airアイコンLandscape〜一杯の珈琲

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【Landscape〜一杯の珈琲】   

 
−−A.D.2214頃
〜お題 No.89「Landscape/景色」
   
(1)

 火星コロニーに着任して半年になる。
 先任たちばかりの中で、卒業して3年めの自分が、ある程度の責任を持つ立場
での配属は、願うところだ。しかもこの火星コロニーは人類が外へ広がっていく
ための拠点となり実験と実践を兼ねた居留地。防衛軍最大規模を誇る基地のひと
つ、火星総合訓練基地にもほど近い――って当たり前か。
 当初はまるで開拓団の様相を呈していた場所も、落ち着いてみればさすがに他
所では見られない瀟洒なエリアや…さっそく有産階級にとっては、格好の“特別
なリゾート”としても認識された様子だ。その空気や水も作り出さなければなら
ないため、贅沢といっても限度はあるのだけれども。

 直属の上司が女性だったことには驚いた。
 こんな時代だし、ガミラス戦からの激戦で男性の人口は随分減ってしまった。
だから、軍にも女性兵ウェーブの割合は増えて、現在12%強。非戦闘員を含めると
なんと30%を数えるという。だがこの火星コロニーは特別多いような気もした。
 だから別に、確率からいえば不思議ではないのだが。

女は好きだが、苦手だ――。
 須永征すなが いく少尉は、正直な処、そう感じていた。
扱いにくい…華奢で折れそう。しかも頭でっかちだったり。気を使ってやらない
といけないし。プライヴェートでは楽しいそんなことも、仕事や何かをやらなけ
ればならない時に、感情的なことを持ち出されたり、様々な面倒が嫌いだ。
 小柄で、華奢ともいえる姿。
(おい、大丈夫かよ――)と思えるようなそのひとは、初対面から射るような目で
一同を(といっても1班の人数はさほど多いわけではない)睨み渡し、
「私が、当基地副司令の補佐を務める、佐々葉子だ。階級は大尉、ここでの任務
は副司令補で、さらに地球では特務企画部員でもある。コロニーの開発と支援が
主な仕事。諸君らは苫米地とまいち副司令の直下に入るので、私とも付き合いは多くなる
はずだ。…何か質問は?」
とこういう時には別に質問を求めているのではない。説明が不十分だったといわ
れるのを避けるための方便で、ここで滔々とうとうと質問を繰り出せば、嫌われることは
必定。訊きたいことはあらかじめ調べればわかることがほとんどだし、訊かなくて
済むことは、そのうちわかるからだ。
 だが。珍しくも手が上がった。…新兵か、わかってねぇな。
「副司令補――」
「なんだ、そこの男――南准尉?」
そう呼ばれた若者は、名を言われてびっくりし直立した。
「はっ! 南由紀生みなみ ゆきお准尉であります」
「なんだ」冷たく副司令補が問い返す。
「さ、佐々副司令補は、あの、“ヤマトの佐々”さんですか」
 なんだか頓珍漢な質問だが、彼女はキッとそちらを向いたまま、言った。
「任務に関係あるのかね――」速攻で殴られなかっただけめっけもんだ、と思う。
「おおありです…」気持ちは、わかった。

 佐々葉子の名は、ヤマト関係者として知られている方ではない。だが。
初戦から僅かに生き残った女性戦士として、一部ではカリスマ的人気がある。
…そうか。“ヤマトの佐々”か。
 ならば、話は別だ。
「前職は本部の特務企画室。それ以前は月基地で副司令を勤め…確かに、長く
地球防衛軍第13独立艦隊旗艦戦闘機隊次官――つまり、俗に言う“宇宙戦艦
ヤマト”に勤務していた」
「はいっ……」
さらに敬礼する、南准尉。緊張しまくってるな?
「……だが今、ヤマトはすでに無い」佐々は少し言葉を切った。「地球は新しい
歴史を刻み始めているところだ。意味は、わかるな」
 最後の口調は少し緩んで、南をじっと見つめるような目になった。
は、はいっ! と緊張して答えるも、ぼぉっと上気してきて。
彼女が何を言いたかったか、わかったようだった。
「期待している――地球人類の。新しい一歩を踏み出す場所は、ここだ。火星だ
――確かに私たちはヤマトに乗り、戦ってきたが。その地球のこれからは、われ
われ……君たちの手で作るんだぞ。わかるな」
 長く話しすぎたな、と言って。
ほかになければ、解散。
明日、8時半から通達の行った者は第16ミーティングルームに集合。プランを説
明する、と告げて、カッカと靴音を響かせ、佐々大尉は退出していった。

 ほぉ、とため息が漏れるのは――皆、なんとなく緊張していたせいか。
(へぇ――)と須永は思う。
これから面白くなるかも、しれない。


 
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