ship icon日々是平安

(1) (2) (3)
    
   
   
【日々是平安〜戦闘機乗りの平日】

−−A.D.2209初秋
:お題 番外


(1)

 ここの処、加藤四郎隊長は張り切っていた。
「おうっ、行くぞ、次――ぐずぐずするなっ!」
声が響いて、一息入れようと座り込んでいた隊員たちは、慌てて立ち上がり、
位置に付く。
「まったく……疲れないんですかね、隊長は」
「……ここんとこ平和ですし、ここまでやんなくっても」
「そこ、なにぐだぐだ言っとるか! 早く搭乗しろっ」
 目ざとく雷が降ってきた。


 「おう、ご苦労さん」
ぽん、と肩叩かれて、見ると、溝田幸だった。
「調子いいみたいだなー。新人がビビってるぜ」と笑う。
「なに言ってんだ、いつものことさ」
新ガルマン=ガミラス帝国から戻り、その成果を纏め上げるのにも膨大な労
力がいる。また半年以上留守にしていたため、その間の緩みや、その間に入
ってきた新人たちの統制も気になっていた。けっして、張り切って元気なだ
けではない、という隊長である。
 「おれ、知ってますよ〜」
ディンギル戦から加わったくせに、しっかりもう大きな顔の小此木が、2人
がじゃれてるところへ顔出した。来生や功刀も一緒である。
「隊長は、結婚したから幸せいっぱいなんですよね〜」
「え、こら」
ふんと振り返って睨む。
「結婚なんか、してやしない」そう言うが。
「まぁ実質、初めての新婚生活だからな〜」
溝田も調子を合わせてからかった。
 佐々葉子と加藤四郎が恋人同士であり、何故結婚しないのだろう、という
ほどラブラブな仲であることは戦闘機隊メンバーなら知らない者はない。惑
星探査、そして銀河系中央域調査を経てディンギル=アクエリアス戦では共
に戦った。その中で、決して私情に走ろうとしない2人にやきもきしていた
者も多かったのだ。
「佐々さんクールですからね」
「でも、子どもも生まれたし? 幸せ一杯でしょう、隊長」
ここぞとばかりにからかうのを、四郎は「うるさいうるさいっ」と言った。

 ガルマン=ガミラスへ大編隊で遠征している半年の間に、一子・大輔が生
まれている。四郎としては、旅立つ前に告げられて、帰ってきた時はもう生
まれていたのだから(誕生2日後に帰還、というなんともいえないタイミン
グではあったが)、いつの間にか、という気分がしないでもないが。
それでも、焦がれて追って受け入れてもらったとはいえ、“絶対に手に入らな
い女”だった相手が、毎日帰れば家にいるとなれば。それはもう幸せなのは
当たり前だった。
 「ご飯できたわよ〜、お風呂どうする〜? なんて言われて」
「もう、この幸せもん」
「あの佐々さんがね〜、と思うと、それだけで萌えちゃいそ」
若者たちは勝手なこと言っている。
それはそうだ。彼らにとっても佐々葉子は憧れであり、怖い先任であると同
時に訓練教官でもあったのだから。その女性士官が、わが尊敬する隊長殿の
ためとはいえ、家にいて赤ん坊あやしたり食事作ったりしているとは、とて
も信じられないのも本当で。
 もっとも四郎にしてみれば、いつまでいてくれるんだろう、という危惧は
ある。まだ大学が残っているし、子どもも2歳半までは、と言っている。だ
からこそ、地上勤務なんか希望している自分でもあったのだが。

 隊長って、亭主関白なんすか?
とまだ興味津々の若者たち。
「んなわけないだろ」と溝田。
「体よくこき使われてんじゃないか」と笑う。
「え〜、案外、そうでもなかったりして」
「じゃ、佐々さんが尽くすタイプだってか?」「それも想像できねぇ」
「でも案外…」そういって黙って顔を見合すと、皆、一様に赤くなった。
……想像したらしい。
 ぱこぱこ、と頭を殴られ
「隊長、ひどいですぅ」と情けない声を出す一同。

