此処ここから…


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−−「完結編」後
:古代進とユキの結婚−from here...
2006-No.43「此処より」
   
此処ここから… 後篇】



(6)

 列席者がぞろぞろと教会の中へ入り、揃う。親戚一同が前に座るものだが、
古代にはそれがない代わりに、ヤマトの仲間たちが前へ並んだ。
――(背中に目はないので)念のため北野と坂本が一番後ろに座って警戒を敷く。
 ざわざわというざわめきとともに古代進が姿を現した。
礼拝堂の中へはビデオカメラは代表1台以外は入れないため、歩く後姿を狙
い、入り口ではフラッシュが集中する。
そのりりしい姿に黄色い声が起こったのも無理はない。
艦長服に身を包み、制帽をつけ――白い手袋をしたスマートな姿。
若き防衛軍の鷹――地球の英雄、元宇宙戦艦ヤマト艦長・古代進。
 そして礼拝堂内では。
 祭壇の前に立ち、ゆっくりと振り返り花嫁を迎える彼の姿。
そこにしずしずと父親の腕に手を寄せて歩み入る美しい花嫁の姿があった。
ほぉ、ともおぉともつかない声が漏れる。
あまりの清楚な美しさに――声が上がる気配もなく、ただしめやかな沈黙とた
め息がこぼれるばかり。
「ユキ――きれいだなぁ……」
「ユキさん、本当に……」
元ヤマトの同僚たちも言葉がない。制帽の下に隠れた古代の表情はわからない
が、すっと手を伸ばし、父親からその腕を受け取ると、ゆっくりと祭壇の前へ
進んだ。

誓約書にサインをする。神父がそれを捧げ、そして2人の前に立った。
 「古代進――森ユキを妻とし、共に生き、共に過ごし。生涯愛しぬくことを
誓いますか」
「誓います――」
「森ユキ――古代進を夫とし、共に行き、共に過ごし。生涯愛しぬくことを誓
いますか」
「誓います――」
「それでは指輪の交換を――」
 目の前で指輪を交換し、そっと古代はその薄いベールを上げて、互いが見詰
め合った。
ゆっくりと頬が近づいて、かすかに唇を寄せると、それを合図に、一斉に拍手
が沸きあがった。
2人はにっこりと微笑み合うと、祭壇に一礼し、古代はユキの肩を抱いて、人々
に向き合う。
また一礼をして。
 賛美歌の響く中、しめやかに式は終わった。


「本番は、これから、ですよね」
相原がにっこり笑って、退出していく2人を大きな拍手で送りながら、南部に
ささやいた。
「そうそう。これからです」
 エントランスから続く螺旋階段から噴水を挟み、その横のレストランとそれ
に床続きの宴会場に、会場はしつらえてあった。総勢300人近い招待客の、
その席はプラチナチケットとなり、その権利は奪い合われたという。2人に少
しでも関係のある者は誰もが参加したいと思ったことだろう。

 教会の中から親しい者たちが三々五々、出てくる。
ある者はカップルで。ある者は友人同士で。そしてまた会社の同僚と。
その中で注目を集めるのはやはり、ヤマトの一団である。

 「ねぇねぇ――あれどなた?」友人の、夕月佳織が囁いた。
南部美樹は兄のコネや、加藤四郎と知り合い――新郎新婦の親しい友人の姉妹
というわけのわからない関係で潜り込んだ口だ。
けっこうなミーハーだし、お年頃だけに“カッコいい”人たちがたくさんいる
かも、という気持ちで同級生と共に参加している。皆、パーティ慣れしたお嬢
様ばかり。だが、やはり17、18歳そこそこの娘らしい好奇心でいっぱいだ。
「今、入ってらしたのが相原さん――ご一緒なのが藤堂晶子さんよ」
「まぁ。あの方が、藤堂長官の……お年は私たちと同じくらいなんでしょう?」
「うん。あまり変わらないはずですわ――羨ましいなぁ、世紀の恋、なんて」
「相原さんて素敵ねぇ、かわいらしくて、お優しそう」
「そうね――あれでけっこう…」兄と相原は仲が良いのでいろいろ聞いている
美樹である。それにしてもタキシード姿は素敵かも、と思う。
 「あ…」
佳織が絶句して指差した方には、スマートなたたずまいで背も高くガタイもし
っかりした男が抜群のプロポーションの女性をエスコートして現れていた。
「真田副長官よ――科学技術省の」
「えぇっ、すごい素敵な方ねぇ」
「あらあなたおじさん趣味なの?」
「だって。落ち着いていて――お相手も素敵」
 その真田がリエと共に現れると、待つ人々の間でもざわめきが広がった。
(真田副長官だぞ――)(えぇ、一緒に居るのは誰だ)
(お前知らないのかよ、あの人、結婚してるんだって)(えぇっ!)
 バイオテクノロジーの医師であり技術師でもある朝倉リエ。背も高く胸も大
きい割に細腰で、プロポーションは抜群だ。胸開きの大きな夕焼け色のドレス
に白いオーガンジーのストールを羽織り、踵の高い靴を履いてすっと歩いてい
く。飄々とエスコートする真田志朗に、こんな芸もあったのかと凡人はただ感
嘆するのみ。
「真田さん〜、ご結婚なさっていたんですね」徳川太助が近づいてため息をつ
いた。
「なんだ、失礼な――」
と、真田のニヤけた顔というのも初めて見るかもしれない。
「うちの嫁さんだ、朝倉リエ、という」
「は、はいっ! い、いいつも、真田さんにはお世話にっ!」
徳川が挨拶をするのを、「なぁに焦ってんだよ」と後ろから坂本がどついた。
「坂本茂ですっ――お会いできて光栄です」
こいつは女性にはちゃっかりもん。「北野哲です」と横からまた。
3人並んでぺこりとお辞儀をするのに、「朝倉リエです。志朗がいつもお世話に
なって…」
そういわれても、お世話する、なんてことは永久にあり得ない後輩たちとして
は、ただ恐縮するだけだった。ささささなださんのことを“志朗”と呼ぶのは
――古代さんのお兄さんだけだ、いままで聞いたのは。ふとそう思った北野
である。
「不出来な同期3人組だ。まぁよろしく憶えてやってくれ」と真田がリエに
言った。
「ふでき、はないですよ」と坂本が抗議するのを、「でもま、本当ですから仕方
ないっすね」あっはは、と笑いが零れた。

 「リエはユキの先輩でな――それと。もう1人、お土産もいる」
入り口の方からゆっくり歩いてくる細い姿は。
もう周りは気づいて声をかけていた。
「土門!」「――土門じゃないか…」
「元気になったんだな」「前と変わらないぞ、どうしてた」
その間をゆるりと挨拶をしながら。まだ線は細かったが。
「もう大丈夫だから、連れてきたのよね」とリエは目を細めて笑う。
「ユキには何よりものお祝いだよ」「えぇそうね――」


 
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