蒼の記憶

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【蒼の記憶】

−−「宇宙戦艦ヤマト3」
:お題2005-No.18

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(1)

 「島くん♪」
展望室を通りかかると副長の姿が見えた。探査の星を終え次の目標とする宙域
への小ワープをこなした処。現在、調査エリアのデータ収集を行ないながらヤ
マトはゆっくりと航行している。
 ユキ――。
彼は穏やかな笑顔で振り向いたが、それには小さなため息が付いた。
「今日もダメだったな――」
ほぉと息を吐く。だがさして残念でもなさそうにユキの方を見た。
「…なかなか上手くはいかないわね」「あぁ」
なにせ全人類が移住しようというのだ。そんな星があるのか――たとえあっ
たとしても先住民族がいない可能性の低さを考え併せると、リーダーたちの胸
には絶望感が去来する。
 だがまだ旅は始まったばかりだ。
 ユキはそう言った。
「そうだな――始まったばかりだ」
 「島くん。何考えてたの」
ユキの柔らかい声が耳に届いて、島はふっと瞳を和ませ、言った。
「わかるのかな――ユキには」
「テレサさんのこと……」
「あぁ…」
 ゆっくりと島の横顔に笑みが浮かぶ。幸せそうに――男の人に言うのは変
かもしれないけれど、きれいな表情。
どこかで見たことがあると思ったら……そうか。テレサさん、あの女性ひと自身に
似ているんだ。――最後にこのひとを抱いて微笑んだ、透けるようでけぶる
ようだった笑顔。
星の海の中で見る島大介は、その身体の中から彼女の魂を得て、共振している
ように見えた。

 一瞬。
 次の瞬間――島は自分の手を上げて両のてのひらをふっと見つめ。

 宇宙へ出るとな――彼女が近くなる気がするんだ。
 身体の中から、鼓動がするような気持ちと、俺が舳先へさきを向ける窓の外には
 いつも、導いてくれる彼女がいるようにも思えたりしてな――よく、夢を見るよ。


 「そう」
ユキは長い睫をしばたかせた。
「島くん――幸せ?」
「あぁ」島大介は笑った。
穏やかな笑み――ひところのように任務にまい進するあまりのギラつきも、
時折どこかに心が持っていかれてしまうような表情も無かった。
 その瞳は外の星空を映し出すように。
「ユキ――君こそ、無理するなよ」
「えぇ」
島大介が何を言おうとしているかはわかる。
「島くん、ありがとう」
 第二艦橋へ行くのか、手を上げて去っていく彼をユキは見送った。


 
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