candle icon もう、我慢できない
CHAPTER-03 (009) (018) (020) (069) (026) (080)



このお話は、前後篇になっています。
続きはページ下からNo.18「ありがとう」をどうぞ。
また、No.84「First Kiss」 の後日譚でもあります。
この話↑は少し長いですが、お読みいただいてからの方が状況がおわかりいただける、かも…。
文中のオリジナル・キャラ 佐々葉子につきましては、= 「小箱辞典」の「概略ページ」をご参照ください。


 「古代。ちょっと話がある。顔かせ」
食堂を出た処で、戦闘機隊員の佐々葉子につかまった。
「あ、あぁ…なんだ?」
どうも、どぎまぎしてしまう。
別に後ろめたいことはないはずなんだが。
 あの日以来、“告白ブーム”というわけではないのだろうが、カップルがあちらこ
ちらで発生しているらしい。
いやそんなこと興味もない……わけではないが…知るわけもない古代進である。
しかし第一艦橋で、相原義一がいちいち報告してくれるので、なんとなく艦内の状況など
把握してしまっている艦長代理なのだ。

 地球を目前にして−−ヤマトの航海はもうじき終わりを告げる。
 新しい未来が始まるのだ…とこの時誰もがそう信じていただろう。
だからこそ。
辛い戦いを乗り越えてきた。仲間の屍も踏み越え、敵とはいえ多くの命を葬り。
−−そしてヤマトはいま回天する。
もう、我慢している場合ではない……と皆が思ったかどうか。
あの“パーティ”がそのきっかけになったのは疑うべくもなかった。

 が。
 古代進は、自身もそれどころではなかった。

 「古代さんっ――好きなんです」
「お願いです、これ、もらってくださいっ」
先ほども、食事を終えた処で、2人の女性班員につかまって“告白”されてしまった
古代である。――お前ら、本気かよ?
どうも、古代進は、自分についてあまりに無頓着である。
それに、本気とは思えない……なんて当の告白し玉砕した女の子たちが聞いたら、
闇討ちでは済まないぞというようなことを平気で考えている。
 要するに、古代の目には、森ユキしか“女性”として写っていない。
 女性にはすべからく優しくすべし、と育てられた末っ子でお母さん子で、親戚中
から可愛がられて育った古代は、意外にもフェミニストで、女の子の扱いがけっし
て下手というわけではない。
面と向かって話したり、エスコートしたりは苦手だが、困っていれば相談にのった
り、仕事を助けてやったり、あまり女を女として意識しないためか、そんなに距離
を感じることもない――と本人は思っている。
その点では、加藤三郎や山本明、島や南部にくらべると一線を画す。
女性に警戒心を持たれない、という意味では相原とは同じタイプであろう。

――そんなわけはないだろう。知らぬは本人ばかりなり、なのである。
古代進を見る異性の目も…時には同僚の同期の目にもそう映っている。
彼は女性たちが憧れる多くの要素を持っていた。 「ちょっと拗ねたみたいなとこがカワイイ」「訓練とかまるでオニよねぇ、でも、
そのギャップが素敵」「ねぇねぇ、時々ものっすごく優しいのよね、あたしさぁ…」
「ほかの班長たちとふざけてるとこなんてもろ“少年”って感じで、いいわよねぇ」
「やっぱ艦長代理になってから貫禄? 素敵ぃ」……挙げればキリがない。

 だが。
 恋愛――というものを意識する相手ができてしまった。

 ヤマトの女神、森ユキ。
 先日の『第1回ミズ・ヤマト、ミスター・ヤマト』艦内人気投票で堂々1位を取った
人気者。なんといっても美人で、仕事ができて――ただし負けん気は強い。
一目惚れ――に近い憧れがあったが、一緒に仕事をするようになり、上官と部下に
なり、そしてともに戦い、ともに歩んできた。
いつの間にか――自分の歩んでいく先に、ともに彼女の姿を考えてしまっている自分
がいたりもする。
 そして先日――。

 「古代くん――私のこと、嫌いなの?」
そうまで言われてしまって。
ましてや。
“賞品のキス”をしようとしたところ、First Kissまでいただいてしまって…。
あぁまた熱が出そうだ。

 古代進。一世一代の危機!
苦手なのである。
しかも。太陽系へ入ったとはいえ、地球の危機はまだ消えたわけではなく、ヤマト
が間に合うかどうかは微妙な処。島をはじめとする航海班や、真田さん以下の工作
班は、それこそ命掛けの毎日を過ごしている処――そして自分は。
若輩ながら、病身の沖田艦長を補佐して、艦長代理を務めなければならない立場。

