fly iconただいま- come back to YAMATO

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このお話は、「宇宙戦艦ヤマト2」をもとにしています。
悲しい話ですから。
もし、そういうものが苦手という方は、お読みにならず、ページを閉じてください。
よろしくお願いします。

19. 【ただいま】


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 ずだだだだだ。

ぱしゅ、と、ひっきりなしに左右の空間を光線が過ぎっていく。
機体を背にしながらも、その下から反射してくるものは防ぎようがなかった。
(上に回られたら終わりだからな――)
反対側の上部にも油断なく気を配りながら、
はうっ。
(――へんっ、一丁あがり。ってなもんだ)
微かにこちらを狙っていたやつを、1人。撃ち落した。
(――コスモ・ガンのエネルギー残量がどのくらい、あるか)
そう思って、突入用に持ってきた大物は、先ほど吹き飛ばされてオシャカになっていた。
「おういっ! 吉岡、生きてるかーっ!」
「たいっちょー、そっち、やらせねーから」
応戦しながら返す声。何人かが撃ち合う気配が続く。
 わぁっ、という叫び声があがり、また1人……。加藤は顔を背けた。
 「賀川っ――そっちは」
振り返る余裕もなく、左の後方に並んでいた僚機に声をかけるが、返る声は、なかった。
(……賀川、ダメか)
ちらりと目線を走らせると、並んだコスモタイガーのどれもが紫煙を上げるか、軸足を
折られ、またガラス風防ごと破壊されていた。

(――ちくしょおっ。何としてでも。――古代を。真田さんを、ヤマトへ返さなければ)
俺はそう約束した――それに。
……あいつにも、「連れて帰ってくる」って約束しちまったしな。
激しい戦闘の中でも、ふっと目の周りの表情が緩んだのを、誰も見てはいなかったが。
(大丈夫だ――俺は、帰るさ)
胸の奥の、微かで温かな痛みが、力を与えてくれるような気がした。
 また翼の脇から顔を出したところを、光線が抉った。
ひやりとする。
「吉岡っ――そっちは!」
左側はもう諦めなければならない。
あとは、この――うぁっ。
また攻撃は激しくなってきた。
古代のゼロを護ろう――あれなら複座だから。
動こうとしたが、右足が言うことを利かなかった。
――ち、くしょ。根性なしめっ!
 体を引きずるようにして背後を見ると、バタバタと、仲間たちが倒れていた。
だが、敵も数が減っており、先ほどほど銃撃は激しくない。
……古代。
(古代――早く、早く戻れ。ヤマトにはお前が必要なんだっ)


 その時、カンカンカンと微かな足音がした。
「古代っ、無事かっ!」
振り返ることもできず、向こう岸からなおも浴びせられる正射に返しながら。
(うっ――)
油断したか、左手を……いや、そのくらいでタイガーの運転には支障はない。
「早く、乗れ」
 「あぁ……加藤、無事か。真田さん、早く」
ぎこちない動きの真田技術班長は、足を失っているようだった。それを何とか押し込み、
気力を振り絞って飛び上がると、前部座席に着く。
「よし、乗ったな」発信準備を。
『行くぞ――脱出だ。……援護しろ』と、聴く者があるのかわからない無線を入れた。

 無意識でもできる――タイガーの運転くらい。
もう、何度この手順を、この体が――手足が繰り返しただろう。
なんだ。
やけに……パネルが遠い。霞むな……頼むぜ。もう少し、ってくれよ。

 体が冷たく、右足の腰から下の感覚が失せていた。
温かいものが、流れていくような、気がする。
だがまだ大丈夫だ。古代の声は聞こえるし――通信も、読めるさ。

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 加藤機は、一発噴射の鮮やかな離陸で、白色彗星の滑走路を飛び出した。
「誰も――ついてこないのか」
ぼそりと、古代が吐き出した声が、空しく機の中に響く。
「古代――急げ、加藤。爆発は、大きいぞ」
真田志朗がそう言ったのも、聞こえたかそうでなかったのか……。
 ついに、加藤機に続いて飛び立ったコスモタイガーは1機もなかった。

 宇宙へ飛び出したのは覚えている。
ヤマトの位置もだ。
「こ、だい……だいじょうぶか?」
自分で出したつもりよりも、小さな声だったが、艦長代理には伝わったようだった。
「加藤――大丈夫だ。ともかく急ごう、戻らなくては」
しっかりした、特徴のある声が耳に響く。

