candol clipartライバル −vs 兄
CHAPTER-07 (011) (017) (092) (052) (085) (042)



No.11・b【ライバル】
−−「ヤマト・新たなる旅立ち」より 帰路

(1)
 イスカンダルは爆発し、その血を引く娘が残された。

 古代守はヤマトに収容され、帰路、客分としてサーシャとともに地球へ向かう
こととなった。


planet icon


 「ちょ、ちょっと。またサーシャちゃんが泣き出したっ! 誰か古代さん呼んで
きてくれっ」
医務室の隣に臨時に作られたベビールームで、坂本茂が大声を上げていた。
横で徳川太助がわたわた。
――部下のコスモタイガー隊員たちが慌てて艦内へ駆けていく。
「“古代さん”ってどっちだよっ」
「とりあえず、艦長代理じゃない方っ」
「まったく――ややっこしいよなぁっ」そう言いながら駆けていく若者。
いくら訓練航海の最中とはいえ、生活班や航海班はそれなりに忙しい。
技術班は、だいたいにしてあまり数が乗っていない。そうすると、訓練以外の時間は
必然的に戦闘班の人間が最も時間があるわけだ。
――それで、「おい、ちょっと手伝えや」艦医の佐渡先生につかまって、赤ん坊を
あやすハメになった、坂本ほか数名である。
 意外なことに、“オレサマ”を地で行く坂本は、赤ん坊好きだった。
「妹が年離れてっからよ。ちっこい時子守してたし」従姉妹の女の子も近所に住んで
いて、子どもの面倒見るのは慣れてる、というのだ。
徳川も事情は同じで、兄の娘の愛子とは生まれた時から仲良しである。
子どもの世話は自信がないわけではない。――だがこの娘は一筋縄ではいかなかった。
「あ゛〜っ。俺どうしてこんなに嫌われちゃったのかしら」坂本が嘆くと
「言うな言うなって。皆、おんなじだよ」
びーびーと大きな鳴き声を上げているサーシャを前にして、困惑しまくりの2人。

 「おう、また泣かせてるのか。まったく、どうしようもないな」
声がして入り口を振り返ると機関長の山崎。「徳川っ。こんなところで油売ってる暇
ないぞ、早く機関室へ行って、残り片付けんかっ」
「は、はいっ」慌てて敬礼。後頼むわ、と坂本に行って慌てて駆けていく。
お、おい見捨てるなよ〜と坂本。
――艦内で数少ない既婚者であり子育て経験者の山崎は、忙しい合間を縫って時折
サーシャの様子を見にくるが…、なにせ機関部門は多忙だ。さほど力になれないの
が実際だった。
 そこへ古代守がやってきた。
 仮眠していたのである。――母親を失った乳幼児を抱えながら暮らすのは並大抵
のことではない。しかも出勤してそこから手が離れるということもなく、四六時中
同じ戦艦の中。たとえわが子でも、目の中に入れても痛くないほどかわいいとしても、
勘弁してくれよなのは人なら当然だ。
「すまん、坂本。こっちへ…」
 慌てて駆け込んできた守が、抱いてる手つきはあぶなげがないが、顔をしかめて
あやしながら困っていた坂本からサーシャを抱き取ると、子どもは機嫌よくにこにこ
と笑い、だぁだぁと手を伸ばして守の顔に触ろうとした。
「まったく困った子だな――癇が強くて」山崎機関長が苦笑するように言った。

 サーシャはいい子だなぁ。ほら、高い高〜い。
腕に抱いてあやす姿は、これが伝説の“スペースイーグル”だといわれてもすぐに
納得できるものではない。若い父親の柔らかい姿。
「――そうですよねぇ。俺たちこれだけ一生懸命なのに」
はぁと肩を落として坂本が言う。

