planet icon帰ってきて!


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13. 【帰ってきて!】

 「よぉ、どうしたんだ、お姫さんよ」
格納庫で、ファイルを持ったまま、少しぼぉっとしていたのかもしれない。
森ユキが顔を上げると、加藤三郎隊長が目の前に居た。
「用事ないんなら、いいか、ちょいと。それ、整備しちまいたいから」
「あ、あぁ…ごめんなさい。邪魔しちゃうわね」
機体に手をかけながら、加藤はふっと笑った。
「いい目だな――」
え? とユキはどきりとした。
このひとは、時々、女心を惑わせるようなことを言う。けっして浮ついてるわけじゃ
ないんだけど。
「いや……なんか、強いってかさ。生き生きしてるってかさ。メインスタッフにお
嬢ちゃん1人で、いろいろ苦労も多いだろうによ、がんばってるよな」
いつもふざけてばっかりいるかと思っていた、どちらかというと乱暴で口が悪い
イメージのある加藤隊長に、急にそんなこと言われるなんて。
「く、苦労なんて…」
デキのよすぎる天才たちに囲まれて、年は同じでも皆、訓練学校出身のエリートで、
それでスペシャリストばかり。私なんか器用貧乏で……戦闘が始まってしまったり
すれば、オペレーション追っかけるのが精一杯……古代くんにだって怒られっぱな
しだし。
それに、なんだか生活班の中もしっくり行ってないのよね……古代くんを好きだっ
て公言しちゃってる女の子や――それと深刻な食糧問題を。下の人たちに言うわけ
にはいかないから、間に立っちゃって、皆が大変だっていうのもわかるんだけど。
……それに。
 そんなことが頭の中をぐるぐる回ってしまって、ちょっと最近、落ち込み気味だ
った私は思わず、優しい加藤くんの言葉にポロりと涙が出てしまった。
――森ユキ、不覚です。
「お、おい……どどうしたんだ?」
慌てる加藤くん。「な、なんでもないのよ……ちょっと疲れてるのかもね」
「あ、あぁ。そうなんじゃないか。飛行訓練とかもがんばってるみたいだけど、無
理しねぇで、少しは休めよ」
「ありがとう…」
 「古代が心配するぞ――」
え? どうして、この文脈で古代くんが出てくるの?
 思わず顔が赤くなってしまったんじゃないかしら。
「あ、いや、何でもない…」
加藤くんは慌てて言葉を濁したけれど。

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――私が古代くんを好きだっていうのは、どうやらこの加藤くんにはバレてしまっ
ているらしい。さりげなくフォローしてくれるし、彼に怒られて落ち込んでいたり
すると、庇ってくれたり慰めてくれるような対応をしてくれる。けっして言葉で言
うわけじゃないんだけれど。……優しいのよね。
「ちぇ、俺だって君に憧れてたんだぜ」
面と向かって言うくらいだから、本気じゃないでしょ? ってこの間言ったら、
「本気でも冗談でも、面と向かって言わなきゃわからねーじゃねーか。女の子って
そういうの喜ぶもんだろ?」ってあっさり言われちゃって。
加藤くんに思われた女の子って幸せよね。
――婚約者を地球に残してきたんだ、って葉子が言っていたけど、本当かしら。
島くんや南部くんなんかに言わせると、学生時代からもずいぶんモテたっていうし
――山本くんほどじゃないらしいけど。女心、わかってくれるのもそのせいかな。
安心できて――お兄ちゃんみたいなところがあるもんね。
 でもね、加藤くん――貴方にはもっとふさわしい人がいるでしょ? 自分のこと
になると気づかないのかな、不器用なのかしら。その、婚約者さんのことは気にな
るけど……まぁね、向こうも向こうで鈍くて純情だから……。

 加藤くんがコスモ・ゼロの飛行訓練に付き合ってくれるようになって、もう随分の
時間が経っていた。ダンデムする時はいつも、絶対古代くんが「俺が教官だから」
って言ってくれているけど、彼もたくさん仕事があって、私だけ構ってるわけには
いかない。
それで、できないと怒るんですもん〜。その間、練習したりする時に、手が空いて
れば手伝ってくれる。