「古代! お前、聞いてんのか」
ドスがきいた、といえそうな低い佐々の声と、睨むような目は、それでなくとも美人
を怒らせると怖い、の典型かもしれない。
実際に、古代と佐々は“同じ釜の飯”を食う中で、信頼関係も深い。加藤や山本と
同じように信頼し、命預けられる相手――男だ女だ、という前に。
だけれど。
 こいつは、ユキの親友だ――。
「佐々――」
「お前、あの後、ちゃんとユキに交際申し込んだんだろうな? 結婚の約束は?」
畳み掛けるように言われて。
 ふだん佐々はあまりヒトのことに口や首は突っ込まない。一人クールに構えてい
て、そのへんは典型的な戦闘機乗りの女だと思っていたのに。
「……他人ごとに口突っ込むの、趣味じゃないけどね」
とにらみつけたまま佐々は言う。
佐々にしたところで、(もう、我慢なんかできやしない)という気分であった。
女の身にもなれよ! 古代進!! この、ばかやろー。
2人を心配するだけに。自分だって(もうだいぶ以前の話だけど)諦めたんだからっ。
「いい加減にしないと、ほかの男、進めちゃうわよっ。ユキの身にもなんなさいよっ」
どん、と目の前の壁を拳骨で叩かれて、古代はひえ、と引いた。
「お、俺だって――」
そんな古代こそ初めて見る佐々である。
「あんた、ユキを愛してるんでしょ――」
「あぁ――」
きっぱりと、うなずく。本来なら人に言うこっちゃない。だがこいつはユキの親友
で、俺の戦友だ。
 「だったら! 人のプレゼントなんて受け取ってないで! ユキになんとか言い
なさいよっ」
あの娘、悩んでるわよ。自分から女がキスしたり告白するのって、どれだけ勇気が
いると思ってんのよ、このとーへんぼくっ」
 言われたい放題である。

 実際、古代の人気は急上昇していた。
森ユキはもともと人気者だったが、男は皆、純情で女神が好きだ。
“高嶺の花”と思う者も多く、アプローチするものはすでにしていたし、実はさほど
多くはなかった。
男どもの間には、古代進の想いと、森ユキ本人の感情が、すでにバレていたという
所為もあった。皆、応援してやろう、という方向に考えがいってしまったのだ。
最後のライバルと目された島大介が戦線離脱してからは、それでも諦め切れなか
った戦闘機隊の一部以外は、森ユキに積極的にアプローチするやつはいなかったの
である。
ところが。
古代が躊躇しているらしいということもすでにモロバレ。
ユキが彼を想っていることももう広まるだけ広まってしまって――当の2人だけが。
こうなれば、と玉砕覚悟で告白する者が増えても不思議ではない。
ユキはユキとて、男性班員たちからの告白が増え、古代も戸惑いながら、
「島〜ぁ、なんとかしてくれ」となきつく始末。
その親友殿は、恋愛関係については一様に冷たい。
「お前な……ユキのことで俺に相談するのは、無しだぞ。この贅沢ものっ」
そう言われて、もはや進退窮まれり、の心境である。

 「ともかく。お前ら気持ちは確かめ合ったんだろ?」の佐々である。
「あ、あぁ……」
そのはずだけど。古代進は考えている。
イスカンダルでも兄さんと、義姉さんになるスターシアさんの前で、ハッキリ(と
古代は思っている)あぁ言ったのは、「この人は俺の嫁さんになる人だ」と兄に告げ
たつもりだったんだし、ユキもいやがってはいなかった。
「次は俺たちの番だぞ」と言ったのに、少し頬染めて、「えぇ」と力強く頷いてくれ
たじゃないか――それじゃ、だめなのかな。
 「それじゃ、ダメじゃないかっ」
とまた佐々が言う。
「女の身になってみろっての。――ちゃんと、言って。どうしていこうって具体的
な話しないと、だめじゃん」
古代はふと顔上げて「お前、そうしてほしい相手でもいるのか?」となんともとん
ちんかんなことを。
 古代は佐々と――加藤三郎のことも、気になっていた。
(好きあってると思うんだけどな……山本と恋人同士なのかな?)
「山本って恋人なのか?」
「あたしのことはどうでもいいっ!」どん、とまた拳を打ち付けられてしまって。
はい、と恐縮する古代である。
 「ともかく、はっきり言えよーーユキの不安を解消してやってくれ。それが、お
前のためでもあるだろ」
静かに。目の前の友人はそう言った。
あ、あぁ。
「……努力してみる」
それを聞いて、ふっと笑った佐々の目は。これまで見たどんな表情より優しかった。



この項、Fin

さて、どうなりますやら。続きを、どうぞ >> No.18 「ありがとう」


綾乃
――「宇宙戦艦ヤマト」 A.D.2200

Count012−−16 Nov,2006

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