去るもの・行く者

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【去るもの・行く者】   

 
−−A.D.2204
『完結編』直後の世界の構築
:お題 No.20「タバコ」

(1)

 自席へついた佐々葉子大尉のコンソールパネルに、ぴ、と一本のメールが
飛び込んだ。
 目を走らせて、顔をあげ、同じ部屋の奥にいる上官――結城一意参謀を見る。
参謀は頷く。
はい、と目顔で答えた。
……おそらく古代艦長も来るのであろう。そういえば寄航したばかり。こだい
現在、中規模の改造戦艦=駆逐艦の艦長を務め、木星空域までの輸送艦隊
の護衛と地球防衛圏の防衛に勤めながら本部のシステム再構築に尽力して
いる。同じ仕事をすることになるはずだ。


 午後早い時間――。
 奥まったミーティングルームの一つに、結城参謀、佐々大尉と向坂さきさか技官が
参集していた。まだ時間にはしばらくある。
緊張した面持ちで手元の資料に目を通す佐々であったが、そこへノックの音が
して、秘書官が連れてきたのは、古代艦長。それと。
後ろからは――
 (四郎……)
珍しいメンバーを揃えるものだと。加藤四郎の参加は知らされていなかった。
が、内容から推測はされよう――おそらく実際に現場を動かすのはこの二人
になるのだろうから。
 3分前。
「お客様をお連れしました」
再び秘書官の声がして――通常はロボ・セクレタリだから、これが随分と重要
な会議でありメンバーであるとわかる。2人の男が姿を現した。
 見た途端、はっと立ち上がる佐々。
顔が引きつり――めったにないことではあったが、血の気が失せた。
慌てて感情を見せてしまったことを後悔し、すとんとまた元の席に座る。
握り締め、小刻みに震える手の関節の色が白く変わった――。

 「お呼び立てしてすみませんな」
と結城が口火を切って、ま、どうぞ、と円形にしつらえられた室内の椅子を勧め
る。パネルが背後にあり、近代的な設備のその部屋は実用本位で、客をもてな
すようなつくりではない。
もちろん今日の会合は目的あってのもので、友好を深め楽しむ必要もないの
だった。
 「紹介しよう――」
結城は立ち上がり古代と加藤の方を向いた。
「太陽系ゼムザ管理機構から委託で仕事をされているMISHIO工機の方々だ」
半官半民――1大企業となったNAMBUとは異なり、あくまでも公の顔の方が
強い。だがMISHIOはそのメーカーである。
「企画技術部長の谷口部長――と、主計官の、佐々室長」
2人が立ち上がって軽く頭を下げた。
谷口と呼ばれた部長は細面で表情の読めない風体をしている。
 あっけに取られている古代と四郎に向かって
「名前でおわかりだろうが、佐々大尉のお父様だよ――実の」
葉子の固い表情がさらに無表情になった。
 もう、何年逢っていないか――。
 なぜ、今ごろ。しかもこんなタイミングで。

 新しいプロジェクト――ヤマトの後の、新造戦艦の造船。そのコンセプトワーク
に参加しろと佐々葉子が告げられたのは一週間ばかり前だ。
配属されている特務企画室は、アクエリアス来襲後の新しい地球の環境も鑑
み、防衛軍のシステム構築を担当する重要部署である。
ヤマトでの実践経験、しかもすべての戦いの生き残り。訓練教官としての資
質――また知略も立てられる能力を求められ、ここにいる。けっして艦載機隊員
としてのキャリアだけではなく――それは、生き残ったコスモタイガーの中、佐々
特有のものだ。
古代進も戦闘参謀として現場に従事しながらも、現在の所属は同じである。
もちろん佐官でありまた遊軍でもある故、持つ責任範囲は異なる。恐らくさらに
重い責任を負わされていることだろうが。
――相棒の島大介亡き後、古代がどのような想いを抱えて仕事にまい進して
いるか想像するだに余りある。
ただ救いは、やっとの想いで結ばれた愛妻・ユキのお腹にいる赤ん坊。
そのユキはといえば、科学技術省に戻され、軍部顧問としても重要な役割を
担う真田副長官の部署に所属し、産休まではそこで働いていた。

 初めまして、佐々です。そう言いながらも、生物学上の父親に当たる人物は、
葉子のその想いを知っているのか、そちらには一瞥を呉れただけで見ようとも
しない。
(――見られるもんか……こっちだって、そんな顔、見たくもない)
硬い表情をさらに引き締め、目の前の仕事に没頭しようとするが、うまくいかな
かった。

 
背景画像 by 「妙の宴」様

クリップアート by 「Deam Fantasy」様
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