永遠の誓い- eternity
CHAPTER-09 (013) (045) (010) (027) (028) (007)





 走り出したい想いを精一杯我慢しながら、森ユキは英雄の丘の外れから天空を見
上げる。その早朝――ヤマトがついに帰ってくるのだ。

「今日は良いから、迎えにいってやりなさい」
長官の温かいお言葉に甘えるようで、ただでさえ人出の不足している現在の状況で
は申し訳ないとも思いつつも……しかしそうしないではいられないのも確かだった。
(ヤマトが帰ってくる――)
その喜びと興奮は……まだまだ解決しない問題を山ほど抱えていた私にとっても、
あの、懐かしく慕わしい人たちとふねが、無事に帰ってくることは――どれほど。
 あぁもう、言葉でなんか表せない。

 初めて交信に立った時の、あの瞬間を。
「古代くんは…」
そう言ってしまった私をとがめることなく、微かに笑って、その艦長代理の姿を画面に
出してくれた山南艦長の姿と、そして、画面いっぱいに広がった顔で、ただ一言
「帰るよ…、必ず」と言って、切なそうに見つめてくれたあの人と。
 その後の戦いの報告も聞いている――山南艦長が亡くなられた。それに…。
辛い戦いだったんでしょうね。
私の方も……地上部隊が壊滅したといっても…残された仕事は膨大で。日々安穏と、
貴方たちを待っていたわけではなかった。
それでも。
古代くん――貴方に、生きて逢える。
 そう思うだけで。
ヤマトが回天し、太陽系に入ったと聞いた2日前から、また眠れない日々が戻って
きた。その頃、ようやく私は1人で、私たちの官舎へやに戻ってきてはいたけれども、
冷たい記憶はまだ生々しく、そして、心無い噂と、混乱した地球は、まだ私を
休ませてはくれない。――ヤマトが戻ってきさえすれば。そして。
 古代くん――。

 どう言ったら良いのだろう。
言葉でなんか表せない。……あの辛い日々の中で、まるで呪文のように唱え続けた名。
もう数時間で、逢えるわね。
 わけもなくドキドキして、生きていることはわかっているのに。それでもまだ信じ
られなくて。あの絶望的な日々と、苦しい夜には、不思議なことに信じていた彼が
生きていることを。絶対に元気で、皆と一緒に戦っていると、信じていたというのに。
いざとなったら意気地なしになっちゃいそう。――ユキちゃんらしくないぞ、私。


 明け方の光を突くように、キラリと頭上に光るものがあった。
雲の陰から姿を現したそれは、紛れもなく、あの懐かしい艦体だった。
(――ヤマト!)
なんて、きれいなのかしら……。
 あっという間に豆粒ほどのそれは躯体を持つ、艦の形になり、頭上を雲のように
覆った。そして頭上を横切り、目の前に遠く見下ろせる西宙港へ吸い込まれていく。
……宙港へ迎えに行くことも考えないではなかった。
でも。
今、私があそこへ行くべきではない。……そのくらいの理性はあったので。
 森ユキは噂の的。
重核子爆弾の情報入手で、いろいろ言われちゃっているし。
それに、古代くんの顔なんか見たら――理性なくしてしがみつかないっていう自信も
ない。そんな処へ、記者団やら防衛軍の人やら集まっている処で、またそんな派手な
パフォーマンスをしてしまったら……何を言われるかわからないし。
 だから。
 此処で――すべての出発点になったこの丘で。

 その頃、艦橋からはその英雄の丘がパネルに表示されていた。
何気なく相原が写していた地表の風景に、ユキが写ったのだ。
「お、あれ」「ユキじゃないか――」「本当だ。英雄の丘に…」
「何写してんだよ、お前ら」
最後の声は古代である。
 その横で、技術班長と航海長が目配せを交し、それに砲術長が同意したのを、
当の艦長代理は気づいてない。
 地球圏に入った処で、お決まりの『艦長代理のお言葉』があり、地上に降りてから
の引継ぎの手順が南部と島から艦内に伝えられた後。
艦は順調に高度を下げ、安定した飛行で着艦した。
 「艦長代理」
島が改まって言う。「今回は、お前は率先して艦を降りろ」
「なぜだ? 艦長亡き今、艦の責任者は俺だぞ、全部確認して報告する義務がある」
「いいから、古代さん。今回はともかく早く、英雄の丘へ行ってください――」
南部が続けた。「そんなわけにいくかっ」ムキになる古代を、真田がさえぎった。
「お前は、残してきた乗組員に委細を報告する義務があるだろ――」
誰のことを指しているのか、皆がわかっていた。「しかし、真田さん……」
「明日ハンコ付きに来てくれればいい」と島が言うのに。「航海長権限だ」
「そんな権限があるかっ」古代は少し赤くした顔でそう言った。
「――長官からも、そういうお達しです」
インカムをかぶっていた相原の言葉がダメ押しになり、
「少しは俺たちを信用しろよ――新乗組員たちのお守もちゃんとするからさ」と、
言う島の言葉に押し出されるように、古代進は艦橋を出された。
 ドッグを出るまでは駆けつけた人々に挨拶を敬礼を返していた古代だったが、その
外に出た途端、駆け出した。
英雄の丘はそこから見える先にあったのだ。


