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30. 【おままごと】

 
オリジナル・キャラクターの開き直りです。
 まったくわかりにくい話で申し訳ありませんが、1場面物語だと思ってお読みいただければ。
時間はA.D.2225年ごろ。
加藤大輔は、佐々葉子と加藤四郎の長男、古代聖樹は、古代進と森ユキの次男です。

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 あーん…あーん……ママ、どこ? パパ? お兄ちゃんっ!?

 あぁ……どこかで泣いている声がする。
行ってやらなくちゃ。唯が……1人で怖がっているんだ。
行って、やらなくちゃ。
体が重い――。
大丈夫だよ、お兄ちゃんがいるから。どこにも行かない。お前の傍にいるからな……。

 体が言うことを効かないのだ。手が、足が重い――自分の手足じゃないみたいだ。
(聖樹――しっかりしろ、せいじゅ。……大丈夫か?)
遠くで懐かしい声がする。
(ゆい……唯が。早く行ってやらなくては……あの娘(こ)が泣いてる)

指が一本、動けば。こんちくしょ……えい、動け、手。
苦労して重い拘束を跳ね除け、目を開け――ばっと跳ね起きようとしたが、体はいうことを
効かなかった。
その手をがっしりと掴まれて、意識が戻った。  「聖樹――目が覚めたのか」
「だいすけ……」
 冷や汗を拭くような気分で、問い返した。「おれ、何か言ってた?」
ううん、と親友は首を振る。
「熱が、かなりあったからな……うわごと言ってたみたいだけど、なんかわかんねー」
にこりと笑って寄越す顔に嘘はないだろう。
心底ほっとして、聖樹はまた深く枕に身を沈めた。

子どもの頃の夢だ――俺たちはいつも。暗闇の中で、2人取り残されていた――。
泣いても、叫んでも、誰も来てはくれなくて。
そして唯と2人、どうしてなんだって言っても。
――だがそれが本当ではなかったことに、いつから気づいただろう。
あれが唯の心の中にあった闇――それに共感していただけだったとすれば。


 
戦艦しらさぎの中だった。
訓練航海の研修真っ最中。あろうことか、古代聖樹が怪我から熱を出し、倒れたのが昨日。
2週間の航海に途中下車というわけにもいかず、医務室で1日をすごしたあと部屋に放り
込まれている。
 相棒を任じる加藤大輔は、自ら望んで看病に当たっていた。
――唯ちゃん、か……。
古代の妹、唯は、大輔より三つ年下だ。大輔も二度ほどしか会ったことがない。聖樹の口
から彼女の名が出ることはなかったし、それは触れてはならないのだろうと推察している。
だから――うわごとで、何度もその名を呼んだ聖樹の声に、大輔は聞かなかったふりをし
た。理由はわからない――父親とも、母親とも。共に暮らしていないのだ。そしてそれが、
この次男坊と父親である進の確執の原因だろうということくらいまでは推察していた。
 聖樹が胸にかけているロケットの中に、唯の写真が入っている。一度だけ見せてもらっ
たことがある。さすがに非常な美形で、伝説のスターシア、という人に似ているような気
がした。一つだけわかっていることは。彼が彼女をとても大切に思っているということ。
古代の家の中で何があったかは知らない。
 だが、古代唯は――聖樹の一つの聖域だった。

 「……おままごとしててな」
目を閉じたままぼそりと聖樹がつぶやいた。
「なんだお前、寝てなかったのか」
タオルを絞り、汗を拭いてやろうとベッドへ近付きながら大輔が言う。
「ん? あぁ……よく、唯とおままごとしたんだ」
へぇ? 俺は飛鳥にそんなこと付き合ってやらなかったからな。聖樹って優しいんだな。
そう言うと。
「あは……寂しかったからさ。親もいない、爺ちゃんたちは可愛がってくれたけどね、そこ
からもしばらく離されて2人だけだったろ」「そうか…」
広くて四角い部屋――なんだかいっぱいおもちゃがあって。そこでよく2人でおままごと
をした。
 (ここが玄関で、ここがお部屋。こっちでご飯の支度するの。今日は何にしようかな、
ハンバーグと目玉焼き、よ。お味噌汁も欲しいわね)
(あぁ、ご馳走だね)
(お兄ちゃんが、お父さんよ? 唯はお母さん)
(……そんなのヘンだよ。兄妹きょうだいはけっこんできないの――だから、唯はお母さんで、
僕はお客さんだ)
(そんなのイヤよ。――唯は、お兄ちゃんのお嫁さんになるのっ)
腕をつかんで、いやいや、と泣いた唯。かわいかったなぁ。
 ふっと唇がほころんだ。
「かわいいか? そんなに、妹ってのは」
「お前だって、わかるだろ――シスコンめ」
くすりと大輔も笑った。「あぁ……あんなお転婆のはねっ返りでもな、かわいいな」
「唯は、特別だ――」
そう言うとまた、聖樹は黙ってしまった。
 静かになり、息が規則正しくなっている。
眠ったのかな。

