aqua clip風のとまるところ


・・寂しい夏・・



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 最近――そうなのよね。
 大学は単位を鬼のようにとりまくったので現在3年生。この1年を過ごせば卒業 できる。さらにもう1年、専科と――別に取りたいコースがあるのだ。
祐子自身の目標のために必要なキャリアでもある。
 そして。――気になるお年頃でもあった。


 恋の花はどこにでも咲いている。ボーイフレンドのいない人の方が珍しかった し、人口が減ってしまったこの時代、自由恋愛は推奨されていた。
――恋人は、本当に添う相手は一人としても。皆、複数の男女と付き合い、春を 謳歌する。…だからといって、モテないとか恋人のいない人間は、どの時代にも、 どの世代にも、いる。
 相原祐子には恋人と呼べる人はいない。
 8歳から8年間想い続けた人に振られて以来。大学に入ってからBFはたくさん いたが、現在この地球ほしの政治経済に重要な力を持つ 地球防衛軍の幹部職員の娘――しかも、母方はあの藤堂家ともなれば。政界財界 問わず「〜目当て」の男が近づいてこないわけではない。
 その“防御壁”ともいえたのが、この幼馴染の南部勇人。
親友であり、自身、南部重工公社の後継――また地球防衛軍戦闘参謀長の長男。
 なので相原祐子は。なんとなく、“南部の恋人”のように見られているし、勇人 は勇人で、べつだんそれを嫌がるでもなく、大学が同じということもあって、常日 頃から一緒に居ることも多かった。
 だが。
 祐子の方は――最近、気になるオトコがいる。
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 目の前で包帯だらけになって横たわっている、加藤大輔。
幼馴染で、大事な、親友。単なる。そうよ、男として意識したことは、なかった。 でも――事故、と聞いた時に。
 もしかして、大輔が乗っていたかもしれない、と思った時に。
 まっすぐに立っていられないほどの衝撃と、心配。勇人がいなければ、きっと 動けなかっただろう。


 横たわっている目の前の姿。
 これまで考えたこともなかった――本当の、この人たちの仕事の危険さ。
これが地上だったからまだ良い。宇宙で――もっと極限の状況の中で。父さんも、 兄さんも、古代さんも、南部のおじさんも。時には母さんたちも、生きてきたん だ。そして今は、この人たちがその中に居る――もしかしたら。明日急に死んで しまうかもしれない――そんなことが急に現実になったのだった。
――宇宙は、それほどに、人にとって危険なのだ。


 「ねぇ、聖樹くん……」
 またうとうとと眠ってしまった加藤大輔の傍ら、立ち上がって見送りに出た古代 聖樹に相原祐子は聞いた。
「こんな怪我や事故って、しょっ中なの?」
心配そうに――真面目な顔で。きょとんとそれを聞いていた聖樹だが
「いや――大輔は意外に慎重でさ。大きな事故は初めてだよ」と言った。 「今回だって、自分の事故じゃない――相手のミスに巻き込まれた」
と言う。詳しくは言えないけどね、と。


 本当は――爆弾が仕掛けられたのだ。
 そうそうヤられる二人ではない。だが、そんなことは一般人には関係のないこ と……俺たちと、その体制と。その上にいる、南部参謀長さんや、もっと上にいる人たちが気に入らないヤツら――。 だが。心配をかけるだけだから。 「そんな……」 「彼が居なかったら、もう少し死んでたさ……大丈夫だよ、相原さん」  祐子が何を心配していたのかは察していたようだった。 「でも、危険なお仕事なのね――加藤くんも。貴方も…」 あぁと聖樹は微かに笑って。 「でも仕事ですから――どの仕事にもある程度の危険です」 と。クールにも、突き放したようにも聞こえる科白を放った。  振り返って傍らの南部勇人を見る。彼は明らかにこの古代の次男をあまり快く 思ってはいない。――守兄ぃとはあんなに仲が良いのに。…いや、はみ出してい るのはむしろこの子の方だ。
 以前逢った時と比べて、精悍な表情は、ますます父の古代に似てきたといわれ そう思わないでもない。だがその暗い瞳は、あの素晴らしく大きな人と似て非なるものだ。 大輔が親しくし、命を預けあうほど信頼をしているというのが、今ひとつ理解 できないでいる祐子である。
 お大事になさってください。
 そう言って、その日は辞した。
ぺこりと頭を下げて――。


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