地球光アースライト・3〜生還

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−−A.D.2220「宙駆ける魚」(Original)番外篇
:お題 No.32「生きる」
「地球光〜格納庫」「地球光2−信頼」続編
   
【地球光・3〜生還】


(1)
〔病室にて――〕

 ふと目が覚めると、モスグリーンの天井壁に斜めに陽が差し、光の縞模様が
できていた。少しばかり開けられた窓にカーテンがそよぎ、チラチラとその光
が水面のように揺れるのを見ていると、それが擬似的なものであることを忘れ、
あたかも地上にいるような錯覚を覚える。
 さらに水底にいるような心地になり、またとろとろと眠気が戻ってきた。
(よく寝るな――)
我ながら…もしかして、薬のせいで。

発見され、病院に収容されて3日。
時折、断続的に襲う痛みを散らせるために投与される薬が思考を鈍らせる。
…無理やりに意識を覚ませようと意志を振り絞り、冷や汗をかきながら重い瞼
を開けると――あぁ…ここは病院だ。
守られている……安全であると確認して、またほぉと息をつく。

……まったく、どうしようもないな、戦闘員の本能というものは。
どんな時でも、たとえ深い睡眠や気絶した意識の中でも――常に神経は、
目覚めようとする。生存の、本能。
ただ一箇所……心から安心して眠れる場所は――宇宙でただひとつだけだ。
温かくて堅牢な人間の腕の中。年月を経て――離れ離れに長く暮らしても。
子らが生まれ、また巣立っても。
ただ一人…あのひとの腕の中だけ。

 佐々葉子ささ ようこはまた、うとうとと眠りに入る。


 護衛艦イサス、無事――。
月基地に、相原通信士さんからの一報が入ったのは3日前だ。
大きな懸案しごともとりあえずは抱えていなかったため、執るものもとりあえず、 辺境ガニメデ
まで来た。
報告の詳細がオーバーになったり数字が違ったり、逆に矮小化されるのは初期
段階ではよくあること。が、これは“誤認”というものだ――と彼は思う。
『全員無事――怪我をしてはいるが、ひどくはない』
――正確には。
1人が死亡…または失われ、葉子の怪我は重傷一歩手前、だった。
だが“無事”“生命に別状なし”に間違いはなく、それで善しとするしかない。
 ワープによる地球への搬送は困難で、ガニメデ基地に佐々をはじめとする怪我
をした3人は収容され、古代の配慮で艦医で佐渡医師の弟子でもあった貝塚俊
が――防衛軍中央病院から――駆けつけた。
 肋骨が折れ肺に到達寸前。大たい骨にヒビ、と左腕骨折、背に裂傷…典型的
な宇宙空間で大きなGを受けた時の怪我。もちろん銃創と火傷。
…心配されたのは怪我をしたまま艦ごと漂流したための血液の汚染と宇宙放射
線病だったが、幸いそれは初期処置が良かったのか、心配ないと出た。
 満身創痍で蒼い顔をして横たわっている姿を見た時、加藤四郎かとう しろうは胸の底の方
までが痛みで疼くような気がした。
(かわいそうに――)
哀れまれるのはイヤだろうしそう言ったら怒るだろう、この人は。
だがなぜ、この人は。こんなにまで――。

 うっすらと弱々しい表情で目を開けた。四郎に気づいたのか、夢うつつのまま
幸せそうに微笑んで、また眠ってしまった。


 
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