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【待ち合わせ〜月の休日】

−−between「宇宙戦艦ヤマト」&「2」
−−A.D. 2200
:お題 No.28「邂逅」


 珍しく、山本明から個人的に連絡があった。
「どういう風の吹き回し?」
月面基地に赴任して半年になる。先日、とても久しぶりに合同演習で逢ったば
かりだ。
もともと親しい先輩――周りには付き合ってんじゃないかとか、恋人同士だとか、
気があるとかいわれることも多いけれど。その程度には仲も良い。だけど、この
月に来てからも、個人的にミーティングしたのは、本当に2度あったかなという
ほどだ。
 「いいじゃねぇか。たまには、“デート”しようぜ」
「そういう関係じゃないでしょぉ、“先輩”」
にくまれ口にはにくまれ口で返したくなるのも人情だ。
「そんなにお暇じゃないわよ」と佐々葉子は言った。
ほぉそうか、とヴィジホンの向こう側の小さな顔は言う。
「この月基地で忙しいヤツがいたらお目にかかりたいぞ…」
う、と葉子は返事に詰まった。「それとも何か? 恋人でもできた?」
う。とさらに言葉に詰まった。
「余計なお世話よっ」
切られそうになって、慌てる山本――あちゃ、痛いとこ突いちゃったか。と苦笑
する。
 「悪い悪い…謝るよ」
向こう側の画像はこういう時、可愛い女。普段はあまり表情が表に出ない
だけど、それは商売柄と育ちのせいで、本当はとてもかわいいなんだけどな
と山本は思うことがある。
まだぷん、としながらも、切りはしない佐々である。

「コスモタイガーでさ、XO地点に明日午後0時ってのはどう?」
はぁ?
タイガー乗ってけって? どこが“デート”なのよ。明日は休日。
「許可取るの面倒じゃない…」
「俺がやっといてやるよ、哨戒だとか調査だとかいって」
「休日にやってミーティングなんかしたら、一発ばればれじゃない…」
「まぁいいじゃないか。どうせ噂なってんだろ?」
「すっごい、迷惑」――さほど迷惑そうでもない葉子。
 確かに公共機関は本数が少なくて、月の裏側にいる山本と待ち合わせるの
はさほど簡単なことではない。ふだん乗っている艦載機ならひとっとび1時間だ
というのに。
 XO地点、というのは小さな集落があって。観光地とはいわないまでも、人工
的な温泉も沸いていたりして。都市コロニーとは別に、人々が集まる場所でもあ
る。その郊外には、人工衛星の発着場もあった。
「どっちよ」
と葉子は問う。
「あぁもちろん」と山本は答えて「郊外の方だ――で」とニヤリとして。
「帰りに温泉でも寄ってく? 奢るぜ」声が砕けた。
「ばぁか」――冗談にもほどがある。…健全な宿泊施設だけじゃなくて……もに
ょもにょ。
もちろん月にだって、いろいろあるのだ。
 噂に反し、山本とは特別な関係というわけではない。…でも、単に友人という
だけでもない…ような気もする。男女の関係はないけれど――それは山本側
の特殊事情もあり、葉子の方も特別な感情は持っていない。だが…誰よりも近く
に居る人間、であることもまた確かである。――悪友で先輩。そんな付き合い。

 「わかった――じゃ、借り出し手続き終ったら書類メール入れておいてくれれ
ば」
「あぁ――お洒落してこいよ…ってわけにいかないけどな」
「ばぁか」
「着替え持ってくれば」
「何考えてんのよ」
「はは…じゃ、明日な」
「了解」
そう言って通信は切れた――。
 何考えてんだろうね。
 だが、官舎(いえ)でごろごろするか家事して部屋でのんびりするか、ショッピ
ングに出かける…くらいしかやることがないのもまた事実。連中と会って朝から
飲んだくれる? それもまた不健全だろう。
広いとはいえこの閉ざされた衛星で。
ふと。
(加藤じゃなく何故私なんだろうな?)そう思った葉子であった。

 視認してから全景が現れるのにさほど時間があるわけではない。空気のない
この空間では、距離を目で測ることは難しいからだ。
そういう意味では表示されるレーダーの数値の方がよほど現実味がある。
 いくら毎日自分が駆っている愛機だとはいえ、休日に私用で乗り回せるもので
はない。コースを外れた自由な飛行は、たとえそれが月の表面を半周するだけ
でもとても気持ちよかった。
(上がっちゃお)
軌道上まで飛び、周回に乗る。地面すれすれを飛ぶのもまた良い訓練になるし
快感ではあるが、宇宙との堺――航路を高くとり宇宙に近づくのもまた気持ち
よいものだ。
 (来たな――)
山本機は(パイロットなら誰でもやることだが)カタパルトの横に妙なペイント
がしてあって、最近は尾翼にも少し――(俺ぁブラックタイガー気に入ってたん
だよ)と。
黒と黄色の旗のような書き込みがしてあるのは、隊長に怒られたとか司令に
怒鳴り飛ばされたとか…相変わらずのヤツだ。
さっそく加藤隊長ったら怒ったくせに、自分も真似してたっけな。
――葉子の機体は綺麗なもので、ただ小さくヤマトの錨のマークが尾翼に入
れてある。
すいっと見事な着地で、許可されている地点の外れに着いた。
(コスモタイガーで待ち合わせか…あたしたちらしくていいやね)
その姿を美しいなと思いながら自分もすいと着地する。
岩山が視界を塞ぎ、集落部とを隔てていた。
少し高台になっているが、空気のある場所のひとつ。
 「久しぶり」
「よぉ」
ヘルメットを脱いでその女性的ともいえる美しい顔立ちを露にした山本明に
葉子は声をかけた。「時間どおりだ」ニコリと笑って。
 星が見える。
 「あと30分――」
「なにが?」
「あぁ…着いてくればわかるさ。来たばかりだけど、“デート”するのは後にし
て、もう1回行こうぜ」「何だよ…そりゃ別にいいけど。そのために来たんだし」
そう言うとすぐにまたヘルメットを被り、発進手順を進めていく。
 すい、とまた2機は月面を離れた。


 
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