air icon 君へ…

CHAPTER-09  (013) (037) (010) (027) (028) (007a)


37. 【君へ…・1】
・・・はじめに・・・
 このテーマ「君へ」は、いくつかの話を書こうと思っています。
重い言葉だと思うことと、ヤマトの彼らの想いが、さまざま込められているような気がします。
最初は、山本明篇 です。
 山本明については 三日月小箱/新月の館−オリジナル設定 です。
好きなキャラクターのイメージを壊したくないという方は、絶対にお読みにならないでください。
お読みになる場合は、自己責任で、お願いいたします。当方では一切、関知いたしません。

この話は、 お題100−No.23「絶対反対!」 の裏番組で、
さらに、No.39「信じてる」 で 山本が古河大地に語らなかったエピソードです。

(1)

――A.D.2200年、月基地


 ほの暗い明かりに浮かぶ格納庫にじっと佇んでいると、過ぎた時間が次々と蘇ってくるような
気がした。
まだわずか数か月前。毎日のように此処に寝起きし、愛機とともに命賭けていたのは。
――そのブラックタイガーも、現在いまは博物館行きになり、此処には無い。 数機が訓練学校に、
実習用に残され、数機を科学局が引き取ったというだけだ。
――自分の機を博物館に飾っておきたいと思う戦闘機乗りはいないだろう。だが解体され、命
を失うのと、どちらが不幸だろうか。
幸いにも山本の弐番機は訓練学校に回され、辛うじて倉庫の隅で現役を永らえているという。
――後に続くわかい連中の手足となり、導き手となってくれることを願うだけだ。
 見上げる中に、白銀のコスモ・ゼロだけが1機、仲間を失い、ポツリと置かれているのが
見えた。

 「――山本、こんなところに、居たのか」
よく響く特徴のある声がした。
上を向いたまま、「……あぁ。お邪魔しているよ」と言った。
 すでにこのヤマトは山本明の乗艦するふねではない。
現在、元ヤマトの戦闘機隊は、各地に散って次世代の育成に務めていたり転向組と一部の
メンバーを除いては、すべてこの月基地に配置されている。此処に搭乗している乗員は居な
かった。
――過去の、もの。か……。
横に古代の気配があって、一緒に並び、見上げたのがわかった。
 頭一つ低いこの艦長代理は、山本にとって、永遠の上官であり続ける。
こいつのためなら――その想いは今も変わらず、このヤマトと、古代進という青年へ向けられ
ていた。
……それはまた。同じ時を戦った者同士、という――それだけではない。山本にとって。

 「寂しそうだろ」
苦笑、という口調が、内心を読み当てられたような気がして、山本は振り返り盟友を見た。
「ゼロもな。指揮機の面目ねーな」そう返すと、
「あぁ……でもな」
「飛び出すこともあるのか? 艦長代理」
「あぁ……自分で出ないと砲手は砲手でな……わかるだろ」
少し困った目をして言う古代の表情で、その先は言わなくてもわかった。
 急造された防衛軍。残って地球にいた者たちの中から、それでも使えるヤツを――と配
属された新人たちや残存兵力。中でもワープ航法を使える長距離艦は、ヤマトしか無く、
当初はそれに頼り切っていた地球側も、新造戦艦群が急造されはじめると、成績の良い
者はそちらへ回されていった。
……現在、ヤマトに乗っているのは、そうでない者。
外周艦隊へ出しても惜しくない――そして志願した者の一部。……何故、一部なのかは、
それは。
(ヤマトを信望する者が集えば、ある種の脅威になる――)
古代進とヤマトの名の許に集いたいと思う若者が増えれば、それはまた、上部の意図に
沿うものではないのだろう。
廃艦さえ噂されるヤマトの去就が、この月基地にまで聞こえていないわけではなかった。

 「お前、もう今夜から此処へ?」
「あぁ――出航前夜に艦の責任者が基地でのほほんと過ごすわけにはいかん」
「――ゆっくりしてけばいいのに。どうせ、しばらく内惑星には戻れないんだろ?」
「あぁ……だが、そうも言っられんよ」
沖田艦長からヤマトを預かったのは自分だ――ほかに、できそうなこともないから。
 「泊まってくか?」
柔らかな声で古代が言うのに、山本は頷いていた。
くい、と手で猪口を上げる仕草をするのに、山本はくすっと笑って頷いた。
「久々だ。飲むか」「そう来なくっちゃ――行こうぜ」
 電気系統を節約のため最低まで落とされた、ほの暗い艦内へ歩き出す。
格納庫の通路に、久しぶりに笑い声が響いた。



(2)

 ウィーン、とエレベータが上がっていく先を察知して、山本は驚いた。
「これは…」
古代は「職場ってわけにいかんからな」
第一艦橋へのエレベータではなく、その上へ向かうのに乗り換える。
 くいん、と開いた部屋は――艦長室だった。
窓のシャッターは下ろされ、整然と整えられた部屋には塵一つない。
ベッドも片付けられ、テーブルと椅子、そして生前沖田が愛用した本棚はまだそのままに
残されてある。
「――次の艦長が決まるまで、インテリアは変えてない。あまり殺風景なのもヤマトこいつが喜
ばんだろうさ」
中へ入ってしばし見回す山本に古代は言った。
「あぁ……よく、呼び出されて怒られたな」口から言葉が滑り出す。
「山本はさほどないだろ。加藤や俺はしょっちゅうだったけどな」
明るい口調になり、さ、どこでも座ってくれ。
そう言うと、隅から一升瓶を取り出した。
「おいおい……」
 2人は座すと、酒を飲み始める。

 「お前は、此処は使ってないのか――」
「あぁ。俺は、代理であって艦長じゃない」
「だが、艦の責任者であることには違いないだろう? そう言われないか」
くす、と古代は笑った。
「――主計にはいつも言われてるさ。だけど、資格が資格だからな、あまり強いことは言わ
れない……それにベテランの主計官にしてみれば、俺みたいな若造に艦長として遣えて
給仕したり別扱いするのはやりにくいだろうよ」無駄だしな、とも言った。
「だけどな、古代――」
「艦長不在のヤマト――今のこのふねの、不安定な立場、そのものさ」
くい、と杯を煽る。
 「“ヤマトの古代”、か――」
自嘲気味に言葉を吐いて、だが一緒に飲むのは本当、久しぶりだな、と言って古代は笑う。
その笑顔を見、山本は胸の奥が苦しいと思いながらも、この時が嬉しかった。
 「――月基地復興ってんで、すぐだっただろ。俺なんか第二だから真っ先に飛ばされた
もんな」
「そうだったな……貧乏くじだ、なんて。だが、お陰で司令職、ちゃんと務めてるみたいじゃ
ないか」
「――まぁな。第二基地なんて小さなもんだ。施設もたいしてあるわけじゃない。片岡さん
の傘下には違いないからな、司令っていっても実質は航空団の隊長だ」
「そうか…」






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