air icon 告白 -confession

CHAPTER-03 (009) (018) (020) (026) (069) (080)



この話は、No.09「もう、我慢できない!」No.18「ありがとう」の続きではありますが全く別の話です。
主役はブラックタイガー隊の隊長・加藤三郎と隊員・佐々葉子。
でも、2人は絡まないんですけどね。
No.84「First Kiss」 の後日譚でもあります。
順番にお読みいただくと、もっと楽しんでいただけるかもしれません。


20.【告白】

 「なにっ! 今、なんてったんだ、加藤っ」
格納庫で、振り返り、拳をかためて今にも戦闘開始、なスタイルで向き合う加藤三郎
と佐々葉子。
「そ、そんな構えるなよ――お前、だから女らしくないなんていわれるんだぞ」
「余計な、お世話だっ! あたしは男どもに女扱いされる憶えはないっ」
 どうやら本気で怒らせちまったらしいぞ、と加藤三郎は困った顔になった。
本当は。
艦内のこのブームに乗っかって、一度くらいゆっくりお話してみたいと思ったんだけどな。
地球へ帰ったら、つきあってみないか、って言ってみようかとも思ったんだけど。
――古代にフラれるのは確実だ。森ユキとの間は進展しているみたいだし、だったら
その間に俺が割り込んで、慰めてやったっていいじゃないか。
それとも、山本の恋人なのかな、こいつ?
 やるか? と正壇に構えられましても。
「おれ――喧嘩したいわけじゃないんだぞ」
困ったな、とつい相手をしそうになった構えを解いて、加藤三郎は力を抜き、葉子
に近づいた。
「じゃぁ、なんだよ」
まだ怒ってる風の佐々。
「だいったい、あの時の犯人もつかまえてないのに…」
あの時、というのは。艦内人気投票で自分に悪戯半分に(と佐々は思い込んでいる)
投票した連中のこと。
「――お前、まだそんなこと言ってんのか」
「あったりまえじゃないか。人をからかうのもほどほどにしろよ」
 わかってねぇな。
加藤三郎はそう思う。
――からかうだけのために3位なんて得票数が集まるわけないだろう。
お前、そんなんだから心配なんだ――自分の魅力、ちっとは自覚しろよな。

 閉鎖された戦艦――長く、辛い旅。
命の瀬戸際を走って、飛んで。そして共に戦い心通わせる。
それが、本気の恋や憧れや――そんなものに発展しちまうのが男ってもんだ。
懸命に生きて、隣にいて。お前みたいなキレイな女――惚れない方が少ないだろ。
 そうはとても言えない加藤なのである。
 男も女も――あまり細かいことは考えない。来るもの拒まず去るもの追わず。
適当に遊び、つきあって。本気で惚れた女はいなかった加藤三郎である。
このヤマトに乗り組み、こいつに出会うまでは。
――いや。惚れ始めた、といったらいいだろうか。
片思いが最初から決定している相手なんて。俺らしくないや、と思いながら。
艦長代理――大事な相棒で上官に惚れている女。
副官――親友が手の中に抱えるように、昔から慈しんできたらしい女。
どっちをどれだけ愛しているのか、こんなに突っ張ってはいても。きっと心の中では。
だけど。
俺に向けてくれてる信頼と友情も確かで。それだけでも俺は舞い上がる心地なんだ
けどな。
 一度くらい。
手の中に抱きとめて――そして……。
いやそれも俺らしくはないか。


 数日前のことだ。加藤三郎は見てしまった。
佐々葉子が、格納庫から艦尾へ向かう小さな側面展望室の処で、若い男と――って、ヤマトの
乗組員は役職者以外、ほとんど若かったのだが――2人で佇み、仲良く語らっているのを。
 男の方は何か熱心に話しかけている。あれは緑矢印、航海班のヤツだ。
背を向けているので表情はわからないが、反対に佐々の顔はよく見えた。
何か戸惑っているような、恥らっているような様子が、可憐、とも言えて、何だか
わからない感情がツゥン、と下からわきあがり、彼は戸惑った。
 「あ、ありがとう…って言えばいいの? この場合」
声が切れ切れに聞こえてくる。「…でもあたし。受け取れないよ」
それでも熱心に話す男を振りほどくこともせず、その、照れたような様子は、ふだん俺たち
には見せたことのない、佐々の別の姿だった。