 サーシャは古代兄弟以外に懐かなかった。
 どんなに優しくされても、子育てに馴れた相手でも。山崎機関長はじめとする既婚
の乗組員たち、それに島航海長もトライしてみたが、敢え無く大泣きされ、佐渡医師
にいたっては「こーりゃダメじゃ。古代かユキに任せろ」と匙を投げてしまった。
――年の離れた弟の面倒をみてきて、多少自信のあった島はショックを受けるし…。
 そう。そして――例外があった。
森ユキと、技術班長の真田である。
「ユキさんはわかるけどな〜」「看護師だもんな」
「だけどほかの人たち軒並み玉砕なのに」
「あぁだって」――身内みたいなもんだから、か?
身内って。
艦長代理とさ……だって。
 戦闘の緊張が去り、訓練は続くとはいうものの地球へ向かうだけ。
そんな艦内には、慣れもあって、いろいろな噂が飛び交う。
古代艦長代理と森生活班長のことは、新人たちには半信半疑だ。

鬼艦長代理――だが、サーシャをあやしている姿、古代守と共にいる様子を見ると、
あながち鬼ばかりではないのではないか…そんな風にも思えてくる。
 最初に手厳しいお叱りを受けた北野と坂本は特にそう思ったのだが、父親から多少
のことは聞きかじっていた徳川や、生活班の面々を通じて、古代の人となりも少し
ずつ知れていた。
 「いい雰囲気なんだよねー、サーシャちゃん囲んであやしてるときなんか」
「艦長代理か?」
「そっそ。とっても鬼には見えねーぞ」「ほんとかよ」
戦闘班で、今でもまだコスモタイガー飛ばせばびしびし絞られまくりの坂本や、第一
艦橋で常に緊張を強いられた勤務を続けている北野には、その姿の方が信じられない。

 ともあれ、ユキはまだわかるが、何故、どちらかというと“怖い顔”の真田班長
が近付いても泣かれないのか――現在のヤマトの謎の一つであった。


(2)
 古代進は困っていた。
 艦長代理は忙しいのだ。
地球防衛軍第13独立艦隊――ヤマトは単独で行動することを前提として作られ、
そしてそのままそれが踏襲された。確かにガミラス戦役からの復帰後の1年間は、
艦隊を組みその旗艦として働くこともないではなかったが。
その“艦長代理”のポストももう、長い――2年間。
だが古代は、この訓練航海が終わった時、その長きに終止符を打つだろう、と半ば
予想していたというのに。
 白色彗星戦の傷も癒えぬまま、人材の払底を埋めるべく旅立ってきた我々。そし
て新米の乗組員たち。彼らを「戻るまでに使えるようにしてこい」という、“絶対に
無理”な命題を与えられ、古代たちはそれでも最後の気力を振り絞るように、旅立っ
てきた。
――こいつらは戻ればすぐに次の部署に配属され、そして“隊長”“チーフ”と
呼ばれる身分になる。……一部はヤマトに残すとしても、だ。ほぼ全員が。自分たち
の時ならあり得ないほどの促成栽培で。
 選びに選び抜かれた初代の戦士たちからすれば、それはとても心もとない仕儀。
だが、第二次イスカンダル遠征となってしまったこの旅で――旅の目的は変わり、
戻ってからの地球での自分たちの去就も、予測できないものになっていった。

 そんな中。
 いずれにせよ、自分が最高責任者であることに代わりはない。
なのに。

crecsent icon


「艦長代理〜。お願いですー」
パタパタと駆け上がってくる音がして、戦闘機隊の――あれは坂本の部下か。
桜井と都築の男女一対が情けない顔でおずおずっと入ってきた。
「なんだ。どうした……」まったくもう。こっちは忙しいんだぞ、と振り向くと。
「サーシャちゃんが泣き止みません〜」「お願いですぅ、いらしてくださいー」
 「なんっ」
ぶはは、と島や南部の吹き出す顔が見える。「おい、古代。行ってやれよ」
「そうそう、艦長代理。ここは俺が見てますから」
「兄さ――古代守はどうした?」それでも威厳を取り繕おうとして振り返るのに
「お姿が…見えないんです」
「生活班長は?」「今、お手が離せなくって……ただでさえ、いろいろ遅れてい
るのを無理していただいているようで」

 ったくもうっ。自分の娘の面倒くらい、責任もってしろよっ!

