YAMATO'−Shingetsu World next generation:相原祐子編



aqua clip風のとまるところ


・・寂しい夏・・



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【風のとまる処−前編】

−−A.D. 2227年
「Crescentmoon題2005-No.54:寂しい夏」






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 えっ?
 大学の昼休み。カフェでランチを摂るために同級生たちと列に並んでいた 相原祐子あいはら ゆうこは、何気なく見ていたニュースの 電光掲示板に目が釘付けになった。
 その様子に驚いた南部勇人なんぶ はやとが振り返れば、 そこに流れていく文字列…。
 祐子は固まったまま表情を無くしていた。


 《11時のニュース――地球防衛軍第3部隊の演習先にて事故発生。訓練機と 民間機がニアミスの末、訓練機大破――付近の住宅地に影響がないか調査が 行なわれています。准尉2名が死亡、死傷者については調査が待たれています。 この事故で管理責任を問われる地球防衛軍は……》


 「相原。すぐ、連絡だ」
「ど、どこに……」
とりあえず、行こう、と勇人は祐子の手をつかみ、同級生たちを振り切ると駆け 出した。
「午後、代返頼むわ」
と一緒に並んでいた同級生に声かけて。――授業どころでは、ない。


 昨日から珍しく地上での演習だと、列島の中央へ向かっているはずだった。 その中に二人の幼馴染、加藤大輔古代聖樹もいる。全員が参加しての演習 ではなかったはずだが、特別訓練で若い者は幾らか借り出されてテスト航海だ とか、昨日の電話で言っていたばかりだ。
 「…まだ二人の事故だと決まったわけじゃない」
自分も蒼白になりながら早足で通信室へ向かうのに
「責任者は、もしかして……じゃなかったっけ」と祐子。
「あぁ。……うちの親父のはずだ」


 南部勇人の父、南部康雄――現在、地球防衛軍戦闘参謀の一人。実はこの 訓練は新造小型機のテスト航海と訓練生上がりの若者たちの実地訓練を兼ね ていたのだ。


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 「こちらです――まだあまり長い時間は」
 真っ青な顔で頷いた祐子は、勇人に支えられるようにして軍中央病院の病室へ 向かった。
「無事…なんですね」
「えぇ――ご無事ですよ」
対応してくれた看護師さんがうなずくのに、まだ安心はできないと慌てて駆けつ けてきて。
 事故の報を聞いてから半日以上が経っていた――。


 真っ白い包帯に片手と顔の半分を覆われて、つながれた点滴が痛々しい。
祐子と勇人が入ると、じっと横についていた同じ制服を着た青年が顔を上げた。
「聖樹くん……」
 古代聖樹こだい せいじゅ――地球防衛軍艦隊 総司令・古代進の次男。加藤大輔より訓練校では1級下に当たり今年卒業して 配属研修中のはずだ。
 同じ“ヤマトの子弟”でも、皆はあまりこの古代の次男坊とは知己がない。加藤 兄妹とは親しい様子だったが、父進の暗い部分を受け継いだような愛想のない この次男坊を、皆がけっして好いていたわけではなかった。 だが訓練校在学中から大輔と聖樹はよく組んでいたようで、戦闘士官の聖樹と 航海士官の大輔は、かつての古代と島の再来――とも言われているらしい。
 「大丈夫な、の? 大輔…加藤くんは」
おそるおそる祐子が聞くと、微かに頷いた。だがその聖樹も、硬い表情のまま 土気色の顔を向けている。……ひどい事故だったのだ。
 目を閉じてベッドに横たわっている大輔の顔色は真っ青で、何よりその包帯が 如実に怪我の酷さを物語っている。
――だが。息は安らかで、眠っているだけと知れた。
「今、薬が効いているから――たいしたことはない」
(たいしたことはないって!)
聖樹の冷静な説明にカッとして、何か祐子が言い返そうとした時に まぶたが動いて、加藤大輔が目を覚ました。


 「――大輔……」 シーツの上の手を触れて。
「せい、じゅ? …おれ? 生きてた?」
掠れた声。
「何を言っている……事故処理に飛び出して、大活躍した挙句、自分で救援機 に乗り込んだじゃないか」
微かに笑って静かに言う様子は、古代進に似ていなくもない。
戦場を渡る男たちの、会話だ――。
「あいつらは――」
「安心しろ、無事だ」
「そうか……」と満足そうに包帯の下から口元が笑って。
 あのまま炎に巻き込まれていたら、誘爆して3人とも助からなかっただろう。 聖樹の判断と、俺は咄嗟に動いたが――やっぱり操縦桿を固定してしまって 正解だったな。
 ほっとしたように息をついて、目を閉じた。
 そうしてゆっくりまたあたりを見回すと、やっと。
「あれ? お前ら――何しにこんな処にいるんだ?」
と今頃、勇人と祐子に気づいたのだ。
 二人は顔を見合わせて、笑っていいのか怒っていいのかわからなかった。
「大輔――相原さんと南部くんは事故の報を聞いて駆けつけてくれたんだ。 責任者が参謀長なんぶさんだったから、情報が早かった んですよね?」と後半は勇人に向けて聖樹は言い、勇人は頷いた。
「あまり、心配させてくれるなよ――」そう言う。
 祐子の目にみるみる涙が溢れた。
 それに気づいて、大輔が慌てた。
「お、おい……泣くなよぉ相原。俺、生きてるし。こんなこといちいち気にして たらこんな仕事やってらんないって。……おい、南部、なんとかしろ」
動けないのだからどうしようもない。
 相原祐子が泣く姿など、ほとんどのこの幼馴染連中は見たことがなかった から、驚いた。本人ですら。
(どうしたんだろう……なぜ私、泣いてるの?)
安心したのだった。


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