移り香−reunion

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【移り香-reunion】

★このお話は、お題2006-No.27「Ich habe getroffen」
「たゆとうままに…邂逅」の番外編ですが、
当該taleとは独立した話です

−−A.D.2206
:お題2006-No.68「移り香」

 

(1)
 (え?)
自分はそんなに嫉妬深い方でもないし、あまり付き合ってる男のあれこれに気
が回る方でもないけれど。
 佐々葉子はそう思っていた。

 
 「だいったい、葉子ってば。加藤くんを放りっぱなしすぎよ」
親友の森ユキ――現在の本名は古代ユキだが、あまりにも有名なその名の
ため旧姓で勤務している――も、そう言う。
「そうかなぁ? 男っていちいち詮索されると逃げたくなるんじゃないの?
仲間なんか皆、そう言ってるぞ」
壁に背を寄せて、好きな珈琲など口に運びながら防衛軍の渡り廊下でしばし
ご休憩する2人である。互いが多忙なため――また葉子の方はあまり地上に
居ないこともあり、そして仕事上、2人とも、お互いの相棒との方が一緒にい
ることが多い、という不思議な関係でもある。
「それって、戦闘員が特別なんじゃないの?」
「おい――古代だって戦闘員だぞ。しかも一級の」
「あ、あら…そういえば、そうね」
古代にそういうのはあり得ないしな、と佐々は一人納得して珈琲を含んだ。
 およそ“英雄”で“戦神”の古代進ほど、その名と実態の違う男もない。
いや、もちろん一方はその伝説が生ぬるいというほどの真価を持つのは戦い
の場を共にしてきた2人にはイヤというほど知れていたが、普段は「え? こ
の人が!?」というような、柔らかい印象の穏やかな好青年だ。――戦闘機隊
の、確かに洗練されているとはいえ荒くれっぽい連中とはわけが違う。高級
士官というのは本来そういうものなのかもしれないのだけれど。
 「う〜ん」
黙ってしまう葉子は、
「勤務の過酷なわりに、けっこう会ってると思うけどな…」
と不満げである。
「ん、もうっ。普通は女の方が会いたいって思うもんなんじゃないの?」
「それはそうなんだけどね…」不満そうな口ぶりのわりには、表情は明るい。
愛し合ってる、という確信があるからなんだろうな、とユキは思う。
 古代とユキ夫妻も軍内では知らぬ者のない、臆面のない熱々ぶりだが、こ
の佐々葉子の恋人・現在は機動隊艦載機チームの開発隊をまとめながら月
基地の司令補佐も務める加藤四郎は、それこそ人目などはばかるどころか、
「悔しかったらお前らも、このくらいの恋人見つけろよ」
という程度には臆面もない。照れ屋の進には求められない大胆さは、兄の
三郎譲りなのか――とも思うユキである。
 「でもね。やっぱり葉子、冷たいわよぉ」
ん? そうなの? という顔を向ける葉子にユキがくすりと笑った。
「もうちょっと、ヤキモチくらい妬いてあげなさいな。そういうのって男の人
は嬉しいものみたいだから」
 実際はそうでもなく、四郎も葉子に対して意の強い処はあるのだが、ユキ
から見れば四郎は葉子の言うまま唯々諾々と従っているように見える。
待てといわれればいつまでだって待っているだろうし、イヤだといえば言う通
りに、とでも言いそうな。彼が結婚したがっていたことは夫の進を通じて知っ
ていたが、いまだ何の約束も交わしてないというのは本当のようで、それに
は彼女の方の強固な意志があるのだろうと進は言っていた。
 (――まだ、加藤くんを忘れられないの? それとも…)
島くんなの? とは、心の中でも続けられないユキである。
 加藤三郎とのことは、もはや旧ヤマト乗組員の古いメンバーなら知らない者
もなかったし、四郎自身が言っていることもあって周知の事実だったが。ユキ
は、進だけでなく自身の親友でもあった島大介と葉子の間に流れる不思議な
つながりは何となく察していた。
彼が失われてまだ2年は経たない――誰もがその衝撃から立ち直ってはい
なかったが、表面に全く見せなかっただけに、彼女の傷はどのくらい深いの
だろうと想像してしまう。

 「それより。どうだよ、久しぶりの古代との“新婚生活”は?」
そんな風に言うのは、一昨日、帰還したことを知っている所為だ。それも当然、
佐々は現在、古代の下で同じ艦隊に所属しているのだから。
佐々が居るということは古代も地上にいるということで――
「再会も熱くて結構だよな」
特に深い意図はないのだろうが、からかうでもなく、まるで単に事実を述べ
ました、というように言われるのもまた顔が赤くなるユキなのである。
 だって実際――。
 再会した日は、それは。もう。
あれほど求め合い、命を預けあい――ようやく結婚してからの半年。その間、
進の地上勤務はわずかで。もちろんユキ自身が火星に行ったり、ガニメデへ
赴くこともあり、現地で会うことも何度かはあったが、それでも彼が“帰って
くる”時間は、ヤマトに居て共に同じシフトで働いていた時期よりも遥かに少
ないといえるだろう。

 それは佐々の方にしても事情は同じで、現在、主に地上勤務をメインにして
いる四郎は、佐々が戻ってくれば、その官舎いえに入り浸っている。
「ここから出勤するんじゃない〜っ!!」
といくら言ってみたところで同じ。
最近はもう諦めて、半同棲のような生活も受け入れてはいたが……つまる処
古代と同じ外周艦隊に所属する佐々は、年に何週間も地上にいるわけでは
ないのだ。
 それでいて、つい。
(別に、女房ってわけじゃないんだけど…)
そう思いながらも、なんだか服がかかっていればクリーニングくらいは出すし、
早く戻れば(地球に居るときは基本的に忙しいのは四郎の方だ)、夕食くらい
は作る。
身の回りの面倒を見てしまうのも、別に苦にならないし――とはいえ、四郎
は、たいてい自分のことは自分でできたし、それも苦にならない性格。
ましてや料理は。
葉子も苦手ではなかったが、遥かに腕前は彼女を凌駕した。以前に、生活
班にスカウトしたいくらいだ、と幕の内さんから聞いたことがあるほどだ。
 でも。いつの間にか四郎といるのが当たり前になってしまって――たまに
「泊り込み」や「夜勤」「出張」などあると、なんとなくぽやんとしてしまうの
も確かだった。
もちろん四郎は、葉子が地上に居る時は万難を排し、よほどの出張でない
限り受けないし、当直のシフトなども仔細に計算して外してくる、というのは
葉子以外の艦載機隊員たちには知られまくっている話でもあるが。

 
 
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