planet icon 一目惚れ- fall in love
CHAPTER-02 (001) (078) (082) (003) (084) (083)



01. 【一目惚れ】

(へぇ〜、これは……)
その少年は、見た途端、言葉を失って、ただ立ちすくんだ。
目の前に見たものが、信じられない、とでもいうように。
――なんて、キレイなんだ……。

 白銀に輝くそれは、天井のいくつかの方向から照らされる照明にくっきりと光と
影をつくりながら、高い台座に固定されていた。
戦闘機、というものを実際に見たのは生まれて初めてだったが――。
魅せられた。
そうは自覚しなかったとはいえ。
一目惚れ、というのはそういうものなのだろう。

crecsent icon


 「なぁっ! 島!!」
その日部屋へ帰って、興奮した状態のまま、同室の島大介を捕まえた古代進は、そ
の日の想いを抑えきれずに話し続けた。
「すげぇんだぜー、コスモ・ゼロっていうんだって。プロトタイプなんだそうだけ
ど、うまくいけば次の実戦機になるって、教官せんせいが言ってたんだ。
それって、俺たちが乗るかもってことだろ。
すっげぇキレイでさ、ぴかぴかで。なんか強そうーって感じでさ。
いままでのとは段違いなんだって……」
 おい、古代。
とわけもわからず戻った途端に首根っこをつかまえられてまくし立てられた島は言った。

「お前、飯食ったのか? 俺、腹減ったから行くぞ――食いっぱぐれるのイヤだし」
え、と古代は戸惑った顔をした。
少年宇宙戦士訓練学校に入学して2年目――ふたりとも15歳。いや、島はもうじ
き16歳になる。まだ少年の面影を色濃く残し、詰め込まれる知識や、訓練の内容
はすでに大人と同じように課されはじめてはいたが。
「飯なんか食ってる場合じゃ…」
……こいつは昔っから何かに夢中になってしまうと寝食を忘れる。まったくもう。
「だめだよ。お前ただでさえ細っこいんだから、食わなきゃ。――それに夜中
腹減るぞ」
「あ、あぁ…そうだな」と素直に戸口にくる古代進。

 だが彼は食堂へ向かう道すがらもずっとその興奮を同室の親友に対しまくしたて
続けた。

(乗りたいな〜)
憧れ、が具体的な格好で目の前に現れた。そんな気がしたんだ。
――願いが口に出たわけでもなかろうが、島が言った。
「だって古代。お前、砲術だろ? 戦闘機なんてどうすんだよ」
そんなこと、言われなくてもわかってますっての古代進である。

 父や母や――親戚の小父ちゃんや叔母ちゃんや。――あの頃の僕の健康と学校
の友だち。
そして、優しかった兄さんも今は宇宙そらの下。
大事なもの、全部奪っていった敵が憎い。
 それだけを思って此処へ来たけれども。
だけど、ここで逢った連中や、そしてやっぱり生きがいも見つけていく。
男の子なら誰でも持つ野心や、憧れや、闘争本能。
自分の中にもそんなものがあったんだ、なんて気づける15歳ではなかったけれども。
 宇宙を自分の手で縦横無尽に飛べたら、どんなに素晴らしいだろう――。

 もちろん、古代だってわかっていた。
謎の敵を蹴散らすためには、最低でも戦艦じゃなきゃだめだ。
いくら航宙機で飛び出しても、そこには届かない。
戦艦で砲塔を撃つかーーあるいは。
戦闘指揮官になること……その程度には冷静である。
 「お前、別科取ったら」
飯を食いながら目を上げて、ふと島が言った。
「え?」
「テストパイロットに現役回せるほど余裕ないんだってさ」
涼しい顔して、目の前でオムレツっぽい塊をつついている親友。
訓練生おれたちの中からも何人か選ばれるらしい」
「ほんとっ!?」がたり、と立ち上がって古代が見返すと
「な、なんだよ〜。もう少しなんだから食っちまいな」
と。だから小言親父なんて言われるんだよ、優等生くん。
 しっかしよくそんなこと知ってるな、島。
 へへん。まぁそのへんがね。島大介さまの実力ちからさ、なんてうそぶいて。
「ちぇ」と横向く古代進であった。

 砲術専攻とはいえ。航法を専攻し希望している島にしても。
現在は非常時だった。
学ぼうと思えば他科も学べたし、何故かこの期は、専科のほかの授業や訓練もけっ
こうあって……並じゃないキツさは臨戦態勢だからか、と思う。
だけれどもしかして――卒業を待たずに実戦行きなんじゃないか、なんてありがた
くない噂も飛んで。
 (望むところさ――)
古代進は人知れず拳を握り締めた。