 「ユキ――」
吹き上げる風を受けて宙港を見下ろしていた森ユキの耳に、木陰から飛び出した陰と
その声が突き刺さる。
振り返るのが怖かった。だが、満面の笑顔で――。
「ユキ――」「古代くんっ」
どちらが駆け寄るのか、吸い寄せられたかわからないほどだったが、抱き合い、
見つめあい、互いの体温を感じながら名を呼び合った。
(生きてたのね――本当に、無事だったのね…)
(ユキ……大事な、俺の、ユキ……)
手を絡め、首を抱き合い、くちづけを交し…。
温かい胸と、確かな肉体の手ごたえを感じ――そして。
その腕に包まれていると、冷たい、心の底にあった塊のような不安が、すぅっと溶けて
いくような気がした。
 「古代くん…」
そうしてゆっくりと、ユキの目からは涙が溢れた。
「すまん――ごめんよ……俺は」「ううん……もう、言わないで」
互いの唇がそれを塞ぎ、言葉は途切れがちだった。
もう、永遠に。離しはしない……。
 そうして、どのくらいの時が経っただろう。
夜はすっかり明けて、水平線の彼方にあった陽はもう、中天高く上っていた。
 「寒くない――?」
ううん、と首を振って、その仕草が愛らしくまた古代はその髪を撫でた。
「本当に……無事だったんだな」「辛かったでしょうね…」「それは、そっちこそ」
見詰め合った瞳の中に、それぞれ苦悩の影を感じながらも、今はただ、会えただけ
――生きて、それももっと酷い状態でも仕方なかったのに、五体満足で、無事に
逢えただけでも。
2人にとって、それがすべてだった。

 行きましょうか――。
 手をつなぎ、ゆっくりと2人は歩き始める。
林の中を抜け、エアカーを置いてある丘の裏手まで。
つないだ手の温もりと、時々微笑み交わす笑顔が、大切だった。

 永遠に……。

この手を離しはしない。
あの時、離してしまった手を――今またこうして結ぶことができた限りは。

「あ、そうだ。古代くん……手はもう、良いの?」「ん?」
「誤魔化してもダメ。右手、酷いのでしょう?」「ん、あ、あぁ…」
あの時、触れただけで離してしまった手――そこまでの戦闘で神経まで傷ついていて、
それであんなことに…。
 「怪我を軽くみるとどういうことになるか、身に沁みた?」
ユキは悪戯っぽい口調で、ここぞとばかりに言い募った。
「沁みた沁みた――」参ったな、という風情で古代が言う。「もう……あんなことは、
二度とご免だ」
そういい様、また抱きしめられて、腕の中に包まれる……。
「古代くん――」お家に帰れなくなっちゃうわ――。
 「ごめん」「――また謝る。生きて、逢えたんだから」
また涙がこぼれそうになって。だめだめ、ここで感情に流されたら、どうなっちゃうか。
ともかく帰りましょう――2人だけの、あの部屋へ。
あぁ、そうだな…。


 明日からはまた、もしかしたら苦しい日々が始まるかもしれない。
地球に残された船はわずか――その中で、ヤマトや乗組員が果たさなければならない
役割はこれまでになく大変だろうし。それに……きっと、古代くんも。私も。
傷は簡単には癒えないだろう。だけれど。
(生きて、一緒に居られれば――)
乗り越えられるわ。――そう信じたい。

 俺は、今度こそ――ユキを守らなくては。
失われた、自分を愛してくれた命――幼ない、最後の肉親。
そして、此処まで戻る間にすら聞こえてきた、ユキ自身に関する噂。
真偽ではない――1人、戦い続けただろう彼女を。
この大切なひとを、今度こそ、守る……自分のありったけで。
そのためになら、何でもできるさ。

――そうしてまた2人は微笑み合い、家路を辿った。


Fin

綾乃
――「ヤマトよ永遠に…」後 A.D.2202

Count048−−07 Apr,2007

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あとがきのようなもの

count048−−「永遠の誓い」
 
『ヤマトよ永遠とわに…』 は、切ない話です。幼いまま命を散らしてしまった真田澪=古代サーシャのこともあるし、古代進と森ユキが離れ離れになってしまうし、ユキは地上で様々な意味での戦いを強いられます。愛する人が生きているかどうか、それを信じられるかどうか、そういう心の戦いもあっただろうし、もっと切羽詰ったものに日々晒される。それとヤマト全編の中で“本土決戦”“植民地”の発生した唯一の物語でした。
 じっくり書きたい、と思いつつも、相方との摺りあわせがなかなかうまくいきそうにもなく、私はより残酷なシーンんが浮かびます。それは、デザリウム本星へ攻めていったヤマトの面々にとっても、残されたユキやパルチザンにとっても。なんだかなんだ言っても書いている話は多いですね。相原くん視点で島くんを描いたNOVEL 「Eternity」 にはじまり、連載中の加藤四郎と真田澪のエピソードを綴った 「イカルス神話」、パルチザンとして戦う元戦闘機隊員、宮本暁と坂本茂の 「地に潜り、軌跡追って」、未完ですが北野哲と森ユキを書く 「戦士」。その前後を書いた島大介主役のNOVEL 「一粒のりんご」 …まだあります。
 古代進と森ユキの心の傷とその互いの愛情については、dixで短編4部作で書きかけていますが、いつ頃出来上がることやら。その前に、加藤四郎視点や、何よりも真田志朗と澪、そして古代守について書きたい。
ともあれ、書きたかったことの、ほんのほんの一部です。再会と、古代進の誓いを。…この話は 「Eternity2」 に続くのです。No.29「いつまでも…」も続きの予定です。

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