陽だまり

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−−after YAMATO ・A.D.2208年
:お題 No.99
   
【陽だまり】   

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A.D.2208年−−。

(1)

 「え?」
と加藤四郎は寝転がって雑誌を眺めていたリビングのソファから体を起こした。
「もう一度言って」
「ん――8月から、休職する」
「えーっ! いったいまた、どうして……」
「9月から、連邦大学に、行くんだ」
混乱した。

 ここは佐々葉子の官舎のリビングである。最近は宇宙航行の危険も減り、
航宙隊の隊士たちは艦隊勤務より基地への配属が増えてきたとはいえ、艦隊
艦載機の実戦経験を持つ加藤と佐々は、休む間もなく航海を続けている。また
それを当人たちも望んできた。
 戦艦アクエリアスを率いる古代進を司令官とする第7外周艦隊に所属する
佐々と、北野哲・徳川太助らが乗船する第8輸送船団に所属する加藤ではス
レ違いも多かったが、佐々はここしばらくは珍しく地上にいる。加藤は約3か月
ぶりに地球へ戻り、船団の整備が終わるまでの1週間の逢瀬を過ごしていた。

 「前から研究室に行ってみたかったんだよ。この機会に、と思ってね」と佐々。
「でも、またなんで急に――今じゃなくても、いいだろう」
このあと、少し長距離の航海が組まれていた。北野の船団を古代の艦隊が護
衛し、新ガルマン・ガミラスへの往復航路――約半年。両者の隊員はほぼ合
体し、大規模船団が組まれる。科学局副長を務める真田志朗も久々に地球を
離れ、これに乗り込むことになっていた。
というよりもむしろ、真田がガルマン帝国へ出向くのが第一の目的ともいえた。
両者の科学者会議とでもいうものを立ち上げようとしている真田である。これが
首尾良くいけば、双方にとってメリットは測り知れない。加えて貿易船としての
輸送船団が、その両者の護衛および大使として古代の船団が行く、というの
が正確なところだろう。デスラー総統に相対するのに、このくらいの布陣は地
球側として当然の配慮といえた。
 「久しぶりに、あの人たちと。しかも同じ航海に出られるのに――」
四郎はひどく残念そうである。半年間。元のヤマトのメンバーと、もちろん佐々
も含め、銀河系中央へ向かう旅は、使命は重くとも心躍る旅である。
 「理由が、できたんだ」
「どうしても、なのか」
「あぁ。もう書類選考は通ったし、一次試験もパスした――あとは二次試験の
口頭試問だけ。ま、たぶん大丈夫だろうと思う」
それでなにやらここのところゴソゴソやっていたのか――と思い至る。
「……僕が何か言う立場じゃないけど」四郎は思い切り残念そうである。
 ふふと佐々は笑って。
「2年――で単位が取れるそうよ。論文を書いて――さらに研究を続けたけれ
ばもう1年」
「飛べなくなるぞ――」
「大丈夫。企業内留学。キャリアアップ研修の名目だし、軍籍は抜けない」
「そういう意味じゃなく」
「しばらくはシム(シミュレーション)だけになるでしょうね……でも、努力は
する」
(なんでまた――)

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 佐々が何か考えているだろうなということは察していた四郎である。
だがまさか、一時的にとはいえ何年も艦を下り、航宙機の現場から離れるとは
思っていなかったのだ。
「本当の、理由を教えてくれる? 今でなきゃいけない理由」
加藤四郎は24歳。佐々葉子は今年28歳になる。が、引退するにはまだ早い。
 「着床の安定に約5か月。その間の過激な運動は禁止――なのは常識だ
ろう。順当に育ったとして、赤ん坊は2年半。地球から離すのは危険だから」
淡々として話す佐々に
「え……」
と言ったまま、その言葉が脳髄に届くのに時間がかかった。
真っ白になる。――というのはこういうこと?
 「も、もう一度言って――」
「だから。……今、ちょうど4か月目だそうだ」
「――よ、ようこさん」
 リビングで立ち働いていた佐々が振り返って。
「だからね。飛べないのさ、わかる?」
ぶんぶんとうなずくしかない四郎――思考が――戻ってこない。

 で、とんでもないことを言ってしまった。
「だ、誰の子なの」
次の瞬間、床にへばりついていた、というのは気のせいではない。
過激な運動をしない――なんて本当にできるのか、この人。
「原因と結果の必然を考えろ――この、バカ」と言われて
「こ、興奮すると、体によくないよ――」
と床から間抜けな返答を返した四郎である。
 
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