 どうにも、あの格好がチラついて。

 青いドレス――きれいに梳かれた髪の淡い色が肩にふわりとかかって、ふだん気にもしない、
額にかかる後れ毛までが美しい。
白い肌――きれいなプロポーション。儚げに、真田さんに手を取られていた姿は、
とてもふだんのあいつからは想像できなくて。見惚れていたのは俺だけじゃない。
 固い表情のまま、すべてをこなしていたけれども。
山本といる姿を見て、どこかがきゅん、と苦しくなった。
柔らかい、リラックスした笑顔で話しているのを見て。
俺はいったいどうしちまったんだろう。

 「なぁー」
加藤三郎は、相棒で親友の山本明に問いかけた。
あん? と首を回して、見る。
「佐々ってさぁーー」。あぁ、葉子がど〜した。
「あいつと付き合うのかなぁ…」
ちょっとは真面目な顔になって加藤を見返す山本。
「あいつって誰よ」「航海班の――あれは、何ていったっけなぁ」
「長野のことか? ――太田の下にいる」
「知ってんのか!?」加藤はがばと跳ね起きた。
さぁなぁ、と山本はまたごろりと横になる。
 そんなに気になるなら、本人つかまえて聞いてみれば? と山本は言った。
それよっか、お前、好きなんだろ。コクってヤッちゃえばいいだろ、とまた 過激なお言葉。
「そんなわけにいくかよー。あんなシーン見せられちまうとよ」
「あんなシーンって?」
 あいつさ。
俺たちといっしょになってバカやって、空飛んでっけど。女の子なんだなぁ――ユキや
小百合と同じような…。「何、今さら言ってんだよ」

 とはいえ。
ブラックタイガー隊で佐々葉子に気のあることごとくが、この2人が怖くて手を出
せないことは、他所の班の人々が知っていたわけではなかった。
限定、戦闘機隊&戦闘班砲術部門について。山本はそんな様子を見かけると、容赦
なく飛んでいって蹴散らしていたからだ。
――だから、何となく。…佐々と山本はデキてるのかな、などと。そんな噂も。
だがこれはさすがに艦橋にまでは伝わっていない(相原の範疇外だからかも、しれ
ない・笑)。
「知ってるんだぞ、おれ」
「なにが」
「お前が邪魔ばっかしてること」
ふふん、と山本は笑う。
「長野ならいいのか――」軽くジャブをくれるつもりが
「あぁ」と肯定されてしまって、加藤は思わず「山本――」と言った。
 まともな職業しょうばいのヤツならいい――少なくとも明日死んじまう心配は
ないからな――俺たちと違って」
「山本――」
 (お前は、あいつの親父おやじかよ――)
恋人じゃなく、シスコンの兄妹か、というもなく。過保護――。
「大事にするったって屈折してるぞお前」加藤がすごんでみせると
「放っておいてくれ。俺は俺なりなだけさ」と言われた。
 なんなんだかなぁ、と加藤三郎。
考えてみれば、山本のそういった感情は佐々にしてみれば迷惑この上ない、のでは
あるのだが、自分だけ例外扱いにしてくれていることに気づくような加藤三郎では
ない。
この親友殿は(加藤が本気なら、仕方ないか――)そう思っているのに、だ。
 複雑に屈折する2人であった。



