Fröhliche Weihnachaten

(1) (2) (3) (4)
    

 その夜は、楽しい夜になった。

 古代進と個人的に付き合う、なとどいう趣味はなかったが、
「一度ゆっくりお話してみたかったんですよ」と、まるで訓練学校時代の後輩に
戻ったように慕う様子を見せる古代進は、それはそれでかわいいやつである。
つい饒舌になってしまうのは、俺もヤキが回ったのか。
 それに。
 古代守はかわいい――なかなか末恐ろしい息子だ。
生意気盛りといったが、人の気持ちをつかむ術を心得ているとしか思えなかっ
た。何より、絶対におもねない処が、あの2人の子らしいといえるか――怖がり
もせず。少々気まぐれではあるが、あれは母親似なのか。

 「校長室呼び出し記録、是枝さんのを破ったのは俺たちです」
「ほぉ。沖田さんと土方さんの記録は俺たちが破ったぞ。――しかも、俺はフル
コース行ってないからな、割合からしたら俺の勝ちだな」不敵に笑うと
「なぁにくだらないことで争ってんのよ」ユキが横からワインを継ぎながら言った。
「男の人って、ヘンなとこムキになんのよねぇ」
おいおい大概そういう口きく女なのか、この女房は。
「ユキっ――大事なことなんだぞ」古代進はすでに酔っ払ってご機嫌だ。
 「お前たちも相当いたずらもんだったみたいだな」
「俺のせいじゃぁありません」
うそをつけ、と是枝は思った。
「俺と島と、加藤と南部――」
あぁそれだけ揃ってりゃな、そりゃひどかろう、と俺は言ったものだが。
 加藤四郎の兄、三郎のことは話には聞いていた。逸材だったというが。
 そんな風に話を振ると、ユキは一瞬じっと古代を見つめ、追加の酒でも取りに
行ったのだろう、キッチンへ席を外した。酒で上機嫌の古代は
「あんなイイ男いませんでしたね」と、まぁ乾杯、とさらに俺のコップにワイン
を継ぎ足しながら言った。「――ともっかく、よく悪さしましたっけ」
くすりと笑う顔は、酔いも手伝って子どもみたいなところがある。守はその親父
のあぐら組んだ足に寄りかかって、気持ち良さそうにうとうとしているが、で
も、話は聞きたいのか離れようとしない。
「ユキ、ここはいいから先に寝てろ」
ひょいと伸び上がって、キッチンに古代が声をかけた。妊婦だしな――睡眠は大
切だ。
「お構いなく。先に休んでください」そのくらいは大人の常識だろう。
 いや、僕まだここにいる。――という守を、「今日だけよ」と言って、小さな
ブランケットをかけると、では、お言葉に甘えます、といってユキは奥の部屋に
消えた。


(3)


 「是枝さん――俺たち。いったい何人を失えば済むんでしょうね」
ユキが去り、息子が足許で眠ってしまってから、古代は酒を睨むようにして突然
そう言った。自嘲しているようには見えない。事実を――もう10代の頃から、
さんざ考え、悩みぬいて踏み越えてきただろうことを。事実として。
俺は確かに古代と同じ想いを抱えている――ただその手で葬った数が、桁違いな
だけで。
……そう。ヤマトの乗組員は。特に幹部だった者は――。辛い戦い、それは人の
狂気すら引き起こしかねない辛さだったろうと、想像もできた。
ガミラス戦の、手足をもがれながらの旅。ガミラス本星での殲滅戦。ガトラン
ティス戦での、絶望的な戦い。――この最初の二つの戦いは、まさにその慟哭の
中、地球が生死の境を彷徨ったがため、ただその使命感のみで生き抜いたのだろ
う、こいつらは。
 亡くなった者は沢山いる――仲間、部下たち。罪もない敵の異星の住人たち。
女性や子どももいたでしょうね、沢山。
でも俺は――それでも身近な者を自分が失ったことを特別に悲しく想うん
ですよ。
命の重さは同じです。
でも、兄さんや、サーシャや。――そして沖田艦長や。…親友だった島。
加藤三郎を。山本を。忘れることなんて、できない。
俺たちの罪は、いったいいつ許されるんでしょうね……。
 そうして幸せに笑っていてもか。
 いえ――ユキがいてくれれば。そして守と、これから生まれてくる子どもたち
を、俺は守って、生きようと思う。たとえ裏切り者と呼ばれようとね。
だってそうでしょう。
「破壊は一瞬――何百何千もの命を、俺は、この指で。波動砲の引き金を引くこ
とで殲滅してきた。だけど。育てることにも、生み出すことにも時間がかかる。
一つずつ。たった一つを、守って生きることしか、俺にはできない」
 それは、古代進の、覚悟なのだろう。
 「その一つもできない俺は、人間失格だな」
ふっと笑いながらそう言うと「是枝さん――そんな言い方」
真剣に、見つめ返される。
「好きなひと、居ないんですか――?」静かに問いかける。
「お前、俺の評判、聞いてるだろう」
 女たらしの野心家だって言われてることは自覚していた。
枝から枝、港から港。――そんな男だと。
ふっと笑うと。「俺んとこにも一人居ますよ、そういう――」。
「宮本、か?」うなずいて、くすりと艦長は笑った。
「あれは、あぁいう性質たちですから」
 いつも身、一つで。本当に港ごとに女。家庭を持たず、特定の恋人も作らず。
だが冷たいわけではなく部下に慕われ仲間に頼りにされ。どんなに言ってもけっ
して指揮官になることを是と言わなかった――やっと、隊長を引き受けてくれた
ほど。
戦うときも身一つ、1対1で。自分の命も、相手の命も対等――だからあいつは
個であり続けようとしている。潔い根っからの一匹狼、スペース・ファイター
だ。
 だけど、貴方は違うでしょ? と、そのさとい若者は目で言っていた。


 
←扉へ戻る  ↑進&ユキの100題へ  ↑前へ  ↓次へ  →TOPへ
inserted by FC2 system