ふたり

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−−『宇宙戦艦ヤマト3』より
お題 No.64
   
【ふたり】

 「ところでお前さぁ」
と突然、砕けた口調になって古代が言う。
「なんで訓練校こんなみち選んだんだ?」
そりゃまた突然だな、と隣に座って資料を調べていた元同期生――
今は上官を見やって。
「ん〜、何故だったかな」と空っとぼけてみせた。
俺と違って、誰に恨みがあったわけでもなかろう、と、昔なら絶対に
口に出せなかったような自分の拘りをあっさりと口にする。
 どうだったかな。
 地球を守りたいとか、ガミラスと戦うため――なんて言ったら笑うぞ、
おい。
と、しっかり俺の本音だけは見抜いてくれていた相手である。
そうだったな、同室で。同期の連中はそれぞれがそれぞれの目的と、
それに見合った顔つきをして日々を過ごしていたっけ。
――あの頃。
古代のように、獣のような目つきをして、いつも、その目の前にある
課題がガミラスそのもの、みたいな顔して取っ付いてたのは珍しかっ
たくらいだからな。
案外、この期に優秀なヤツが多かったのは、こいつに引っ張られたの
かもしれない、と今は思っている。だから、そのために、一癖も二癖も
ある連中の只中に、放り込まれたのかもしれない、俺たちはさ。

 「あまり、憶えてないんだよ、正直言って」と島は答える。

そうなのかもしれないな。
俺みたいに――たとえマイナスの感情が根本にあったとしても、目的
がハッキリあって。目標とする、経歴だけは凄まじく輝かしい兄貴が
いて。両親親戚知人縁者絶滅していた俺と違って、島がなぜこんなと
ころにいるのか。
当時は不思議にも思わなかったけどな――。
「時代、じゃないか?」
と当人すら不思議そうな顔をして、そう言う。
優しくて尊敬できる両親と、可愛い弟。それなりに良い学校へ行って
いて成績も優秀――抜群に、だ――だった将来有望な中学生が。なぜ
訓練校こんなところへ来て、しかも醒めた目をしてスイとぶっち抜きの成績をとりや
がるのか。わからなかったもんな。
 宇宙パイロットには興味はあったさ。
それに、攻撃されてたわけだし。待つのも受身も好きじゃなかった。
どうなるかわからない、破壊に向かう大地の中で、じっと、自分のこ
とだけ考えて待ってられるほど、能天気でもお人よしでもなかったし
な。だからといって逃げ出すのもいやだったのは、訓練校あそこにいた連中の
誰もがそうだっただろ。
 でも別に正義感なんてなかったな――。
 だから正反対みたいなお前が鬱陶しかったのさ。何とか俺たちの方
に引っ張り込んでやろうともしたさ。
と、島は言う。
 鬱陶しかったのはお互い様だったな、と古代が笑う。
 
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