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84. 【First kiss】

 「えぇっ! 何ですってぇ!!」
生活班長室に、その班長の驚いた声が響いた。
通路の外を通りかかった佐々葉子は、その親友の声にびっくりして、ふと立ち止まる。
――立ち聞きするつもりはなかったんだけどね。
 「しっ。声が大きいですよ。――でも、生活班長さえオーケーしていただければ、
影の賞品はそれってことにしておけば、参加者も張り切ると思うんですけどねぇ」
「張り切るって…」いっても、本人が張り切ったからってどうなるものでもない。
投票するのは自分以外の人間――要するに人気投票みたいなものだからだ。
抵抗のあるユキは。
「……でも、それって。優勝した人がイヤだって言ったらおしまいじゃない」
「言いませんよ――」
「え? それ、どういう意味」
「だって班長。考えてもみてくださいよ――ただでさえヤマトの男の人たちなんて憧
れている人多いんですよ。ずっと一緒に旅を続けていても、そんな憧れの人に話しか
けるチャンスなんかなかなかないじゃないですか」
班長は別ですよ、もちろん。いつも第一艦橋にいらして、あんな素敵な人たちとご一緒
だし、とユキの部下である生活班員の女性は続けた。年はユキと同じ18歳だが、
少々ミーハーで、常識的で、だが生活力たくましく。なかなか頼りになる班員で――
確か、三波といったな。副班長とかではなかったはずだが、けっこう女性の間でのキ
ーマンではある。
「ミスター・ヤマトなんてことになったら、それは、皆、憧れですもん。――だから、
選べるようにしておけばいいんです」
やけに熱心なのは、自分にも可能性があると思っているのだろうか。
「望みの相手に艦内1回デートか、ミスター・ヤマトへのキス1回。どっちでも良い
でしょう? あとは男性陣一同からプレゼントがあるそうですよ」
と男性側の生活班員と、何故か熱心に話を進めている男性隊員側幹事の一人、南部砲
術長との間でそう取り決められたらしい。
 でもね。
と少し悪戯めいた声になって、三波は続けた。
「どう考えても生活班長が一番、可能性高いんですからぁ……覚悟決めておいてくだ
さいってことなんです」
少し悔しいですけどね。でも、皆、憧れなんですもん――だから。
 そういいながら、「では、準備に行って参ります」と部屋を辞そうとするところを出
会い頭にぶつかりそうになって、立ち聞きしていたのがバレないように咄嗟に避けた
葉子である。
「あ、ごめん」「すみません」といいながらパタパタと駆けていく。
かわいいな、あぁいう女の子も。ユキもそう思ったのか、ふと葉子と目が逢った。
 ぶ、と葉子が吹き出すのをユキは睨んで「じょおっだんじゃないわよ」とふくれた。

 地球が近づいていた。
出かける時は、必死の想いで、「必ず帰ってくる」と誓いのためにフェアウェルパーティ
を行なったのは記憶に新しい。だが、帰路。戦うべくガミラスもなく、ひたすらコスモ
クリーナーDを地球へ持ち帰るためにその道を帰るヤマト。
太陽圏が見える距離になって、ダレた艦内を引き締めるためにも、「パーティをやろう」
という話になり、生活班がその仕切りをすることになった。
テーマは難しいのだが、お花見、だそうで。
 宇宙の真ん中でお花見? と想うだろうが、要するにネタは何でも良いのだ。
相原がコレクションで持っていた記録映像と、日本の四季の写真。さすがにヤマト農
園でも桜は栽培していないので。それと。――もうじき沖田艦長のお誕生日だそうだ。