 視界は狭窄しはじめていた。

 あぁ――目が。ぼやける……計器を読むのはすでに無理だったろう。
ヤマトの、飛び立ってきた方向へ。ただ、帰巣本能だけが加藤三郎の腕を動かしている。
(だが――見えるぞ。俺たちは、帰るんだもんな)
ヤマトへか――それとも、平和な地球へ、か。
 青い地球が、宇宙空間にダブった。

 自動追尾を逆探知する方法で、加藤機は自動操縦のまま、ヤマトへ近付いていく。
『加藤機だな――収容するぞ』「りょう…かい」
『破損してめちゃくちゃだ、気をつけて入れよ』
それに対する答えはなかった。
 加藤三郎は、気力を奮い起こし、遠のこうとする意識をつなぎとめた。
(まだ――早い。俺はまだ、やることが残されているんだ)
 目の前に、暗い赤い艦が、像を結んだ。

 何度着艦したろうこの艦の、この艦底へ。
ここは、俺の、古里ともいえる、場所――母親の胎内のような。
あいつも、待ってる……いや。もう、退艦したか。

――逢いてーな。

 「加藤っ!」
機の方向がブレたか、侵入路がすこしラインを逸れたらしい。
なに――大丈夫だ、こうして、少し……。
いつもより余分にお客さん乗せてるからな――うまく、着いてくださいよっ…と。

 ヤマト――。あぁ、ヤマトだ。
 “ただいま”……。
 俺、帰ってきたんだな。
もう、一息――まだ、休んじゃいけねーや。いて……苦しいけどさ。
もう少し……がんばれ、俺。
ヤマトよ――確かに。返した…ぞ。

 すい、と。
重量オーバーの機を、まるで手品のように浮かせると、コスモタイガーはヤマトに吸い
込まれた。
がしゃん、と衝突ギリギリの音がして、わずかに最後、ブレーキが手動でかかったのを、
古代は体で感じた。
 「着いた――真田さん」
「うん」
2人は体を起こすと。「加藤、着いたぞ。ありがとう」
「どうやら……俺たちだけ、らしいな」
何とも言えない響きを残し、古代の声が格納庫に空しく響く。

 そして、フードを開け見下ろしたそこには――。
 笑顔のまま、絶命している盟友の姿があった。
(ただいま――ヤマト。古代。俺、ちゃんとお前を連れ帰っただろ?)
そう言っているようで。
「加藤――加藤っ! かとおぉっ!!」
――ヤマトに着くまでは。それが加藤三郎の飛行を支えたのだった。
(どうやって帰ってきたというのだ――)。
背は焼け爛れ、わき腹は裂け、足は銃創だらけで。唇の脇から微かに血が流れていた。
おそらくは内臓も――なのに。
眠っているような安らかな笑顔は、務めを果たした満足感だったろうか。
 古代進の戦いはまだ終わっていない。
(加藤――受け取ったよ、確かに。俺たちにできる戦いはまだ、続いている。
 必ず、守るからな――)

 最初の旅から、共に傍らにあり、いつも背を預けてきた友。
その笑顔が、古代の心を引き裂いた。
だが。
「時間がないぞ――」
真田の冷静な言葉は古代自身の想いでもある。
 行こう――。
ゆっくりと、艦橋へ向かい、2人は戻っていく。

 白色彗星との戦いは、さらに過酷な時間ときを、ヤマトの戦士たちに用意していた。
最後の死闘へ、戦士たちは向かっていく――。


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Fin
−−「宇宙戦艦ヤマト2」
綾乃
Count040 phese08−−27 Feb,2007


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count040−−「ただいま」
なぜ、こういうシーン書くかな。ってくらい悲しいですよね。笑顔で亡くなっていた加藤三郎は、「ヤマト2」の中でも最大、胸をうたれたシーンの一つでした(「さらば…」は皆、死んでしまうので、そのうち会えるさ、って気分になるんですが。この時真田さんも帰還していませんしね)。
 加藤三郎を殺すこともなかったと思っています。だけれど、「ただいま」というお題を見た時に、ぱっと浮かんだのが「ヤマトへの帰還」でした。コスモ・ゼロで飛び出す古代くんも、コスモタイガーの面々も、出てはまた戻ってくる。その時、残された命の貴重さと、ホッとする気持ち。そしてヤマト母艦の懐かしさを思うのじゃないだろうか、そう感じた話です。
 加藤三郎が最後に何を感じたのか。願わくは。愛していた人の面影を胸に抱いていた、と思いたいです。

 次はお熱い話でも何か考えられれば、いいな。

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