「ねーねーねー。遊びに行きたいな、俺たち」
あん? 「副官にもお会いしたいんですけど」と今度は佐々をダシに。
要するに新婚家庭を覗き見したい、ということらしい。
 「え、本当か」「俺たちも〜」
いつのまに沸いて出たのか、他のメンバーも囲んでいて、四郎は身動きが取
れなくなった。「おい、溝田、こいつら何とかしろ」
「あはは、いつもいじめられてる仕返しだ。諦めて見せ付けてやったら」
 う〜。
「俺も一度お邪魔したいと思ってたんだ。今までの単身者用じゃなくて家も
広くなったろ、いいじゃねぇか」
「…う。…葉子に訊いてみないと。……あいつだってそれなりに忙しいんだ
し」
 大学もあるし、訓練学校の教官もあるし、母親教室とか育児の方のいろい
ろもあったりするみたいだ。時々本部にも……大丈夫かな。
「ようこ、ねぇ」ニヤニヤ。
「あいつ、ねぇ」とさらにニヤニヤ。
 もうっ、煩い!
そう言われている四郎は、歴戦の戦士で隊長で大尉殿だといっても、まだ24
歳である。


 リン、と電話のベルが鳴った。
有線にかけてくるなんて珍しいじゃない?
ぴ、と操作するとサブパネルに四郎の顔が写った。
「どしたの? 遅くなる?」
残業だったり急なミーティングや呼び出しがあるのは常で。それに、まぁ男
の付き合いなんかもあるから、真っ直ぐ帰ってこないことなんてしょっ中だ
と、そういう父親を持った葉子は思っているが。四郎にしてみれば葉子がせ
っかく家にいる、なんていう稀有な日々なのだから、なるべく真っ直ぐ帰っ
てきたい、と思っている。だから必然、夕飯は家で、になることが多いし、
そうでないときは連絡が入る程度にはマメな同居人であった。
 ちょっと渋い顔してる四郎に。
『なぁ、今日、突然夕飯の人数増えたら困るよなぁ』
え。と葉子は。それが顔に出たのか。
『無理ならいいんだ……大輔もいるし、またにしてもらうから』
「なに、どういうこと?」
『――隊の連中がさ、お前に会いたいって』
 そういえばもう半年以上……人によっては1年近く逢っていない。ヤマト
自沈後、すぐに宇宙へ出てしまい飛び回っていた葉子と、隊に残った面々。
共に駆けたメンバーと、今、四郎は再び共に仕事をしているのだ。
「ん…そうねぇ」
今日はちょうどエスニックだから余分目に炒め直せばいいかな、、、もう少し
材料あるからおかず増やせばいいし。あとはなんか買ってきてもらうかな。
「……何とかなると思うけど。――何人くらいなの?」
『オレ入れて6人、、、』
そりゃまた多いわね、と言いながらも「いいわよ。私も、お客様は嬉しい
わ――あぁでも、子ども気にしないならね」
『本当か』
四郎は実はあまり歓迎していない。
だって。少しでも葉子や大輔とゆっくり過ごしたいから。
 カップや椅子はあったかしら、と思いながらも。
「あんまりお構いもできませんけどって」
『あぁ』
「それと、お酒買ってきてね――うち、あまりないでしょ」
『わかった。適当に見繕っていく――ほかには?』
「う〜ん、、ペーストと乾き物」
『了解』

 「隊長、佐々さん何ですって?」
「うん…来てもいいって。これから」
ひょっほー、と喜ぶ連中。
「ついでだ。飯も家で食えよ」
隊長気が利きますね。
 全員が独身で、ほとんどが1人暮らしだ。恋人や家族の居る者もいないで
はないが、佐々に逢えるのと、その料理を食えるというのはなかなか贅沢な
ことで。
「だけど、悪さするなよ」と釘を刺すのは忘れなかった。

 
←新月の館  ↑Shiro KATO indexへ  ↓次へ  →旧・NOVEL index

Copyright ©  Neumond,2005-09. Ayano FUJIWARA All rights reserved.


inserted by FC2 system