air clip その腕の。 −our own chief−



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【その腕の。 −our own chief−】

−−A.D.2199年、ヤマト艦内
:『宇宙戦艦ヤマト』第18話「宇宙の要塞島…」より


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= 1 =

 ヤマトが、揺れた。

 「わぁっ!」「どうした!?」実験ルーム中央に立っていた向坂通にもその揺れは感
じられた。唐突に始まり、足の下から揺さぶられるような感じ。この艦の性能から
すればあり得ない動きである。
「だ、だめです。副班長! コントロールが、だんだん…」
「何とかしなさい! 君は何年、技官やってるんだっ」
「し、しかし……こ。…計器が、針が…」
突然、波状に襲った衝撃に、工場は騒然となった。
 シームレス機の最後の仕上げをしようとして、上塗りの塗装を終えた瞬間だった。
台座を支えていた牽引パイプが千切れそうになり、計器の針が振れて飛びそうに
なった。
 『――本艦も影響を受け始めた。……工作班、まだかっ!』
工場長の声が艦橋から降ってきて、
「完成、してます。ただ、微細亀裂でも影響が在るので点検を…」
そうだ。どんな細かな傷もつけるわけにはいかない――そうなれば、あの、残酷な
映像のように。人も艦も、引き剥がされて宇宙の屑となってしまう。
 『そっちへ行く。発進準備をしておけ』
「は、班長――」

 「え? 班長が出るの?」
最後の調整に計器をいじっていた大槻結衣技官が、向坂を振り返った。
ぽかん、とした様子を一瞬見せたが、軽く頭を振ると、いいえ、と言ったように
見えた。
「――班長が行かなくても、それなら。私が」
向坂は大槻の肩の脇に手をつくと硬い表情で微かに首を振った。
パネルの冷たさが手袋を通してさえ伝ってくる。
「大槻くん――僕たちで済むならとうに、そうしてる」
何かを言い募ろうとした結衣だが、そのままぐっと唇を引き結ぶと、見開いた目で
向坂を見返した。ぐっと、潤みかけて、そのまままたキツい光を宿す瞳。――真
田班長を思う時、彼女はよくこんな表情をする。けっして口には出さず、感情すら
押さえ込もうとするかのように。科学者らしく、理知的でありたいと。
まるで機械でありたいと、望むように。
 ぐい、と最後のレバーを引くと、シームレス機は発進口へ押し出されていく。
1機を作るのがこの時間ではせいぜいだった。不要な材料を分解し、再構成し、そ
うして一枚の継ぎ目のない機体に替える。緻密な計算と膨大な材料。
……もっと早く考案できなかったのか? 
いや量産するには材料の負担が大きすぎる搭載機である。

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 戦闘班長・古代進が駆けてきて、シームレス機を前にした真田班長を見上げた。
「継ぎ目が無い搭載機だ――これなら、あの電磁波の源に近づける。古代、行こう」
 「真田さん」古代班長は手袋を嵌めた手でそのフードを少し撫でると、口の中で
「……これが、あれば。あいつはあんな……」死に方をせずに、済んだのに、と続
けようとしたのだろうか。はっと自分を取り囲んでいる工作班員たちの目に気付い
たように表情を引き締めた。工作班員を責めたように聞こえたかもしれない。中には
明らかに反発を持った目で古代を見返す者もいた――言っても詮方ないことだ。
 古代は軽く頭を下げて見せ、ひょい、と開いたフードに滑り込むと、
「真田さん。時間が無い、行こう――」と言った。

 「班長!」誰かの声がした方に向け、真田は軽く手を上げてみせた。
向坂はフード越しに古代の席を覗き込み、言った。
「いいな、古代くん。これは万全ではない――いくらシームレスだといっても限界
値はある、わかるな」
「あぁ…」その間にも計器に目を走らせ、パネル操作をしながら数字を表示させ、
その動かし方をつかんでいく。
「――真田班長に。気をつけてあげてくれ」
え? という表情かおをして、古代が初めて反応した。どういう意味だ? と
問い返す暇もなく、フードは閉じ、シームレス機は出発口へ装填されていく。
 その間にも、ヤマトの揺れは少しずつ大きくなっていった。

 

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