試験航海−the new Aquarius


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−−A.D.2205年
:お題2006-No.31
   
【試験航海−アクエリアス就航】


1.


「さて、久しぶりだ。いっちょ、行きますか!」
南部康雄が振り返って左手の拳骨で右掌を叩き、皆を見上げた。
「おうっ。いつでもこい、ですよ」と相原が珍しく気鋭を上げる。
片手を上げて太田が合図し、真田がニヤリと笑った。
――「行けます」
そんな中、少し緊張気味に艦橋中央の大きなテクタイト・グラスの前に位置を
占めている航海士・北野哲は、先輩たちに囲まれ、まるで自分が新人に戻った
ような気分になっていた。艦長・古代進の声が静かに響く。
「北野――準備いいか」「はい。山崎機関長、エネルギー値は」
艦長席の右手下から落ち着いた声が返る。
「充填、80%……85、90…100……110」
よしと古代がうなずいた。




「アクエリアス、発進、15秒前――」
「15秒前」北野が復唱する。
「10秒前…8、7、…5…3、2、1」
「戦艦アクエリアス、発進!」
「発進しますっ」
 ぐっと操縦桿が引かれ、戦艦アクエリアスの巨艦はぐぐっと艦首を持ち上
げた。注水された水中ドッグが開き、周りの景色が変わっていく。
「主砲、一応、発射準備しておけよ――エネルギー充填」と南部に向かい
「…まぁ発進しながら発射することは、地球圏では当分ないだろうけどな」
と古代は口の中でそう言い、
「あってもらっちゃ困ります。そのための地球絶対防衛圏なんですからね」
と、そのシステム構築を指揮した南部が言い、相原が大きく頷いた。
 「微速前進、0.6――いや、訂正。0.7に上げてください」
北野が山崎に指示を送った。
「ヤマトより随分軽い――」思わず口に出していた。
(通常型の輸送艦よりは、だいぶ重いな)
北野がふだん乗艦しているのは輸送艦《あさかぜ》である。
もちろん輸送艦と戦艦では、重量やパワーが全く違う。
 (数年前に一度、操舵しただけのヤマトの感触なんて、よく憶えていたな)
古代はその北野をみやって1人思った。
その背に、つい重なってくる面影がある。
(――島……)
その親友が逝ってまだ2年は経っていない。普段は押しやっているものだっ
たが、このシチュエーションでそれを思い出すな、という方が無理である。
北野の上に、その面倒をみていた親友の姿がかぶり、その安定した運行も
また、島の置き土産――もちろん北野の努力もあったが――ともいえた。
 艦橋の様子はまったくといってよいほど違う。洗練されたフォルム、広い
稼動範囲と、コンパクトな機械設計。それでありながらも様々な機能を搭載
している。それは惑星探査や長距離航行、場合によっては単独で外惑星へ
旅できる機能を持ったヤマトに準じて作られたものだ。
飛びながら改造を重ね、戻るたびに改造されていったヤマトと異なり、真田
自身がイスカンダル科学のある程度の研究の成果を塔載した特別艦でも
あった。
「真田さん――そっちはどうですか」
右手を見て技術班長として乗り込んでいる科学技術省副長官・真田に問い
かける古代。
「あぁ――データはばっちり取っているから安心しろ。……砲塔の照準設定
までの秒数もかなりスムーズだな」
南部がその言葉に頷いた。
「オートでもけっこうイケますよ。細かい微調整がきくかどうかとヒトの手に
馴染むかどうかは、宇宙そとに出てからですね」と。
 「外抵抗値はどうです?」太田が訊ねた。
「うん。まずまずだな……水中だろうが大気圏だろうが――宇宙や、相当
濃い宇宙プラズマの中でも大丈夫なように設計されているはずだ」
真田の声は明るい。建造の最終責任者として緊張もあるのだろうが、また
自信もある。