 ところで。

 「よう、佐々」
「古代――なんか顔見るの久しぶりだな」
格納庫で当直である。「お前、艦長代理のくせに当直なんてしなくていいんだぞ、
しかもここ、砲術士官の来る場所じゃないだろ」
古代進にこんな口利ける女は艦内広しといえど森ユキとこの佐々だけである。
「加藤にもそう言われたけどな――」
くしゃ、と笑って、それでもきっちり当直に立つ。
白に赤矢印って、格納庫には似合わないかもな、と思いながら。
「コスモ・ゼロには乗るんだし、俺はもともと此処にいる時間は長いんだから、権利、は
あるぞ」
「じゃなくってね――」
佐々の言わんとしていることは古代だってわかっているのだ。
艦長代理はただでさえ激務である。戦闘班長だけだったら少なくともこの帰りの航
海はさほど無理をしなくともよい。だが、沖田の体を気遣いながら艦の統率を取り、
命削りながら旅を続ける航海班や工作班を統べ……この若干19歳の若者の肩にそ
の責任は一気にかかっている。
当直――第一艦橋にだって当直はあるのだし、砲塔もまったく無監視というわけに
はいかないだろう。加藤はじめ、古代を“俺たちのリーダー”と感じてくれている
らしい戦闘機隊の面々が気遣ってくれている気持ちは、嬉しい古代である。
「ま、いいじゃないか――」古代は手近な1台に歩み寄って、手で触れんばかりに
それに近づいた。「……こいつら見てると落ち着くのさ」
「あぁ」佐々はその気持ちをも理解して笑った。
「そうだな」
人間関係も。艦内のざわめき、これからの地球でのこと――たとえば誰が誰を好き
だとかいうこととか。自分の感情すら、時々もてあます。
 「そういや佐々」古代は意地悪く言った。
「最近、モテてるみたいだな――あれ以来」ニヤリと笑う。間接照明で顔の表情ま
ではよくわからないが、佐々はかっと赤くなり、「ば、ばかやろー」と言った。
「お前こそ、ちゃんとユキに言ったんだろうなっ」
「あぁもちろん」
開き直ると強い純情青年である。「プロボーズもしたぞ」「古代…」
よかったなぁと顔がほころぶ。本当に…。
だがそう思う間もなく「お前はどうなんだよ。この間の話、有名だぞ」
「ばっ! ばか。あたしはそんなことー」
背を向けてしまうところなんかかわいらしいな、と初めて古代はこの年上の部下を
そう感じた。からかってやりたい気分満載。
「長野、だっけ」「な、なんでそれを」
「皆、知ってるさ」「お引き取り願ったんだけど…」
「何故」「何故って、、、」
古代はきっと佐々には好きな男がいるのだろうと思っている。
その気持ちに正直になれば良いのに――佐々の根底に巣食っているものを、彼は
まだ知らない。
「長野にはちゃんと謝った」「つきあってみてもいいんじゃないの」
「失礼だろ」「お前、恋愛くらいしてみろよ」「あたしはふつーの女じゃなくていい。
ブラックタイガーの方がいいんだっ」
「佐々――」「迷ったりすりゃ、撃墜されるのがオチだ」
「そんな理由か」「そうだよ、いけない?」くるりと振り向いて。
その瞳の中には、真っ直ぐな光が閉ざされているように思った古代である。
初めて、森ユキ以外を。キレイだな、と思った。
「無理するなよ――」
「あぁ…無理なんかしてないさ」
柔らかい口調に戻って佐々はそう言った。
 だけれど、古代。
「良かったな」そう聞いて、ぽつりと。
「――ありがとう」と古代進はそう言った。


