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【Спасибо】

−−『完結編』後の世界
−−A.D.2208年夏
〜お題 No.17「ありがとう」

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(1)

 「ただいま、ご覧になれますでしょうか! 今、上空から、5隻の船団が、
はるか30万光年の旅を終えて、帰還します。華々しい地球市民のパレードが
これを迎えます。古代進司令以下、新ガルマン=ガミラス帝星から、今、無事
に半年の旅を終え、地球艦隊が帰還いたしました。
 市民の歓呼の声をお聞きください!
 今、宇宙時代の、新しい歴史が始まったといえるでしょう…」

 アナウンサーが興奮した声で叫ぶようにレポートを続ける中、轟音を響かせて、
しかし静かに5隻の艦は宙港へ着艦しようとしていた。
 もちろん着艦場に一般人が入れるわけはない。全世界に発信されている中継を、
佐々葉子は、病院のテレビから眺めていた。


 艦が地上に降り、乗員たちが下艦してくるのには時間がかかる。ましてや重要
人物――責任者ほど、下艦は遅い。すべての引継ぎを終え、地上班への引継ぎ
などが終わってからのことだ。
 だが、今回は例外。下艦の前に、甲板に姿を現した代表者たち――艦長にして
司令の古代進と、この船団の実質的責任者とも地球連邦の大使ともいえる科学
技術省副長官・真田志朗とその妻・リエ、そして操艦責任者として航路責任者でも
あった北野哲、また古代の揮下で副長兼護衛艦の艇長を務めた土門竜介の4人が
姿を現すと、盛んにフラッシュが炊かれ、大きな歓声が沸きあがった。
珍しくも真田の横に妻・リエの姿がある。医学者としても技術者としても一級の
朝倉リエは、初めて地球を離れ、この航海に同行していたのだ。もちろん、任務
を帯びて。


 その外の様子を伺いながら、メインブリッヂで最終チェックに余念がない徳川太助
や相原義一は。
 「――報告、終わり」
と言って、防衛軍本部に最後の通信を追え、インカムを外す相原。
「お疲れさまでした」と徳川が返して。
「早く行ってあげなくちゃ。きっと奥さん迎えに来てますよ」と言うに。
「――どうかな。忙しい時期だからね」と相原はまんざらでもなく。
「それよりも、お子さんに早く会いたいでしょう」
と横から若い技官が声をかけた。
にこりと相好を崩す相原は、年を経ても相変わらずだ。
 相原の妻・晶子は長官秘書室で現在は主任だが、出発してすぐに第二子が生ま
れていた。定期的に許される私信の中で、無事に女児出産との報は得ていた。
……だから実際。最後の最後をきちんと仕上げないと慎重に作業は進めていた
が――怖い鬼艦長に長く鍛えられた相原ならではの所作――本当なら早く妻や、
まだ見ぬ子に会いたい相原なのである。

 ブリッヂではひとしきり外の騒ぎをメインパネルに写していたが、ややあって。
古代の姿が甲板から消えた。そして。

 『――艦長、古代だ』
という声が響き、皆一斉に、緊張し、敬礼する。
『皆、ご苦労だった。皆の努力のお蔭で無事、役目を果たし、地球へ戻ってきた。
――良い旅を、ありがとう』短い、沈黙。
『……出頭はチームリーダーのみ明日13時本部、それ以外は引継ぎを終えたらゆっ
くり休んでくれ』
 古代の「皆、ありがとう」が出ると、皆、一様にホッとし、感動する。地球へ
戻ってきたなぁという気持ちになるのだ。
――最初の旅から。古代は艦長になってずっと。この科白を言い続けてきた。
乗艦中はむしろ強権を発動することも多く強引とも取られる艦長だが、戻れば、
常に。“皆に支えられ、皆あっての艦長だ”と常に、その言葉と態度をもって示し
てくれる上官。――だがそれも。
この上官あってこそ皆がついてくるのだけれどな、と相原は思う。
 思えば古代にしても。あの、苦しかった最初のイスカンダルへの旅の終わりに。
沖田十三の「ありがとう」を聞いて以来――無意識に続けてきたのかもしれな
かった。


 
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