Fröhliche Weihnachaten・3 冬木立


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是枝さん側からみれば[Fröhliche Weihnachaten・2−火星の休暇] の続き
つまり[ky100題]的には「29. My Sweet Home」の続編となります
主役は移り、古代進たちは登場しないオリジナル・キャラクターworldです
ご承知の上、どうぞ☆


−−A.D. 2209年
:KY-100題No.70より

   
【Fröhliche Weihnachaten・3−冬木立】




 「こんな処で、会うとはね――」
よく通るコントラルトが背後から聞こえて、是枝薫は振り返った。
そこには――スラリとした、端正な姿を見せている女性……佐々葉子が一人、
立っていた。
「お、まえ……」

 あまり驚いた風でもないわね、と言って、するりと近寄ってきて、勝手に隣に
座る。
「まぁ火星で行く処なんて、限られてるといってしまえばそれまでだけど」
くすりと笑って、むしろニヒルというような笑顔を見せた。
 「元気だった?」
と言ってタバコを取り出し、口に咥える。
「お前、吸ったっけ? 戦闘機乗りには厳禁――なんじゃなかったか?」
うふ、と悪戯めいて笑った。
「今は解禁――そんなに本数は吸わないし。休み中だわ」と言う。
その様子が、ストイックに素直に目の前を駆けていた女とはずいぶん印象が違っ
ていた。
 宙港近くの大規模施設のビルだ。火星の娯楽施設や、発着場、そしてショッピ
ングモール、食事のできる場所もある。そこそこに賑わい、また瀟洒なエリアも
あって、上の方……この階に上がれば、静かに星を眺めることも時間をツブすこ
ともできた。
「それにしても――偶然ね」

 でもないさ。
 是枝はそう口の中でつぶやいた。
古代進から聞いていた。佐々葉子が火星で休暇を過ごしている、と。
地球へ降りたわけでもなく、何故か恋人のいる月へ行ったわけでもない――街
は、たとえ公務員といえども平常時のクリスマス休暇が認められている。そして、
共同作戦という大きな仕事を終えたばかり――古代艦長が休暇に入ったと同時
に、その部下である佐々も休暇のはず。
 だから。
 その古代から聞いて知っていた。「火星にいる」と。
「お前、此処で年越しするつもりか」
横でバーボンをカランと喉に流し込んだ女にそう言った。
「さぁね――地球には待ってるものもあるけど。久しぶりに、1人もいいか
なって」
思わせぶりな。
そんなことを今の俺に言ったらどうなっても知らないぞ。
 そんな気分があるのを、こいつは知っているんだろうか?
「艦長こそ――地球へ降りないの?」
「艦長はやめろって……」憮然と是枝はそう言った。
「もう、お前は俺の部下じゃないんだから」
 ふふ、そうね。と言ったまま、で? と聞かれて。
「どこで過ごしても同じさ。――火星は賑やかで、設備も良いから、独り身が
年を越すにはちょうど良い」
 地球には多くの家と家庭がある――それを考えたくなくて。どこで過ごしても
同じだが、外惑星の寂しさや孤独よりも。火星や月の賑わいは捨てがたく。
そういえば、よく火星で年を越しているな、俺は、といまさらながらに是枝は思
った。
だが。「艦に乗って星の海の中、ってのが多いだろ。お前だって同じはずだ――」
「そうね」
そう言って、そういえばそうだったわね、と言った。
 「去年は地球――1昨年は、古代たちと冥王星の近くでお祝いしたっけな」
くすりと楽しそうに笑って。
「その前の年は?」
「恋人の腕の中――」
けっ。やってらんねぇぜ、と彼は言うと、
「そういえば、あいつ、元気か」と言った。
「たぶん。――通信ではそう言ってたけどね」
2か月くらい、逢ってないわ。そうも言う。
 わからねぇカップルだな。
2205年は、できたばかりのアクエリアス艦の中で。2199年と2201年、
2203年はヤマトの中だ。2200年は月で、2202年はロシアで過ごした――。
そして。
「2204年は、貴方と居たんじゃなかったかしら」
突然、そう振り返って言った。
「どういう意味だ――」
「言葉のとおり」

 誘ってる、のかな。
 一緒に作戦に従事したのはわずか2か月――だがそれだけの時間とはとても
思えない、強い絆を感じていた互い……いや。
作戦と基地構築準備の成功と引き換えに、事件があり。彼女はひどく傷ついた。
そして――憎からず思っていた相手。そして女で、部下で。その常として。
俺はこいつを……。
 「是枝さん、今も独りなのね――」
「あぁ。残念だったな」
「なにがよ。……相変わらず、モテてんでしょ? 不自由なんかしてないって顔
に書いてあるわよ」口の悪い女だ。
「お前は――いいのか。月へ行かなくて」
うふん。
 ちょっと冷笑するように笑って。
「独りになりたかったの――今、確かに幸せよ。でも、贅沢なのかもね」
 愛している恋人がいて。いつも傍にいるのが面倒な性質だとしても、彗星軌道
のようにめぐり合い、愛し合ってまた離れて――それは、俺には理想的にも思
える。
あんな誠実な男。どこにもいやしないぞ、お前、それは贅沢というものだ。

 
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