巡り合う -宇宙そらへ向かう道-

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【巡り合う -宇宙そらへ向かう道-】

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−−A.D.2222
:お題2006-No.24「巡り合う」
   
(1)

 「おーい、大輔ぇ」
一通りの射的を終え、身支度を直していた加藤大輔の背に、木立の向こうから
聞き慣れた級友の声がした。
す、と立ち上がり振り返る。
「おう、安井。そっちはもう終わり?」
木の柵と針葉樹の植樹で隔てられた運動場と道場の境からひょいと顔を出し
て、ユニフォームのままの安井國彦の姿がある。
「あぁ。あと今日の整備当番は1年の奴等だし、久々に一緒に帰らねぇ?」
と言う。
子どもの頃はくるくるとよく表情の動く子だったはずが、長じて急に大人っぽく
なってきた大輔は、あまり感情を表に表さない顔を崩していいよと言った。
「ちょっと待ってて、後片付けがあるからさ」
「そりゃこっちも同じだぁ。早く終わったらイチョウんとこで待ってる」
「あぁ」
――生徒玄関から部室長屋の方へ入った処にある数本の銀杏の群れは、
よく生徒同士のデートの待ち合わせ場所にもなった。んな処で待ってるとまた
いろいろな“事件”の目撃者やら当事者にされてしまいがちだが。まぁいいか。
俺の方が遅いだろうしな。
 鏑にはまだ5本、矢が残っていた。
陽が暮れ始め、そろそろ明かりが厳しくなってきていた――が、大輔の目は特
別制で……人よりは遠くまで、ある程度夜目も利く。「野獣かお前は!?」と先輩
に言われるほど。

明かりも疎らな外惑星で2年もサバイバルな生活すりゃそーなるよ、と内心つ
ぶやく。妙に適応してしまった自分を、本当は平和主義者で地球でのんびり暮
らそうと思っていたのに、そうでない処にも目覚めてしまったのも感じていて。
子どもの頃願っていた「宇宙パイロットになりたい」という願いを本気で検討
するべき時期に来てるよなーと思う今日このごろ。だけれど……宇宙戦士訓練
学校ってあまり性に合いそうにはないんだが。
 大輔は弓に矢を番え、遠くの的に狙いを定めた。
息を大きく吸い、吐きながら姿勢を正し体を緊張させる。目は一点を狙ったま
ま動かすことは無い。……狙うべき的が大きく、よりハッキリ見えるような気
がする時は調子が良いのだ。流れるような動作で肘を引き、絞って、空中に矢
を放った。
 次の瞬間、鈍い音がして、矢はその中心を射抜いていた。

 「そっちさ、大会近いんじゃないのか」
自転車を押して歩きながら大輔は國彦に言う。
「あー。毎日ミーティングしたって仕方なかろ。一応、なんとかイケそうな処
までは持ってったからさ。あとは調整してやれるとこまでやるだけさ」
2年生にしてこの伝統あるメガロポリス西中学サッカー部のサブ・キャップを
務める安井國彦はそう言って不敵に笑った。
「そっちはどうよ」と水を向ける。
「うん…まぁね、女子部はけっこう強い子がいるんだけどね。男子部は個人戦
狙いかなぁ」
「武井主将とお前、くらいかね」
「まさか」と大輔は照れたように笑った。「4人の選抜メンバーは皆けっこう
イケるさ。5人目の争いがちょっとやっかいかな」
 転校してきてすぐに1年生でレギュラーを取ってしまった加藤大輔は、弓道
界でも知られ始めていた。もちろん、その外見や華やかな経歴のこともある。
実際、実力は主将と1−2を争うといわれており、そのレギュラーの座は不動
だったが、
「できればねー。由比を出したいんだよな」
 由比というのは2人の同級生で2年生の実力派である。実力主義の運動部
でも年功序列の秩序はなかなか崩れず、同等な力なら上級生を、というのが
通例だった。秋の大会なら確実に入れるのだろうが、春の大会もできれば由比
で行きたいんだよなー。大輔が決定者なら確実にそうする。1年から不動の
レギュラーをキープしている大輔は特別としても、現在“5人目”の上級生、
佐竹はセンスは良いのだがムラがあり、また勝負強いとは言い難い。
団体戦優勝の可能性があるとすれば佐竹を外して由比を入れろ、というのが
大輔の個人的主張でもあったが、そのあたりは所詮学校のクラブ活動だ。
そうでないご家庭でシビアに育った大輔には解せないながらも、従わざるを得
ない処があった。もとはあまり口を挟むつもりもなかったが、それも良心が咎め
る気もして。
「佐竹先輩だったら、まぁ無理だな、この大会は」
「おめー聞かれたらヤバかろ、それ」
「う〜ん。でも、まぁ負けたって所詮、中学校のクラブ大会だからな」
おいおい、と國彦は思う。こいつ、熱いかと思えば妙に冷めてやがんなー。運
動部の他の連中に聞かれたら袋だぜ……って、腕力でも適わねぇか。
「うん、まぁやってみるけどね」――権謀術数を、ってことか? あぁ、とに
っこり頷く大輔は、このカワイイ顔のどこに、あんなしたたかな性格が詰まっ
てるんだろうと思う。女どもときたら――男もだけど。こいつの外見に騙され
てりゃ世話ないぜ、とどちらかというと単純直情な方の、親友殿であった。

 
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