 ここの処、時々起こる散発的な戦いが、激しくなってきている気がする。
大規模な戦闘はないけれど、敵基地が近付いているんじゃないか――この間、皆が
そう言っていた。だから――だからこそ。

 「なぁ、ユキ――」
「え?」加藤くんの声がいつになく真面目だったから、真っ直ぐ見返した。
「古代が、心配なんだろ……」
え。……もう、ダメね。この人には見透かされてるようで。
 出撃の合図が来ると、うちの戦闘班長さんは、自分が率先して飛び出して行ってしまう。
時々は特攻隊なんかも組織して――冥王星の時も、マグネトロンウェーブの時も。
それが仕事だからって、仕方ない。だけど。
まだ想いも伝えてない――待っている資格もない。だけど。
その背中を見るたびに、最近は。
(帰ってきて――)そう、願うようになってしまった。
 ふっと、加藤隊長は笑った。
「俺たち――待ってる人にいつも、そういう思いさせんのな…」
だから。
1人で飛ぶんだ、と。だからこそ、仲間がいるんだ、と。

「俺の仕事はさ」
少し困ったような顔で首をかしげた。
「1人でも多くの連中やつを、このふねに返すことだ――」
「加藤くん…」
「中でも」真っ直ぐ見る目がまぶしいくらいで。「チーフ――古代だけは、返してやる」
「加藤、くん…」
「俺も、山本も。それに……ほかの連中もさ。皆、そう思ってるんだよ。佐々も、な」
(葉子も?――)
「あぁ。あいつは大事な男だ――このふねにとっても、地球にとっても、なくて
はならない男だよ。君にとって大切なのと同じにね」
「かとうくん…」
「だから、何があっても、古代だけは返すから。安心してなって」
ユキはこくりと頷いた。
 「それにさ。お前さんもいつも一緒に戦ってるじゃないか」「私が?」
「送られてくるデータ。敵の動き、ヤマトの動き―― 一緒に戦ってる」
私にできるのは、データを正確に集め、送り込むことだけ。
そうね……戦う時は、一緒よ。「ありがとう、加藤くん」
ふっと彼は笑って。
「本音、ってやつ。ともかく、心配するなって――古代は守るから」
 しかしお前ぇさんも苦労するね。
こんな素敵な女性に一途に想われてるってのにさ。
まっ。森ユキが赤くなるが、加藤三郎はそう言うと、ひょい、と自機に飛び乗って、
風防の中から敬礼してみせた。


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 「――加藤がそんなことを?」
「えぇ……」
デザリウム戦が終わり、加藤三郎の弟・四郎と初めて対面した日、ユキはそんな話
を古代にした。
「本当に、あの頃は、『ブラックタイガー、発進』っていって貴方が艦橋を飛び出すたびに、
背中を見て祈っていたのよ」くすりとユキは笑う。
「そうか――だろうな」
俺はまだそんな君の気持ちには気づかなかったし。てっきり俺の片思いだと想っていたから。

テラスに星がきれいにまたたく夜――
「都心部はだいぶん、整備されてきたようね」
「あぁ……島たちががんばってくれているおかげだよ」
ヤマトは輸送艦として、各地から資材を運ぶため、地球と周辺の惑星を何度も往復している。
古代は精力的に働きながらも、ユキを守るように、この時期、一時的に官舎を出て
ひっそりと暮らしていた。
 「四郎くんを見たらね――思い出しちゃった」
その頬を涙が伝う。
「ユキ……」肩にかかる進の手の体温が温かい。
「結局、最後の最後まで――あの2人は」
屈託のない加藤三郎の笑顔と、女性よりも綺麗だといわれた山本明の笑顔を思い出す。
「俺を守ってくれた……誰よりも」信頼できた男たちだったな。と古代はつぶやく。
ユキの辛い、優しい想い出も――古代の心も、一時も彼らのことを忘れたことはない。
 「ユキ――」
ぎゅ、と背中から抱きしめられて、またその温もりに涙がこぼれそうになった。
「……葉子が見つかって、よかったわ」
脈絡もなく、そんなことを言って。
「あぁ……四郎ももう、一人前だ。皆、幸せになれるといいな」
「そうね…」 私たちも。

