夜のしじまに−

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−−A.D.2200年、イスカンダル
Susumu&Yukiお題100−No.66:涼風

 「おい〜、山本、どこだぁ?」
ヤマトの甲板に寝転がって、冷たく気持ちのよいイスカンダルの太陽を浴びていると――
最近、ブラックタイガー隊の間で流行中だ。
警備と機器の点検以外は暇だし、うろうろしてっと工作班の連中に邪魔・粗大ゴミ扱いされる
し――加藤隊長が顔出して、そう訊いた。
「んあ? その辺にいねーのか? 格納庫は?」宮本暁が顔上げて返事する。
「見ねーんだよな。せっかくまた…」
「――飛ぼうってか? おめーら好きだね」くははと笑う。
「……だってよー」膨れる隊長。
「とっとと最初に飛んでってとっとと飽きちまうとこなんか、副官らしいじゃないっすか」
吉岡が混ぜっかえし、工藤が笑った。
 「あいつなら、宮殿だぜ?」
端の方で本など広げていた松本匠がひょい、とそう言った。
――いや、本かと思ったらまた楽譜か。こいつも相当マニアだな。
風に吹かれながらスコア読んでると気分いいんだよ、音楽が聞こえてくるんだ、と言うから
凡人にはわかんねー趣味である。
「宮殿?」隊長が、「……美人の女王さんでもナンパしようってか?」
山本ならやりそうだし、やれそうだと思った隊員たちに罪はあるまい。
「昨日から夜まで入り浸ってんな――」
松本がおかしそうに言うのに、隊員たちは、ん?
「……おもちゃ、見つけたんでね」
松本は一緒に昨日、宮殿を散策したのだ。許可されてる範囲ならうろついても良いといわれ
探検に出かけるところなど、好奇心が強いのかガキなのか。――禁じられる前にやってしま
え、と思ったというのは内緒である。
「たぶん、しばらく帰ってこねーぞ」という。
 「なんだよその“おもちゃ”って」
「――あいつに、ひこーき以上のおもちゃ、なんてあんのか」
「ちげーねぇ」わはは、と笑いが沸いて。

 (飛行機以上の、おもちゃ、か――)
男どもに混じって転がっていた佐々葉子だけは、少し心当たりがないでもなかった。
目を上げると松本と目が合う。
(ふぅん――)
あとで宮殿へ行ってみようと、思った。




 1人で動くな。これだけは厳命されている。
100人以上もいれば、どんな心得を起こすかは――いくら信頼できるヤマトの乗組員といっ
たって、わからないし、また何かあった時に対応ができない。慈愛の星とはいえ未知の惑星。
そしてコスモクリーナーを受け取りつつあるとはいえ、使命はまだ半ばに到達したばかりなの
である。
 松本匠と連れ立って佐々葉子は、その日の午後深い時間、宮殿へ出かけた。
生活班のクルーとともに資料を持って忙しそうに行き来する森ユキとばったり出会った。

ユキは艦と宮殿を往復し、さらにスターシアと親しく話すことも多いらしく、宮殿に居る
時間が長かった。また、古代進と一緒にいる様子も目に付くようである。
――いや2人がもはや互いにどう思っているかということは乗組員の間で周知となりつつ
あったが、2人自身にはそのような甘い想いではなく、責任者として飛び回っているに過
ぎない。生活班長と艦長代理――この後、目的を果たすために、地球へまだ14万8000光
年の旅を始めなければならない2人にとって、責任者としてそのプレッシャーは計り知れ
ないだろう。
 「ユキ――」
「あら、佐々隊員。任務中?」
「いや――宮殿見学だ」
「まぁ、貴女まで」ユキはくすりと笑うと、「図書館と資材庫には近寄らないでね。真田班長
が人じゃなくなってるから」――それって、気合が入りすぎてキてる、ってことか。
「真田さんが“人じゃない”のは今さら始まったことじゃないだろう…」
松本が言うと
「そんなこと言うと、大槻ちゃんに張り倒されるわよ。――もっとも、私も同じ意見だけど?」
いたずらっぽい目をくるりと動かすユキは、重い使命の中でも充実しているのだろう。生き
生きとしていて綺麗だ。
「――そんなに凄いのか? イスカンダルの科学ってのは」
「えぇ、まぁ。コスモクリーナーひとつとってもそうだし、もともとヤマトの波動エンジ
ンも設計図をそのまま再現しただけでしょう? ブラックボックスだった部分が随分ある
らしくて、積み込みと制作と研究がてら、ともかくなるべく多くの資料を解析して持って
帰りたいと思っているようなの」
ユキの洞察は鋭い。――そして佐々も、松本も頷いた。
 「興味あるなぁ…」
「なぁに、葉子。イスカンダルの科学?」
「あぁ――それもだけど、この惑星ほしの歴史とか、あらゆること」
そうね、2人ともけっこう学者肌ってかオタクよね、とユキは佐々と松本を見る。
「――山本くんもそんなこと言ってたな」
 「あ、そーだ。山本、どこにいる?」
「――博物館の方……公開されている部分しか見られないけど、まだそこにいるかも」
行ってみるか、と言って、じゃぁな、古代によろしくな、と佐々が言うと
「まっ――葉子ったら。…そんなんじゃ、ないわよっ」
そう少し頬を赤らめて、森ユキは去っていった。









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