airアイコン 天の川−beyond the Galaxy

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【天の川−beyond the Galaxy】

−−A.D.2206
:お題2006-No.89「天の川」A

 

= Prologue =
 
 ヅーッヅーッと呼び出し音が鳴る。

――はいはい。

あら? よーこ? うん、いいわよ。外じゃなくてウチで? うんうん。今日?
また急ね、だけど。うん、進さん遅いし今日はご飯食べてくるっていうから。
いいわよ。

 森ユキ――本名、古代ユキは。
久しぶりの友人からの電話に、ちょっと驚いて。出かける用意をしていた上着
をハンガーにかけ、“ご近所用”のジャケットを羽織ると。
軽装で官舎いえを出ていった。
(軽いおつまみ程度…でいいかしらね。葉子も材料買ってくるって言ってたし。
でも、お酒は必要だわ)

 
 約1時間後――。
古代家のキッチンからは、2人の女性の手になる旨そうな匂いが漂っていた。
 「ん、もうそっちの火止めて、いいんじゃないの?」
「はぁいっ♪ サラダもできたわよ」
「あと、これ炒めちゃうから」火を入れた中華フライパンを片手で構えてラード
を開け、ザザッと野菜と肉をブチ込んで。
 「さっすがね」ユキは楽しそうにその様子を覗き込む。
「ふんっ。どうせ力持ちだから、とでもいいたいんだろう」
「あ、た、り」
 それはそうだ。
いかに彼女ようこが小柄だからといっても非戦闘員の看護師兼敏腕秘書と戦闘士官
では、腕力は桁違いである。
――佐々葉子と森ユキ。ヤマトの同僚、親友同士。
夫の艦で戦闘機隊の副官を現在も務め、宇宙に出っぱなし。
なかなか逢って飲んだり、お茶したりという気軽な時間が取れない。
 それに。
葉子が戻っている時は進も戻っている――ただでさえ共に過ごす時間の少ない
新婚家庭を、なるべく邪魔したくない、というのは葉子の、親友ならではの配慮
でもある。
だからといって。

 
 「もう、随分逢ってないのよねー、私たち」
「あぁ……軍の廊下ですれ違ったり、昼飯食ったり程度だろ」
「うん、そう」
「仕方ないさ――私もこんな仕事だし。お前も忙しいし」
「なんだかつまらないわー」
そんな会話をしたのが数日前。地上勤務の間、真田の下にいる葉子と、秘書
課から用事で来たユキがランチを一緒した時に。
飲みに行こっか、ということになって。
葉子の方が「――次の出航までに時間空いたら連絡する」ことになっていた
ものだ。数日中だろうと思っていたらさっき電話が来た。
「今日空いたし――久しぶりだからお前んどうだ」
なんてことになって。

 古代が遅いことを佐々は承知である。
彼が仕事で人と会い、その後同行しなければならないことを知っているからだ。

「でもねー」
「なによ」
味見のため、野菜の欠片を口に放り込みながら葉子がユキを見返す。
「夫のスケジュールを妻のあたしより、貴女の方が良く知ってるなんて…」
「悔しい?」からかうような色が瞳に出るのを。
ユキはまた、ふん、と横に顔向けて。
「いーっだ。仕事なんだから、平気よっ」と憎まれ口をきいた。
くすくすと、笑いながら。ほれ、これの皿出して、と言い、ユキは戸棚を開くと、
適当に。
 「大皿にしてとりわけにしましょ」「そうだね」
並んだ料理を見て。「まぁっ、2人で食べるのもったいないわね」
くすりと葉子は笑った。「――少し余分目に作ったから古代にもやったら」
「進さん、喜ぶわ。――そういうとこ、子どもみたいなんだから」
ぶふ、と葉子は笑って。「そうだな。旨いものには目がないからな……結果に
はこだわらないくせに」
「そうなのそうなの」
「――お前らも忙しいし。なかなかゆっくりできないだろ」
「そうねー。本当は進さんが地上の時くらいは、少しシフト変えたいんだけど」
「そうもいかないよな…今が勝負ってこといっぱいあるし」「うん…」

 
背景画像 by「Salon de Ruby」様

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