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CHAPTER-13 (017) (054) (052) (049) (055) (079)



★ご注意★ この話は『宇宙戦艦ヤマト』を基にした創作です。主役は古代進 ですが
オリジナルな設定等が苦手/イメージを壊されたくないというファンの方は
お読みにならないでください。
また、当艦オリジナル・キャラクターの母子が登場しますが、
古代進が森雪以外の女性との関係を描かれたくないとお思いの方も
(とはいえ、考えすぎないように)、ご遠慮願います。
佐々葉子と息子・加藤大輔 については、「学齢期−Da・i・su・ke」
「登場人物一覧」 を、ご参照ください。
★以上につき、ご了承いただいた方のみ、以下へ、どうぞ。(by 作者)
55. 【少年−a boy's day】


 ざざん…ざん。
ざん……。
波が、海岸を洗っていく。
 足元の岩場から入り江を越えて、遠くまで続く砂浜を波が洗っていく。
寄せては引き、また寄せて。砂浜に残るポツポツとした足跡も、何度か波が寄せて返すう
ちに、消えていった。
――岩に座ってそれを眺める古代進は、少しずつ小さくなっていく影を眺めていた。
遠くを見る目に、何かを思い出す表情を浮かべ。少し、微笑んで。

 幼い頃、駆け回った海岸。あの岬を回れば、小さな漁港があり、そこに小さな村落とす
ぐうしろに迫った山。そして町はその山の方にあった。半農半漁の村――。
いまはもう地形が変わってしまって、当時とそっくり同じというわけにはいかない。もち
ろん海岸線の形も――方向さえ異なるし、その村落も、仕事場以外は再建されていないが。
人々は新しく開拓された“谷”に住んで此処へ通っているけれど。
 だが、風も、海も、汐も――。
(あの頃と、何も、変わらない気がする)
太陽の光さえも、だ――。

 小さくなっていく影に、自分の姿を重ねていた。
こうやって見ていたのは兄か――父や母だったか。
海岸で貝を集めた。女の子みたいだな、と兄が笑った。でも、綺麗なものは好きだったし。
時々砂の中から出てくる沢蟹やいろいろな生き物が珍しかったんだ。
――世界が、変わるまでは。

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 傍らの低い崖の上からひょこ、と白い顔が覗いた。
「どうした? あまり直射に当たるとダメだぞ」
――宇宙飛行士は太陽光が不足しがちである。もちろん人工的に補給はしているが、免
疫がない、といってもいい。紫外線のバランスもほとんど戦前に戻ってはいたが、あまり
直射を浴びていると、古代の体には良い影響がないかもしれなかった。
 「ほい」と傘を差しかけて、覗いた顔から手足が伸び、ひょい、とその上に飛び乗る。
表れたのは、少年の母親である佐々葉子――古代の同僚で友人で、部下で……女房・
ユキの親友でもある。
2児の母親だというのに、相変わらず身軽で、まるで少女のような時があった。
「隣、座るよ?」
えへ、と笑って、水筒と弁当のボックスを差し出した。
 そうして、並んで。
潮風に吹かれるのは気持ちが良かった――。
言葉が要らない――ただ、地球の息吹と、それを与えてくれる自然の恵みを感じて。
それがどこから来るのか、おそらく思うことは同じ……たぶん、彼女なら。

 「お〜いっ」
いつの間に戻ってきたのか、大輔――彼女の息子が至近距離で手を振っていた。
「古代さぁん、母さ〜ん、来ないのぉ?」
古代は手を口にかざして叫ぶ。
「おお、何か見つけたか?」
「――蟹がいたよっ。見たコトないやつっ、ねぇ古代さん、見てみてっ」手に何か持っ
ていた。
 よしっ。とひらりと飛び降りて、砂浜に着地。
大輔の母親――佐々も面白そうな顔をして、息子のその様子を眺めている。
「お弁当、持ってきたからね。早く戻っておいで」2人にそう呼びかけると、自分はその
場所に座り込んだまま、手を振った。行っておいで、というように。

 蟹はしばらくじたばたと大輔の手の中で暴れていたが、あんまり持っていると弱って死
んでしまうから、離しておやり、と古代に言われて素直にうなずいた。
持って帰りたいけど――飼えないしね。そのへんは諦めが良い。……少しかわいそうな
気がするが、おそらく都心部へたどり着くまでに弱って死んでしまうだろう。
それにこれから産卵の時期だ――水から離してはよくないだろうしな。
 しばらくじっと、砂に潜ろうとじたばたする蟹を眺めていたが、潜ってしまい、そうし
て寄せてきた水が透明なカバーをかけて、そのあとも消すと――立ち上がった。
「はぁ、面白かった」
ちょっと残念そうな顔を、ぱっと明るく輝かせて。
「古代さん、ね」と見上げる様子は、とてもかわいらしい。
 古代は今、自分の手許に居ない次男坊――聖樹せいじゅをふと思い、心の中で首を振った。
(気にしても、仕方ないな――)
そうして、特上の笑顔を大輔に向ける。
 「ようし、大輔、相撲するか?」
「うんっ」
「どのくらい強くなったか、見せてみろ」
えぇい、とぶつかってくる温かい生き物。長男の守が上の学校へ上がってからは、なかな
か――古代自身の多忙もあって、こういうことができなくなっていた。大輔は父親と会
えない間隙を、そして古代は息子に会えない寂しさを。互いに埋めることができるのかも
しれなかった。

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