尊敬しまくっている兄ではあるが、現在は客分である。ヤマトの機能に影響を与え
ないで欲しいっ。身内だけに頭に来ても――仕方ない。そろそろミルクの時間じゃ
ないのか? など思ってしまう古代もしっかり姪ばかかもしれなかった。

 どこか怪我でもしたのか、具合がわるいんじゃないかと思って。
あまりびーびーと泣くので心配になったらしい。坂本は格納庫で当直。
困った挙句に恐る恐る進を呼びにきたというわけだ。

 およ?

慌ててベビールームに駆け込んでみると、そこには、御機嫌の様子でにこにこと
笑っているサーシャと、そのベビーベッドを覗き込んで微笑んでいる兄・守とユキの
姿があった。
入り口でえ、と立ち止まってしまう。
――あまりにも、良い雰囲気だったから。だとはとても認めたくない進である。
 ふと、ユキが顔を上げて目線が合った。
「あら? 古代くん? ――艦長代理。どうなさいました?」涼しい顔で。
「い、いや……大丈夫なら、いいんだ」艦載機隊の2人に、しっ、と目線をやって。
守がサーシャの収まっているゆりかごを揺らすと、サーシャは泣き疲れたのか、
すやすやと寝息を立て始めていた。
それを見て、マドンナのように微笑むユキ。
 「さぁさ、外野は行って。やっと静かになってくれたんですからね」
なんだか追い出されるように部屋を出されて、俄然、納得いかない3人である。
「――もう今日の整備とシミュは終わったのか?」
なんとか威厳を取り繕おうとして、古代は2人に向き直った。
「い、いえ……坂本隊長が当直だからって」
「私も、整備は完了していますが、シミュがまだ…」
「一日の分はその日のうちに消化しろ。ここはよい、早く行けっ」
 少々後ろめたくはあったが、2人を追い出すと、進はちぇ、と口の中でつぶやい
てまた艦橋へ向かった。

crecsent icon


 噂が駆け巡るのにさほど時間はかからなかった。
昔からの事情を目の当たりにしてきた第一艦橋ブリッジクルーは別として、
それを知らない若い連中や、他部署の人間たちは…。
 古代守さんと生活班長って良い雰囲気じゃねぇ?
 サーシャちゃんあやしてる様子って、まるで…
 ユキさんてスターシアさんに感じ似てるって言われてるもんな
 あぁ、そうそう。俺も初めて見たときそう思ったんだ…

無責任な噂は流れまくる。
 「古代さん、気をつけないと、危ないんじゃないですか?」
相原がからかうように言って、「なにがだ」憮然としたまま古代は前を向いて、見え
もしないその先の航路を眺めるふりをした。
「ひゃっひゃ。ユキのことですよ」南部が横から混ぜっかえす。「南部っ!」
「――そーいや、最近いつもベビールームでよい雰囲気だよな」「太田っ!!」
「そ、そんなの、関係ないっ。兄さんは兄さん。ユキはユキだっ」
 そういえば、ユキは最近は定時以外は、あまり艦橋に寄り付かない。
それは、生活班員がほとんど乗っておらず、訓練生上がりの者たちがそれを兼任し
ている今回の艦内において、ユキが艦橋にじっと落ち着いていられる余裕がないこ
とに起因しているのだが、他のことが気になっている古代はそれに思い至らない。
彼には兄・守のこと、そして島のこと、サーシャや地球のこと。考えなければなら
ないことも山ほどあったから……それほどまでに、艦内のことはユキを信頼して任
せていた処がある。
 だが、言われて見れば急に気になってもみる。

守兄さんと、ユキが――? え? 嘘だろう!?


←新月の館annex  ↑進&雪100 indexへ戻る  ...続き↓  →三日月MENUへ

背景画像 by「一実のお城」様

Copyright ©  Neumond,2005-07./Ayano FUJIWARA All rights reserved.


inserted by FC2 system