 物静かで職務にまい進する人間、というのを佐々は本来嫌いではない。
 長野――たもつといったか。
少し年上で、島や太田の下で航路管理と計算に日々の職人的忠実さで励むそいつを
それまで正直佐々は意識したことはなかった。
 航海班の中でも訓練学校のフルコース務めた島や太田のような人間は少数派で、川
井や、この長野のようなパターンの方が多い。2年だけ基礎を学び、それぞれの専門職
のための研究室か大学へ移るかまた併学するのが通常だった。ガミラスの侵攻と戦い
による必然の戦時徴収――いや、ヤマト計画本部の特別選抜に選ばれたのだから、
優秀であったことは確かなのだろう。
 佐々より三つほど年上だったか――女性と付き合ったことはそれなりにあるそうで
非戦闘員の間では、わりあい人気もあるらしい――ということを、あとから先輩の伊勢
佳子から聞かされてへぇと思った佐々なのである。
 考えられない――。
 戦闘機隊の中にいて。日々命のやり取りをして。恋人は、ブラックタイガーと星の
宇宙うみ。地球へ帰ったらどうしようか、とかまだ考える余裕もなく、でも 戻ったとしても、
航宙機に乗っていられるかぎりは乗りたい、そんな生活以外。
望む前に、考えてみたこともない。
「いいじゃないか、そんなに難しく考えなくても。――君はきれいだし、けなげだ。君の
良い処も僕はわかっているつもりで、この数か月、見てきたんだ」
地球へ帰りつくまで、言うつもりはなかったんだ、という。だけれど。
「この間みたいに注目されて、皆に人気者だってことをあらためて知ってしまったら。
僕の気持ちだけでも知っておいてほしいと思った」ゆっくりと伝わる言葉。
「ずっと、見てたんだよ」
そう言われて――正直、びっくりした。
そんな風に自分を“女の子”としてみていた人がいたなんて。
なんだかバカにされたような気にもなるし、ありがたくて涙が出るような気もするし。
年上で大人――物静かで。
甘えられたら、もしかして、ラクだろう。でも。

 考えられない、そう言って。ごめんなさい、とそうも言って。
タイガー隊の連中と違って、殴っておしまい、というわけにはいかないじゃないか。
本当は弱いんだ、あぁいうタイプは――とヤバい佐々である。
 だいたいねぇ。
と佐々は横で当直に立っている艦長代理を見た。ん? ときょとんと見返す古代である。
(行きの旅で、こいつのこと気になったりしたのが間違いだよなぁ――)
佐々葉子の初恋、といえるのは、この古代進が相手であった。
それまで、男を男として考えてみたことなんかなかった佐々。
懸命に、地球を背負って。自分の道を極めようとし、空飛ぶ姿に惚れたんだっけ――。
でも。
それは行きずりの初恋というものだ、と今は笑って思える。
それに、こいつに命預けてることには変わりないからさ。とも思うのだ。

 やっぱり。
恋愛とか、私には関係ないや――。
佐々はたくさんのブラックタイガー機の、夜間照明に映える姿を見上げた。
どの機も、(隊員たちの暇に任せて)磨き上げられ、綺麗にその機体を見せて光っている。
(きれいなのは、あんたたちだよ――)
それに乗り、飛べることが自分の幸せだ。
それが、正義に適って、仕事でもあるということはなんと幸いなことだろう――。

 佐々葉子にとって、「告白」は一つのカルチャーショックだったけれども。
ありがたく、温かい心をくれた人だったけれど。
今は。
こいつらと共に空飛んでいる方が似合っている――。

 知らぬが仏、とはいえ。前途多難、の加藤三郎であった――。

【Fin】


綾乃
――「宇宙戦艦ヤマト」 A.D.2200
Count014−−18 Nov,2006

背景画像 by「Silverry moon light」様



←新月の館blog  ↑進&雪百・新月倉庫 index  ↓感想やご連絡  →新月の館annex


古代進&森雪100のお題−−新月ver index
あとがき、のようなもの

Count014 −−告白
  「First Kiss」シリーズ(?)ラストの1篇です(って、まだ関連作品はありますがとりあえずおしまい)。
  地球が近づくヤマト艦内。古代くんとユキちゃんも想いが適って、さてこんどはそのお世話を焼いたブラックタイガー隊の方々は、というお話だったり。うちではデフォルトの話ですが、意外にもやっぱりこの手の話ってのはお初。つまり、戦闘シーンも事件も事故もなぁんにもない話ってのが初めてなのであった。
  うわぁすごい、ラク。クセになりそうです(笑)。けどね、葉子ちゃんファンには少々切ないですね。
  山本って意外にいぢわるだわっ!

  佐々葉子、山本明、古代進、森ユキらの設定や関係は、三日月小箱−新月world=「小箱辞典」 を参照。
  物語の始まりは、NOVEL 「宙駆ける魚」 がベースです。シビアなside storiyですが。
  お楽しみいただけましたでしょうか。

Novmber 2006、綾乃・拝 
inserted by FC2 system