宇宙そらを飛びたい

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−−「宇宙戦艦ヤマト」より
:お題 No.56「ぶっきらぼう」
   
宇宙そらを飛びたい】



(1)

 加藤三郎はシミュレーションルームに入っていった。
 昨日の訓練の結果をチェックするためと、対策を立て、プログラムを組み直す
ためだ。
 誰もいないと思った部屋のコンソールの一つが点滅し、データが表示されてい
る。点けっぱなしは危険だとあれぼど言ったろう…まったく。しかも!
「おい…だぁれだ、こんなひでぇ数字出しやがったの!」
戦闘班の人間ならちょいとシメてやらなきゃなるまい。
太陽圏を出たばかり、まだまだ気を緩めて良いシーンなどないのだ。
ヤマトは厳しい戦いを続けながら、それでもイスカンダルまで行って、帰ってこ
なければならない――。
 まったくもう。
 コンソールに座り、データを読み出そうとしたところで
「それ…あたし」
窓の下からぼそっと手が上がったかと思うと、生活班長殿の顔が見えた。
 え。
 な、何故こんな処に。
「加藤くん…ごめんね、ちょっとひどかったわね」
部屋から外へ出てきて、困ったような顔で横に擦り寄る。
「自分でもぉ…あんまりひどいんで。メゲてたとこ」
だからといって床に座らなくても。
 「いったい何やったんだ?」
「うん…宿題はコスモ・ゼロのエンジン系統なんだけど…」
「こういう数字なわけね」
「うん」しゅん、としている。
困ったね。
 いつもキリリと大人っぽくて、穏やかに微笑む森ユキ・スマイルのファンは多
い。何でもこなせそうな生活班長殿にも苦手はあるんだな。
そりゃ良いとこのお嬢さんが戦闘機の運転ができなくても仕方ないと思う。
当たり前だ、そんなの。だからねぇ…。
「ユ...君、森くん。本当にゼロなんて乗りたいの?」
「えぇ」
「探査艇とか救命艇で十分なんでは」
「ううん、絶っ対。ゼロに乗るの」きっぱり、何故か顔を赤くして、拳など握り
締めている森ユキは、なんだかムキになっている感じで。
でも…カワイイよなぁ。こんな場合じゃなかったら、こちらが赤くなりそうだ。
 それで、「担当教官は古代だろ」と言うと、またシュンとした顔になって。
「だからね…親切に教えてくれるんだけどね、テンポが速すぎるし…怖いの」
また困ったような顔になった。そうか、それで“復習”してたわけね。
「この数字出さないと、絶対実機に乗せないって言うんですもの」
 そのデータを見て目が丸。
 そりゃ無理だろう……動かすだけならもっと、普通に。


 基礎訓練のほとんども受けていない基礎過程から専門コースへ行った森く
んたち。コスモ・ガンはそこそこ扱えるみたいだが重機の運転や航法の基礎
は持っていない。その素人にいっぺんに詰め込もうといっても覚えるはずも
ない……だが敢えて古代はそれをやろうとしている。
何故なら。
その資料を見ていて思い当たった。
 確かに動かすだけ、何かあった時に迎撃するだけなら一つのシステムくら
いを覚え込んでおけば済む。それならば少し器用な人間なら乗ることもできる
だろう。だけれども。
全部教えておかないと危ないんだ。
…中途半端に乗れても、飛ぶ中は敵地か見知らぬ星の上。
また回りに星も輝かぬ宇宙空間。地上で探査艇扱うのとはわけが違う。
――だからこそ、古代は。
そう考えたんだな。
「古代くん、わからないって言うと怒るのよ」
ぷん、と横を向いてユキは言った。
「敵がわからないから避けてくれるかっ! てね」
「そりゃだってキミ……」
「あんまりいっぺんにいろいろ言われても、ね」
でも、文句を言うだけじゃなくて、自分で努力もしているというわけだ。
案外根性あるね、このお嬢さん。
だが古代もそれならそうと説明してやればいいのによ、あの男。
 ふとため息をついた加藤は、その上官の不器用さが可笑しくなって。
「それで? 何ができなくて、何がわからないの?」
え? とユキが言う。
「…手伝ってやるからよ。暇な時でよければ。俺とか、山本とか利用しなよ」
「加藤くん……あ、ありがとう」
抱きつかんばかりのユキに、仕方ねぇなと笑い返しながら。
それどころじゃないぞ、とデータを見返す戦闘機隊長。

