駆ける〜そばにいても

(1) (2) (3)
    
   
−−A.D.2201「宙駆ける魚・2」(Original)より
「ヤマト2」side story
:お題 No.12「駆ける」
   
【駆ける〜そばにいても】


 鋭角に艦橋を庇って飛びすさった処に的確に被弾し、コスモタイガーはその
まま急カーヴを描くと艦底を目指した。

着艦口から誘導に向かうと、佐々葉子は左翼から煙が上がり、ぐっと機体が
かしぐのを見た。
だがさすがの操縦で2度ブレただけで慣性移動を続けるヤマトの艦底に鮮や
かに飛び込む。その途端にホースを持った消化班と牽引ロープが機を止めた。
駆け寄り、隊長を抱えおろすコスモタイガー。
ゆらりと立ち上がった加藤三郎隊長は、額から血を流しながらコクピットから
降ろされた。
「加藤! 大丈夫か」
佐々は声をかけ、歩み寄った。
 加藤機が最後の着艦だ。
(無事、全員戻ったか――)
ほっとして、見返す。
「珍しいな、お前がドジるなんて」
“無事之名馬”のような、加藤三郎。
安心したのでボンっと背中を叩いた佐々は、その加藤がいつものようにふざけ
返さず、痛みに顔をしかめたのを見て、「あ、ごめん」と言った。
――相当、どこかヤったか?

 「エネルギー、補給済かぁ!?」
ハンガーの上の方で山本の声がした。
着艦口を横切って隊員たちが駆けていく。
「こっちは終わりだ、あと15番機からそっちの3機回してくれ!」
反対側から怒鳴り返す声。

『……コスモタイガー! 準備が出来次第、もう一度、出るぞ!』
山本がとん、と降りてくるのと、古代の声が響いたのが同時だった。
「加藤――大丈夫か」
加藤三郎は、強がりで笑ってはいるものの、顔は真っ青だ。
艦橋からのグリーンのビームが伸び、古代のゼロがカタパルトへ装填され
上がっていった。
それを見上げる佐々と山本。
(艦長代理――行くのか)
「古代! …加藤が!」
山本が伝声管に伝える。『何! 怪我か!?』
「大事ないが、出るのは無理だ」
『山本か? 何のために副官がいるっ! 加藤は置いて、お前が指揮しろ』
「古代――」
 一瞬の先制攻撃が、千載一遇のチャンスでもある。
第二波が襲ってくる前に。
少ない戦力で有利に持ち込むためには。スピードもまた勝負だろう。
「了解――」と山本は顔を上げた。
「出るぞ! 5番機から10番機は待機、艦を守れ! あとは古代と俺について
発進!」
 装填された自機に手をかけると、加藤が目で
(俺も――)と言った。
大丈夫だから、と壱番機へ向かおうとするのを、足を止めた山本が軽〜い調子
で、顎からゴインっと。油断してしかも腕の痛みに苛まれていた加藤三郎は、
あっさりとそのまま後ろへ吹っ飛んだ。佐々の腕の中に。
「やまもとっ…」
とっさに受け止めた佐々だったが、加藤は大柄だし、重い。
う、と腰を踏ん張って。なんとか。
「けが人増やしてどうすんだよっ」と怒鳴り返すに
「見張ってろ。お前も待機だ、5番機だろ――隊長の監視」
とヘルメットを被ると、そのままコクピットにヒラリと飛び乗った。
「て、め…」
「怪我人は大人しくしてろ。それとも俺さまが信用できねぇとでも?」
振り返って山本は加藤に言う。
「いや…」
頼む、と目で語って。
(了解!)と軽く左手の指を立てると、山本機は発進した。


 かつんかつんと静かになった格納庫から通路に出る。
「医務室、行こう」
と。戦闘中……だが戦闘空域はずっと彼方。
コスモタイガーがおそらく寄せ付けず終わるだろう、きっと。
それを読んで、古代は先制攻撃をかけていく。
いざとなれば主砲と波動砲が見舞うのだ。
 肩を支えて歩き出しながら佐々は言った。
「いや……」
モニタできる場所へ――艦載機指揮室か。
「だめだよ…処置しなきゃ。次の発進で役に立たないぞ」
休めといってもこんな時、聞くような男ではない。だからそう言った。
医務室は――落ち着かないんだ、と加藤は言う。
なぜ?
…ユキがいるだろ? 少し赤くなった。
こいつも憧れてるクチか? そんな仲じゃないだろ、ユキと加藤は。気の置け
ない仲間じゃなかったのか。でもな。申し訳なくてな。

わかった。
佐々はそう言うと――部屋に行ってろ。救急キットは持ってくから。部屋から
ならコ・モニタでワイヤレスチェックできるだろ? 知ってるんだから。
艦橋だの指揮室だのへ行くなよ――お前が倒れたら、艦載機隊は終わり
なんだからな。

ちょっと泣きそうになったのを、気づかれなければよいが。
「一人で歩けるか」
「あ、あぁ…」壁伝いに行けば。まだヤマトには爆撃がない、被弾して揺れ
始める前にたどり着ければ。
「すぐ行くからな。…大人しく寝てろよ」
 佐々は走り去った。

 その後姿を見やる加藤三郎――。
 佐々――。
お前ぇ、知らないだろう? 俺がどんな気持ちでお前の後姿見てるかなんて。
俺のためになんか走るな。
なぜ山本がお前を残していったと思う? お前ちょっと働きすぎだよ。
古代が飛ぶなら、行きたい気持ちはわかるけどな……。
わかるんだ。
お前も、山本も。
古代に何かあったら、盾になっちまいそうだからよ――。
 佐々。

いつの間に、あんなじゃじゃ馬。
使命を果たせたら――この危険が取り除けたら。
いつか伝えることもあるかもしれねぇな。


 
←TOPへ  ↓次へ  →三日月TOPへ
inserted by FC2 system