 「大輔――」
あぁ、眠ってたわけじゃないんだ。
「飛鳥は、いいだな――」
「あぁ。気が強くて、たいへんだけどな。――真っ直ぐで。俺の言うことなんか聞きゃしない」
聖樹の雰囲気がふんわりと和らいだ。
「――お前、飛鳥と付き合ってたんだろ、少し前」大輔が問うと、
「…そういえるかどうか」
「あいつが訓練学校なんか行くって言い出した時ぁ、恨んだぜ」「俺のせいじゃないさ」
「まぁどうせ、あっちが振り回してたんだろーけど」
「はは、その通りだ。まったく世話のやけるお嬢さんだよ」
――兄として、妹を。
めったに会えない兄妹だった、という意味では、2人ともに、それは同じ。
(一緒に暮らしたのは6年くらいか……)
月で少し、地球で学齢期に。大輔は思う。そして、聖樹は、本当に最初の数年だけ。
 飛鳥は聖樹を好きだったのだろうか? 今となってはそれもわからない。
そしてこいつの心の中には、誰がいるというのだろう。それも、わからないことだ。
――親友で、相棒。だが、踏み込んで良いことばかりではないのは人として、そうだろう?

 熱、下がったな。
 あぁ……たぶん、明日は起きられるだろう。
ゆっくり、眠れよ。
ありがとう、大輔。
 「大輔? 一つだけ頼みがあんだけど」
なんだよ、改まって。
「今夜――居てくれないか」狭い部屋だがベッドはもう1台ある。
「あ、あぁ……お安い御用だが」
 夜の夢魔に引きずられないように――この向こう、宇宙の中にいるに違いない者に、
少し弱っている俺の心が引っ張られないように。
(――女神も。魔女も、同じさ)

 すやすやと寝息を立て始めた相棒を見つめ、額の汗をもう一度拭くと、加藤大輔は明かり
を消して自分も寝床に入った。
宇宙うみへ出ていく戦士たち――。
これから、彼らの戦いは始まる。


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――Fin
  
綾乃
Count046 Phese09−−03 Mar, 2007

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あとがき のようなもの     ★2007年5月

count046−−「おままごと」
 古代唯こだい ゆいはいつごろ登場するのか…いただくお便りのメールには「申し訳ありません」というお答えしか書けずにいます。この娘はウチ設定の古代進&ユキの長女で、三番目の子ですが、長編用のヒロインでして短編にはまったく登場しないのです。古代進とユキは愛情深い一家を築きますが、地球の状況はそれを完全には許さなかった時代があり、その狭間に、運命のように生まれたこの聖樹と唯の兄妹は、翳りなく育った長男・守とは別の運命を辿ります。が、唯ちゃんも現在は幸せに生きていて、ただヤマトの子弟の前に、その姿を現すことはありません。…そのお話は、もう10〜20年位の間ノートに書き付けられた破片が存在したままですが、いつかきちんと書けたら良いですね。・・・でも体力が要るからな、、、
 ということで、ちょっと出ていただきました。シスコンな2人ですので、妹のことになると、もうそりゃどうしようもないですって。…ただ、離れて暮らしていたので、普通の兄妹とはちょいと違うのも仕方ありません。文中で出てきた、「聖樹と飛鳥の話」は、そのうちお目見えできると思います。


古代進&森雪100のお題−−新月ver index
2010年6月のデータ                                  (−−20 Jun, 2010 修正)
1: No.57 コスモ・ゼロ(001) No.100 誕生(002) No.15 兄と弟(003)
No.41 ヤマト艦長(004) No.21 再び…(005) No.53 復活(006)
2 No.001 一目惚れ(007) No.78 温泉(未) No.82 夢(009)
No.03 旅立ち(010) No.84 First Kiss(011) No.83 プライベートコール(018)
3 No.09 もう、我慢できない(012) No.18 ありがとう(013) No.20 告白(014)
No.26 ふたり(015) No.69 もみじ No.80 自棄酒(026:2010jr
4 No.29 My Sweet Home(016) No.70 冬木立(017) No.22 エンゲージリング(022)
No.08 願い星(028:2010jr) No.56 二人きり No.31 新入り(058:非公開)
5
(paraA)
No.06 心の変化(019) No.95 ラブシュープリーム(020) No.75 旅行(未)
No.58 さよなら(未) No.96.約束(043:2008jr)⇒冊子  
6 No.02 片思い(029) No.43 三つ巴(027:2009jr) No.04 メッセージ(030:2007jr)
No.62 チョコレート(033) No.48 若い人(023) No.14 記念写真(025)
7 No.17 生きる(途) No.92 仲間たち(未) No.11 ライバル(054:2007jr)
No.42 女神(059) No.52 そばにいるだけで…(081) No.77 ラッキー(084:2009jr)
8 No.13 帰ってきて!(050) No.16 イスカンダル(041) No.19 ただいま(040)
No.50 忘れない(038) No.05 氷の惑星(039) No.30 おままごと(046:2009jr)

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