聖夜−Silent Night−



(1) (2)
    
   
【きよしこの夜−Silent Night−】

−−A.D. 2232年
:2006-No.1 祝祭「Xmas」


= 1 =


 静かに航行する戦艦アクエリアスの艦橋で、相原はもう一度その通信の発信
源を確認した。
しかし間違えるはずなど無い。その回線は、ガルマン=ガミラスの総統・デス
ラーとのホットラインである。
「艦長! デスラー総統より入電です。モニタに繋ぎますか」
艦橋にいた総ての人間が相原を見た。古代の表情も固く強張っている。
(何かあったのか。デスラー……)
 アクエリアスの艦橋はにわかに緊張に包まれた。



 デスラーの執務室に、ユリウスからの通信が送られて来たのは、その数分前
だった。
「さきほど、地球防衛軍レーヴェ艦の古代艇長より通信がありました…」
モニタに写ったわが子の姿を見、デスラーは頷いた。
今宵の地球は、救世主の生誕を祝う特別な日なのだという。
「どこの星にも土着の宗教というのはあるものだ。地球にそれがあったとして
も不思議ではあるまい」
モニターの中のユリウスは、姿勢も正しく、凛々しい姿でまっすぐにデスラー
を見ている。
「私も最初はそう思いました。しかし興味を引かれたのは、その救世主が、は
るか昔に人民の手によって処刑されているという事実なのです」
公開処刑されたというその人物が、いまだに信仰を集め、死してなお生誕を祝
われるというのはどうしてなのでしょう。
 ガミラスの神は、すなわちデスラーである。
 目で見て、声を聞き、手で触れることが出来る神を信じることは容易たやすい。 だか
らこそ、デスラーの行方ゆくえがしれなくなった白色彗星戦後、人々は迷い、 うろたえ
たのだ。逆にデスラーの存在さえあれば人々の信仰が揺らぐことは ないだろう。
間違いなく死んでしまった存在にもかかわらず、信仰の対象となっているとは、
確かに不思議な話だとデスラーは思う。
その人物の歴史によほど強烈な伝説があるのか、あるいは死してなおカリスマ
があるのか――。
多くの人心をひきつけるには、奇跡や栄光が必要なのだ。そう、私のように、常
に強く輝き、くらきところまで隈なく照らすほどの力がなければ――。
 その救世主は平和を尊ぶため、地球人は彼の生誕の日には戦いをも休み、
愛する人や親しい友人と穏やかに過ごす。ユリウスにこの情報をもたらした
古代聖樹せいじゅの艦、レーヴェでも乗組員全員に5分間の私信 を許可したという。
 「聖樹は貴重な5分を、家族のためではなく、私のために使ってくれました」

 ガルマン=ガミラスにおいて、“古代”といえば、それは古代進を指す。
それゆえ古代聖樹はただ“聖樹”と呼ばれていた。
 もっとも、ユリウスとはすでに親しい間柄で、父親の立場に関係なく行き来も
している。
−−かつては敵同士だった二つの星が共闘しているのだ。お互いの文化や習
性も理解しておいた方が良いだろう。
 聖樹はそう言ったそうだ。
 聖樹とユリウスの関係がうまくいっていることを知り、安堵はしたが、それを
表情に出すようなデスラーではない。

 「ユリウス――」
楽な姿勢で椅子に座ったまま、デスラーは我が子を見た。
そういえば、もうずいぶん話していなかったなと思う。
レーヴェ艦での私信の話を聞き、少しガルマンが恋しくなったか――。
肩幅が広くなった。目付きも鋭さを増し、艦隊を率いる手腕も順調に身に付け
ているといえるだろう。しかし、見た目は立派な青年でも、まだデスラーから
見れば危うい子どもでしかない。
「興味深い話であった。任務に戻るが良い」
お前は、ガルマンだけではない、ガミラスの名をも負っているのだ。その名に
ふさわしい働きを成せ。
「はい。それでは父上、失礼いたします」
ユリウスが腰を折り礼をすると、金色の髪がさらりと揺れ、そのままモニタは
暗転した。


 
背景 by Kigen 様

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