

 居心地の良い部屋。――ここが衛星の上なんて嘘みたいだ。
ガルマン=ガミラスは、どんななのかな。一度、行ってはいるけど。観光に行くの
と、住むのとじゃ大違いだろう。でも、まぁいいや。空気と食べるものと寝るところ
があれば、どこでだって一緒だし。
考えない――。僕、だって選ばれていくんだもの。

 
 「よう、光規! よく来たな!!」
大またで部屋に入ってきた四郎兄さんを見て、僕は一瞬、びっくりした。
――頭では知っていたはずだった。
基地総司令……艦載機隊の総帥。具体的に、文字だけだとそうなんだ。
もちろん、僕の父さんだって古代さんだってその分野の長――本当はとても偉い。
だから慣れているはずなんだけれど。とっても優しくて、明るいお兄さんたちで。
僕は大好きだ。
だけど……だけど。
 制服・制帽に身を包み、次官らしき人を従えたその人は……本当に、お兄さん?
 「よう、どうした。緊張しなくていいぞ」
ううん、と首を振った。別に緊張してるわけじゃ、ない。ただ、ちょっとね。
どさり、と向かいのソファに座り、
「おう、俺もアイスティくれ」と戸口の方へ声をかけた。
 「お前ももう1杯飲むか? それともオレンジジュースの方がいいかな?」
「あ……もう1杯、飲む」
「それと……あっただろ?」四郎はソファの向こうへ声を投げた。「…お菓子。昨日
もらったやつ、あれ、出して」
すっと人が動く気配があって、間もなくカラカラとワゴンが押されてきた。
 「外でとも思ったんだけどな。けっこう移動とか不便だし。普通の喫茶店程度な
ら、ここでもサービスできるからな」あっはは、と明るい声で笑う兄さんは、いつも
の感じ、なんだけど。やっぱり目の前の姿は、違和感がある。

 ジュースで乾杯しよう、といって。
「よく頑張ったなぁ――16歳で国費留学生に選ばれるなんて」
カチとグラスを合わせながらお兄さんはそう言った。
「え…」と照れながらも。「どってことないですよ、普通です」
きょと、と目の前の人は自分を見る。そしてまた、大きく笑って。
「お前、相変わらずだなぁ――さすがに、真田さんの息子」
大笑いすると、普通にお兄さんだ。でも、実際はね。どうしても、ガルマン=ガミラ
ス留学生の第1期生に選ばれたかったし――来年じゃ、遅いんだ。
 それに。
“最初”っていいじゃない? と僕は思う。だからちょっとは頑張った。
杏里は……あの妹は、もうっ。「ふぅん……そうなの。行けば」
およそ女の子らしい情緒とかって、どっかで拾ってきてほしい――と思うくらいだ。
泣いて、「お兄ちゃん行かないで」と言ってほしいとは僕だって思ってないけどさ。
でもあんまりなんじゃないの? そもそもあの妹は、学校で何してて、何やりたい
んだっけ?
 絶対に妹のことは言えない兄なのである。


 
 
背景画像 by 「Little Eden」様 

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