 それを何を勘違いしたか、島が見て
「来週あたりテストパイロットの試験あるみたいだぜ?」
シミュレーションでは抜群のセンスを示している2人である。
「おうっ」といってもまだぺーぺーの新人2人。何ができるというわけでもない。
「おい、島」「なんだよ」「お前も一緒に受けようぜ」「な、なんだって」
「大きな艦も小さな戦闘機も同じだ」
「そんなわけあるかっ」
「え? だってどっちも“パイロット”だぜ?」
 島は、頭を抱えたくなった。――お前みたいに誰もが抜群の戦闘センスを持って
て何でもできるわけじゃないぞ〜。
顔上げて親友を見ると、どうやらしごく真面目に言っているらしい。
「あぁ…わかったよ。テスパイなんて受ける気ないけど(時間ないもんそんなの)、
専攻だけは申し込んでみようかな」
自分の本業しごとになるかもしれないことに、役に立ちそうなんじゃないかと
思ったのが正直な処の島大介であった。
 これが後に、彼らを“特別訓練”に投入するきっかけにもなる――。

crecsent icon


 それから数か月後。
 まるで垂直のように飛び上がり、きれいなカーヴを描きながら落ちてくるコスモ・ゼロ。
『行って、帰ってくるだけでいいわ――まだ地上の様子は不明。危険は冒せない』
技術責任者と教官の指示のままに、古代進のコスモ・ゼローZWQ01は地下都市か
ら地上へ飛び出すと、空気の薄くなり赤茶けた地球の――文化の残骸を見やって同
じ穴から地下へ降りた。
「感度良好――」
『きれいなもんね……揺れは?』
「調整誤差範囲内――」

古代進はコスモ・ゼロの試作機に実際に乗るライセンスを獲得した。
「お前、本当にやっちゃうんだからな」
呆れ顔で言う親友に
「お前こそ。別科までついてこなくてもよさそうなものなのに」
ふん、と島は皮肉に笑った。
「砲術に戦闘機が操れるなら、航海士にだって操れるっ」
――島だって大概負けん気が強い。
 それにさ。
 島大介も見たのだ。
親友・古代進が見た機体を。シルバーグレイに輝く、シンプルで、輝かしくて。
俺たちの未来をつないでくれそうな、コスモ・ゼロ。
「陸海空宇宙まで両用どころか全部イケるらしいぜ」
「へぇ――そんな重いの飛ばせるのか」
「なんでも新しい合金使ってるのと……どうしてだろうな」
「おい、知らねぇのか」
「知るかそんなもん。――しばらくテスパイやってるうちに知れるだろよ」
だけれど。

 格納庫に納まったプロトタイプと2機の新作コスモ・ゼロは確かに美しかった。
「キレイだな――」
「きれい、だよな」
ため息をつきながら。

「戦闘機科の連中、悔しがってたぜ」
ニヤリとして島が言う。「まぁ確かに砲術の候補生にテスパイ取られたんじゃな、頭にも来るだろ」
「加藤、三郎ってったけ、編入してきたやつ。あいつもだぜ――おもろい男だな」
「あぁ。天才が2人もいるって。――がんばれよ、俺たちの期代表ってことで」
「あぁ……」
2人はまた黙ってそれを眺めた。

planet icon

のち、そのうちの1台は古代専用機としてヤマトに塔載され――その使命を
果たし終えるまで共に飛び、戦うこととなる。

――Fin
   before「ヤマト」訓練学校時代 A.D.2197年

綾乃
Count007−−04 Nov,2006


←新月の館annex  ↑進&雪100 indexへ戻る  ↓ご感想やご連絡   →三日月MENUへ


古代進&森雪100のお題−−新月ver index     
あとがき、のようなもの
現在のデータ
Cont001 No.57 コスモゼロ(改題「コスモ・ゼロ」)、Cont002 No.100 誕生、Count003 No.15 兄と弟、Count004 No.41 ヤマト艦長、Count005 No.21 再び…
Count007 No.001 一目惚れ

count007−−「一目惚れ」
本当はこれにユキちゃんも絡まって「ヤマト3」の時代にしようと思ったんですが、こうなりました。

 三日月本館や新月別館、お題や寄稿分などを含めると、80に手が届こうというこの1年間の私の品数の中に、なぜかこれまで“訓練学校時代”というのは1本もなかったのです。 古代進という人は、思いっきり暗かったんだろうか、でも本編を見る限り、その中でも愛嬌があって愛されて、皆が「こいつを何とかしてやらなきゃ」と思うようなヤマトの代表だったはずだ。だったら…というような話です。
島大介だって、あの「宇宙戦艦ヤマト」での熱血ぶりからすれば、昔っからあんな大人びた冷めた男じゃなかったでしょうね、きっと。育ちが良いだけに、わりあい素直で、ただまぁ自分を隠すのはけっこう上手だっただろうけど。頭いいし。
 というので、けっこう今回は島くんがツボ(笑)。
 とはいえ、艦載機隊な話になっちゃうよなぁ、私。

 第二期はタイトル下の6本の予定です。
 ご感想などいただければ嬉しいです。

inserted by FC2 system