 「でね。ぜんっぜん感覚がつかめないんだけど…」
「お前さん、エアカーの免許は持ってる?」
「えぇもちろん」「宇宙カーゴは?」「一応…規定路線内なら」
「無重量航行も未経験じゃぁ、ないわけね」「はい…」
ふむ、と加藤は。
 民間のミニカーと――ましてやこの最新機器を備えた、無骨で装甲も
駆逐艦並といわれるブラックタイガーやコスモ・ゼロの重量感は桁違いだ。
シミュレーションでは感覚がつかみにくいのも確かではある。
「よし――いっぺん乗ってみるか」
「え、えぇ? いいの?」
「あぁ。ただしオレのナビゲーター付き」
「加藤くん…」
「その前に、少なくとも、これだけはクリアしてくれ」
 指差す先には、今、はじき出されたデータの中から、重要なポイント順に
マーカーが引かれ、その間違いの示唆が簡単に入れてあった。
「見て、わかる?」
「え、えぇ。…すごいわ。もう1回やってみる」
「あぁ。闇雲に回数を繰り返しても上手くはならないよ。無駄に体力と神経
を消耗するだけだ……そんなこと古代も知ってるだろ」
「…そういえば、そんなこと言われたような」
私、頭にきていて(悔しかったから)ロクに聞いていなかったのかも。
加藤はあちゃ、と思った。
 「毎回、苦手なところを意識してシムに臨むこと。終わったらきちんと自分
のデータをチェックして、何が違ったか、どう失敗したかをきちんとトレース
してみるんだ。できればもう一度イメージ操作で同じ手順を繰り返してみる
といい。だけど、失敗をトレースするなよ、クセになって危ないからな」
はい、と素直に頷く森ユキ。
「誰か上手い人のをトレースしてみるのも手だよ。…古代のは凄すぎるか
らな、山本のもダメ」と笑いながら。
「あ、これがいい」とあるデータをセットしていく。
 見てごらん――。
 それについていくだけでいいよ。失敗したところにきたら止めてバックして
もいいから。見てみなよ。そういわれて、キレイに軌跡を描いていくシム機に
取り付いた。

 ふぅ。
 じゃぁ、夕食後にな。ワープ後によほど妙な空間に出ない限りは。
今日はたぶん時間あるから――乗せてやるよ。
「加藤くん、ありがとう」
「いやどういたしまして。あとは自分で見れるね?」と先ほどの記録を渡す。
「えぇ」それで。そのデータ見とけよ。
はいっ、加藤隊長。
 でな、と加藤が言うのをユキはえ、と振り仰ぐ。
「古代を恨むなよ、あいつ、不器用だけどな」
 えぇもちろん――ユキはちょっと遠い目をした。
「親切で言ってくれてるのはわかるんだけど。本気で怒るから怖いのよね」
それには「あはは」と笑って答える加藤である。
また声かけてくれ、たいてい格納庫かここか艦載機指揮室にいるから、と。
 じゃな、ユキ。
 そう言うと、加藤三郎はシミュレーション室を後にした。

ととと。
 目の前でばったり、山本と工藤に出くわす。
「お前〜、今まで何やってた」山本が凄む。
「え? シミュレーション室でちょいとお勉強を」
「誰と一緒でした?」と今度は工藤が。「えっへっへ。そりゃ美女と、さ」
2人でゆっくりお勉強よ、とまた加藤は悪びれもせず。工藤が心配そうな
顔をし、山本が呆れて
「お前、隊長下克上されたくなかったら、個人的な接近禁止だぞ」と。
なんだよ、それは。
俺は単にだなぁ――古代の。
おっと、その先は言うなよ、と目配せして山本が口をふさいだ。
 ま、行こうぜ。飯くいっぱぐれるよ? と誘うので。
そだな。腹ぺこぺこだ、と食堂へ向かった。



 
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