 「それで? 人気投票だって?」
そうなの、とユキはため息を付いた。
「私は、人が人を選ぶ、なんてお遊びでも好きじゃないんだけどな。なんだか妙に皆、
乗り気なのよ」と苦笑する。
どかり、と空いていたイスに座り、佐々もふぅんと息をつく。
「自分がその対象になる、とかいうのがイヤなんじゃないの?」と言って。
「葉子までそんなこと――」
だが。どう考えても男性の間で人気投票などすれば、この、目の前の森ユキが一番
だろうことは想像に難くない。
たとえこの女が、一途に艦長代理・古代進だけを思い続けていることが、多くの人に
バレていたとしても、だ。
女の勘は鋭いとはいえ、ユキはどうにか女性たちの間でその気持を隠すことには成功
していた――特に部下に女性が多い生活班員。だからその雑談や噂話にもあまり
加わらない。だが、常に仕事を共にし、時には命すら対等に渡り合う第一艦橋の面々や、
格納庫――艦載機隊のメンバーにはその気持はまるでバレバレで。
何故、古代自身が気づかないのか、ヤマト七不思議のひとつ、とまで言われている。
 「メインエベントにするには、どうかしら、と思うんだけどね」
だが。
孤独に苛まれ、食糧の不足や、閉鎖された艦内、また戦闘がなければないで、若いエ
ネルギーをもてあます100名余の精神衛生を健康に保つのもまた生活班の一つの仕
事である。
「艦長は何だって?」
「それが――」
とユキは困った顔をした。
「なんだか、喜んで賛成なさったの……」まったくもぉ、というユキである。
 佐々は可笑しくなった。
アナライザーがユキのスカートめくりを治してくれと艦長にねじ込んだ時も、笑って
いた沖田だ。古代や加藤から聞く話などでも、素顔は意外にひょうきんな親父で、若
い頃はきっとなかなかお盛んだったんじゃないかと思わせるような処がある。
そんなところも魅力的な、艦長。
学者出身だといったが、古来学者は行動的なものだし。佐々は笑うと
「いいじゃないか。ユキが優勝すれば、商品価値が上がって、古代も見直してくれる
かもしれないじゃないか」
からかうように言うと。
「もうっ。葉子なんて知らないっ」と拗ねる様子がかわいい。
 古代がミスターに選ばれたら堂々と告白できるじゃないか。艦内デートでも艦載機
デートでも、人までキスでも、好きにしたらいい。大義名分ができるぞ、と佐々はか
らかう。
葉子ったら――。
赤くなって言うが、少しはその気になっていることは、親友の目にはわかった。
 ユキはけっして傲慢な女でもないし、美人を鼻にかけて高ビーだというわけでもない。
 だが。
長年美少女をやっていると、世の中とそれなりに折り合う術も心得てくるもので、客
観的にみることも対処することもできるようになる。
――それで得をしていることも、確かにあるわね。
 森ユキ。けっこう、強い。
 佐々葉子は、ユキの、見かけのたおやかさによらない、そういう処がけっこう好き
だった。でなければ、あんな危機的状況の中。こんな処へ望んで乗り込んでくるはず
がない。だからこそ葉子も、信頼し、この親友を心安いと思うのだ。

 「でもね葉子」
「なんだよ」
楽しそうに、男は誰が上位だろう、なんてあげつらっていた葉子が、返した。
――まぁ艦内の人気派閥考えると、山本か、古代か、島だな。…案外、相原もかわい
いって評判だし、南部もモテる。加藤隊長も、まぁ…そだな。宮本もクールでけっこ
う人気あるみたいだし、工藤もダークホースかな。…そんなこと言ってみる。
「貴女だって、選ばれるかもよ?」ユキの爆弾発言。
えーまさか。と佐々は言った。
彼女は自分が、男からみて“女”の範疇に入るとは思っていない。男勝りといえば、
工作班の大槻なんかもその部類だが、女性らしい心持なんて持ち合わせていない――
と本人は思っているのだから始末におえない。
「山本くんや加藤くんは、絶対、私より貴女に投票すると思うわよ」
「ばっ」何言ってんだ、とかっと赤くなった。
その様子を見て、ユキが笑う。
「まぁったく――貴女もけっこう純情ね」くすくす。
葉子だって、美人でけっこう性格もかわいいのに。そうは見せないから女性隊員の間
では怖がられているし――男の子たちは対等に扱う。本人だって女の子として扱われ
慣れてないから。そんな処に惚れる人も、興味を持つ人も。私、何人も知ってるけど
な−。
 ユキは山本や加藤や宮本は、佐々に惚れていると思っていた。自分には親切で優し
いけれど、それとはまた違って。私も3人とも大好きだけどね――だって。工藤くん
や鶴見くんが本気で好いてくれてたことは知っていたし。それと、ぜんぜん、違うん
だもの。

 だが。
森ユキは、古代進だけが自分を見てくれればよかったのだし――ほかの女性が彼に
注目することは、ぜひに、避けたい。
たたでさえ、最近、艦長代理として仕事も板についてきて、人気が急上昇中で、焦って
るんだから――。
ん、もう。
同じ戦闘班として見張っててよ、変な虫がつかないように、って葉子に頼んでるのに。
 佐々葉子にしたところで。
意中の人はいる――だけど。
そんなことよりも。恋になんておぼれて関係がおかしくなるよりも。
あいつらとは一緒に飛び回っていた方が幸せだ――だって。それで十分だし。
心からそう思っていた。
 はぁあ。
 2人して。顔見合わせてため息つくひる下がり――。


すみません、この話はまだ続きます、、、
[to be continue...]

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綾乃
Count009−−15 Nov,2006

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