planet icon大嫌い!


CHAPTER-14 (068) (024) (034) (072:1 2 3 4) (067) (093)



72. 【大嫌い!】
= 1 =

 ふぅ。
マグカップから一口コーヒーを飲んでため息をついた佐々葉子を見やって、森ユキは手を
休めずに言った。
「もうじき終わるから、少し待ってね」
彼女は頭を振って、すまんと言った。
「気にしないで仕事してしまってくれ。勝手に訪ねて来たのは私の方なんだから」
そう言ってまた、ふぅ、と息を吐いた。
 ここは地球防衛軍本部のハイ・グレード・フロアである。佐官や重役室の並ぶ一角、ユキ
が主任を務める秘書ルームだ。
 土曜の午後のこととて、人はあまり多くない。葉子も休みなのだが、午後の予定が急に
なくなってしまったため、手持ちぶさたで旧友を訪ねてきたというわけである。
――私もこれで帰れるから、とユキは言う。
こういうことは珍しかった。葉子は葉子で、ユキはユキでいつも忙しく、たまたまユキ
は、週明けからの重役の出張準備で居残っていただけだった。

 「それにしても珍しいわね」
 うん? と葉子は少し固い表情で言う。
「フラれたんだ」
あら。とユキは面白そうに目を動かした。「それはますます珍しいわ」
「――飛鳥に。買い物に行こうって言ってあったのに、急にイヤだって」
それでせっかく空けておいた土曜の午後が無駄になった、というである。
 娘ってのは、難しいな。
飛鳥と葉子があまりしっくり行ってないらしいのは、なんとなく知っているユキである。
実の親子なのだが。幼い頃はあんなに仲睦まじい親子だったが、離れていた時期が長い。
中学生になると難しいのか――彼女あすかが十代に入る肝心な時期にまるで父娘家庭
のような生活を強いられた反動だろうことは想像に難くなかった。
(宇宙戦士家庭の、問題よね――)
自分自身、次男坊・聖樹せいじゅのことは頭が痛い処もある。いやまぁ、母の自分と
はある程度距離を置かれているだけで険悪というほどではないが、父親の進と聖樹は、ま
た互いに頑固者で歩み寄りの気配がなかなか無い。――しかも聖樹が訓練学校へ入ってか
らは、進も妥協を見せないため、その距離は開く一方――のようにも思える。
 ふぅ、とユキもため息を吐いた。
 秘書ルーム自体には窓はないが、隣の執務室からは高層ビルの素晴らしい眺望が開けて
いる。天気も良く、外は風もさわやかだろう。ユキはトン、と書類を置くと、PCの電源を
落とした。「さ、おしまい。――お昼でも行きましょう。少し遅くなっちゃったけどね」


 東京メガロポリスの商店街。週末の天気の良い午後に、熟年の美女2人――しかも制服
姿は目立つ。かたや濃紺に鮮やかなラインの入った上級尉官の軍服(さすがに制帽は取っ
ていた……公用以外の外出時、女性は許されるのが慣習である)、かたやオフホワイトのス
ーツからスラリと伸びた足が見事。2人とも首に巻いた赤と緑のマフラーが鮮やかだ。
 道行く人が振り返り、またはウィンドウに映る姿に目を留めていく。
そんな視線にも慣れっこになっていて一向に気にせず、女子学生のように時にはしゃぎな
がらウィンドウ・ショッピングを楽しんでいた。
「……なぁ、ユキ」「なあに?」
「やっぱ、私ら、目立つよな、この制服じゃ」「そうね…」
買い物に行くことだし、買って着替えちゃおか。
 ということになった。
 2人とも買い物は大好きだ。一人でウィンド・ショッピングするのも良いが、気の合う
友人とお金を遣うのは、かなり気持ちよい。
2人して春物の新作に身を包み、ショッピングモールの路上の姿を現したのは、それから
小1時間も立たない頃だった。
互いに褒めあったりして。
 「なかなか良く似合う、それ。たまにはそんな色もいいだろ」
「そうねぇ……わりと淡色系のが好きだと思ったんだけど――原色ぽいのも気持ちが引き
締まっていいかも」
「まだ若いんだしな」
「まぁっ、失礼ね。一つ貴女の方が年上のくせにっ」
「うっさい。私はいいんだよ、歳は取らないことにしてるから」あはは、と葉子が笑うのを、
「でも、いつも軍服ですもんね。そういうフレアのスカートも似合うわよ」
片目をつぶってみせてユキも言った。





←進&雪100 index  ↓next   →新月・扉
背景画像 by「Dream Fantasy幻想宇宙館」様

Copyright ©  Neumond,2005-08./Ayano FUJIWARA All rights reserved.


inserted by FC2 system