lightアイコン 光芒−


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【光芒】

−−after「完結編」
:お題2005-No.02


 ワープアウトした途端に、目の前に地球の円形が飛び込んだ。
一瞬の、酔い。まるで夢かとばかりに拡がる宇宙のパノラマ。
どんな宇宙も美しいが、帰還する、その先に見るわが地球ほしの姿ほど美しいも
のはないと佐々葉子は思う。……おそらく、どの宇宙戦士に聞いても同じ答
が返ってくるのではないだろうか。
小型機でワープできるほど高性能な機体を預かっているわけではない。基地
の戦艦から次元航法で転送してもらったのだ。戦闘時には効果のある方法も
それに伴う危険リスクの故、通常航行に利用されているわけではなかった。むしろ
戦時に戦闘相手から真田が取り入れた技術に近く、機密に近い扱いになって
いる。
だから景色に見惚れるのは大概にして−−そうやって跳んできたのも、帰路
を急ぐからに違いがなかった。しかも、ただ1機で。

 大気圏まであと40分あまり−−。その間はだがこれを楽しんでも悪くはなか
ろう、そう思う程度には余裕がある。
 手元に預かっているものは、何としてでも早く届けなければならないものだ。
(宇宙に郵便局が発達していない、というのもまだ問題だな−−)
定期便や特別便を待っていられる話ではないので。
それに。


 「たまにはダンナの処でゆっくりしてこいよ」
上官の是枝がそう言った。
だから、ダンナじゃないってば。
と顔に書いてぷん、と振り向くと、その上司はぷふ、と吹き出して、
「葉子、お前ぇ、そうやってっと可愛いぞ」と言った。
「大佐殿のお言葉とは思えませんが」
答える葉子も、単にふくれて拗ねてるだけ、である。
 まぁいい、と彼はまだ笑いを引っ込めぬまま。
「それにな、お前しか使いに出せねぇんだよな」
と言った。

 ここは木星軌道に向かう中間補給基地である。
 アクエリアスの脅威が去り、復興真っ最中の地球は、様々な意味で太陽圏を
再び手中にしようとしていた。
 先ほどから押し問答しているのは、重要機密書類を地球へ届けなければなら
ないから。しかも余分なことに、現状を報告して判断も仰ぎ伝達の必要があると
いう。通信で済まないことが…起こっていたためだ。
 慌しく地球を離れてふた月。そのたびガニメデだ火星基地だと呼び出され、現
場仕事をこなしてきた佐々葉子以下数名の元ヤマト戦士たちは、その間一度も
地球の土は踏んでいない。
「艦載機で行ってもらうんだ−−」
え? とさすがに驚く。
木星ここから、地球まで、タイガーで、ですか?
いくらあたしが命知らずだからってったって。そりゃ無理だろう…。
1週間はかかるんですけど。
 いや別の方法で、と是枝は言った。
「ただな。腕がないと、下手すりゃお陀仏だ。任せられそうなのはお前や、お前
のダンナくらいでな」
ダンナじゃないってば!
とまた怒った顔になった葉子をおもしろそうに眺めながら、是枝は命令書、と書
いて手渡した。
「まぁついでに休暇やる。1週間ほどゆっくりしてこいや」
「そんな暇はありませんっ」
「よく読めよ−−ゆっくりといったって地球での仕事は山積みだ」

 ……下を向き、ぶつぶつ言ってさっと書類に目を通すと、今度は驚いて目を
上げた。し、と是枝は指を口の前に立て、「わかったな」と強い目で言った。
「は、はい」
佐々も真剣な目でうなずくのに……。
ふと。
でもな。(加藤)四郎って今、月だっけよね、きっと。
 加藤四郎は月の再建事業に借り出され、アクエリアスから分かれた水の小
惑星……最近、「アクエリアス・ルナ」と呼ばれるようになった。それと、半分に
欠けてしまった地球の大きな衛星とを行き来しているはずだ。とても忙しいと、
定時通信のBOXにメールが入っていた。時差やこちら側の出力の問題もあり、
直接の会話はこの2か月、できていない−−ヤマトの傷も、まだ癒えてはいな
いというのに。
島を失い……沖田さんを葬った傷は…。そして古代の、その傍にいる四郎は
どんな気持ちだろうか。

「ダンナならな、心配しなくっていいぞ」是枝が思い出したように付け加えた。
だから、ダンナじゃないってば。
「お前と同じタイミングで地球の本部へ戻ってくる。会えるから心配するな」
え、と目を上げる佐々。何故、司令がそれを。
彼は片目をつぶって、
「あいつぁ頼りになるな。いい男だ。次はスカウトしたいよ」そう言った。
よろしく伝えてくれ。
−−つまり、すでに直近で会ったということか、いつの間に。
油断のならない男たち。
 はぁ、とため息を一つついて。佐々はきりっと敬礼すると、背を向けた。
 「今日は早めに休め。旅は、キツいぞ」
という是枝の声を背に聞いて。

 
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