 アクエリアスの艦橋で大きくヤマトと異なるのは主航海士席の位置と、
艦長席の後部上方にコ・モニタ席が着いている処。これは、通信&オペレー
ションの補助席でもあり、場合によりここからオートで操艦すら可能である。
戦闘時のデータ処理に大きな能力を発揮する。だがそれぞれの指揮席の
位置はヤマトのそれに近い。必然、顔ぶれの相対的な位置も似た。
 新設のコ・オペ席――此処には戦闘機隊長の加藤四郎が座っていた。
その配置が知らされた時、北野や土門は驚いたが。南部や相原はしゃら
りと、
「加藤はイカルスで真田さんの下にいたからな。下手な工作班や通信班よ
り使えるぜ」と言った。
「まぁ自分で立ち上げたプロジェクトの結果だ、見届けたいだろうしな」
と艦長・古代が言うのに、
「配属されなかったんですからね、そのくらいは当たり前です」と、少しむっ
とした表情で四郎が言ったのは先輩たちの笑いを誘う。
 「格納庫はいいのか」と南部が言うのに、
「佐々と宮本さんに任せてありますよ。オレが行く頃には仕事終わってま
すって」その2人の処理能力も一級である。
「坂本先輩さんもいるし」これは付け加え感無きにしもあらず。
「新人連中、ビビらなきゃいいけどな」と南部が言い、
「それもまた修行です」と加藤が返した。


 戦艦アクエリアスが就航する――そのテスト航海は、新人の訓練航海も
兼ねている。元ヤマト戦士たちが一同に介することへの批判もあるにはあっ
たが、それだけ注目されるべき地球艦隊の旗艦の1隻。絞られて来いよ、
というのが防衛軍参謀本部からのありがたいお達しである。
選ばれた若者たちは、訓練学校から古代艦長と真田や山崎が選んだ人間
も放り込まれており、そいつらの“最後の仕上げ”も兼ねている。
――ここで挫折するようじゃ、外洋に連れていくわけにはいかない。
古代の中にはシビアな想いもあるのだ。
まぁこいつらなら、手加減なく、ビシビシ絞ってくれるだろう。
 さすがに生活班長兼オペレーターのユキ……現在は古代ユキ――は搭乗
していない。産後半年。わずか10日間とはいえ目の離せない盛りの赤ん坊
を放って戦艦に乗るわけにはいかないからだ。
本人は行きたがったが――事情が事情だけに。本人含め誰もが諦めざるを
得なかった。(古代はホッとしたことだろう)
「いいわ――加藤くん。私の代わりにしっかりね」
と脅かされた加藤四郎でもある。
「おれ、戦闘機乗りで、オペレータじゃないすよ」
「隠さなくても出来るの知ってるわよ」「だからといって」
「両方やれば、よいだろ」と、艦長古代の一言であっさりといなされた加藤四
郎だった。ユキだって戦闘機の操縦ができるのだ。戦闘機隊長がオペレー
タができないとはいえない。
 艦長は当然、本就航でもその任を勤める古代進。
正面の主航海士席には前述のように第8輸送艦隊の北野哲。
航海士席の左右に、戦闘指揮席と副航海士席があり、戦闘指揮席には、
蘇生なってリハビリを終えた火星基地戦闘部門主任・土門竜介が座ってい
た。彼にとっても戦艦の戦闘指揮官としてこれは復帰第一弾の仕事となる。
砲術コントロール兼戦闘コ・コントロール席には当然、現在は本部戦術室参
謀の南部康雄。
その隣に個別のデータ処理のできるコ・モニタ席もあるが、ふだんは使われ
ていない。その横のレーダーに本部航路管制部室長・太田健二郎がつき、
そこからまた航海データ室――ヤマトの第二艦橋のようなもの――への指
示パネルがあった。
反対側のサイドには技術班長である真田志朗、隣に現在特務室通信室長
・この艦では通信班長を務める相原義一(実際に乗艦するかどうかはまだ
上層部がモメているという噂――なんといっても長官の女孫婿((予定))の
男である)。
また後方の機関指揮席には戦艦機関開発室長の山崎将、反対側の策敵
オペレーティング席には科学局勤務の結城真帆がついている。
そして艦長席上部後方には二つのコ・モニタ席がある。
一方に加藤四郎、もう一方には調査・分析のスペシャリスト、新人の須崎
玲奈が抜擢され座っていた。今年、訓練学校を首席で卒業した才媛だが、
果たして使えるかどうか。位置づけは相原の部下である。



 
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