 心の傷は深いが――2人でいればそれも乗り越えられるだろう。
ヤマトに帰れるほどに、古代も、ユキも。
戦いの傷は深く、彼らはまだ二つの戦いから完全に癒えてはいない。
――そして彼らは、二度と帰らぬ旅路の果てから、いつも。
「見守ってくれているわよね」
ユキが言う意味を、進も理解した。
「あぁ……あいつらを忘れない限り。それに、忘れることなんて、できない」
 帰ってきたから――ここに。
今、この腕の中に居られることが、何より尊いから。
それを守ってくれたすべての人たちに、感謝したい。
だから、この腕を離れて、きっと私も、進さんも、戦うんでしょう、また。
でも今はまだ――こうして居させて。まだ、もう少しの間は。

 “帰ってきて――”それは、すべての人の願い。
愛する人の元へと。この地球に――この腕の中に。
地球は少しずつ、元の静けさを取り戻していた。




――Fin
   「宇宙戦艦ヤマト」および「永遠に…」後 A.D.2202年
綾乃
Count050−−08 Apr,2007

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古代進&森雪100のお題−−新月ver index  
現在(2007年4月)のデータ
1: No.57 コスモ・ゼロ(001) No.100 誕生(002) No.15 兄と弟(003)
No.41 ヤマト艦長(004) No.21 再び…(005) No.53 復活(006)
2 No.001 一目惚れ(007) No.78 温泉(未) No.82 夢(009)
No.03 旅立ち(010) No.84 First Kiss(011) No.83 プライベートコール(未)
3 No.09 もう、我慢できない(012) No.18 ありがとう(013) No.20 告白(014)
No.26 ふたり(015) No.69 もみじ No.80 自棄酒(未)
4 No.29 My Sweet Home(t016) No.70 冬木立(017) No.22 エンゲージリング(022)
No.08 願い星(未) No.56 二人きり No.31 新入り
5
(paraA)
No.06 心の変化(019) No.95 ラブシュープリーム(020) No.75 旅行(未)
No.58 さよなら(未) No.96.約束(未)  
6 No.02 片思い(029) No.43 三つ巴(未) No.04 メッセージ(未)
No.62 チョコレート(033) No.48 若い人(023) No.14 記念写真(025)
7 No.17 生きる(途) No.92 仲間たち(未) No.11 ライバル(054)
No.42 女神(059) No.52 そばにいるだけで…(081) No.77 ラッキー(084)
8 No.13 帰ってきて!(050) No.16 イスカンダル(041) No.19 ただいま(040)
No.50 忘れない(038) No.05 氷の惑星(039) No.30 おままごと(046)

 

あとがき のようなもの

count050−−「帰ってきて!」

 やっぱり「永遠に…」のあとの話です。加藤三郎と森ユキというのは、非常に素敵な関係だったと思っています。 「ぶっきらぼう」のような短編に何度か書きましたが、懸命に男の社会に入ってこようとして努力を続けるユキを、三郎はとても好もしく思っていただろうし、最初はそれは憧れもあったでしょうが、そのうち、上官でありある意味では親友ともいえる古代進とこの女性を何とかしてやりたい、そんな温かい想いに満ちていました。
 それは、文中で本人も言っているように、古代進という男に惚れていた、ということもあったでしょうね。学生時代から一緒にバカやって、一緒にテストパイロットなんかにも選ばれて。こんちくしょー、と思いながら適わねぇなと言いながら、好きでたまらない。そんな信頼関係・・・私はこの加藤三郎と古代進の関係がとても好きです。
 「ヤマト2」での加藤三郎の殉職のシーンは、何度思い返しても涙無しには思えません。ましてや、うちのワールドでは、彼には艦で待っている女性がいたわけですし。ユキのためにも。古代のためにも。そして、愛する女のためにも。どうして、と思ってしまうのですが。これはさすがに覆せない筋でしょう。
 この「100」では、どうしても「宇宙戦艦ヤマト」の時代が多くなると思います。それは意図してのことで、苦しい旅の中でも、元気で動き回っている加藤や、山本や、島や…若い日の古代やユキを。もっと書けたらいいなと考えています。ま、作者のことなので、オリジナルも多いですけどね。よろしければ、お付き合いください。

綾乃・拝

 

背景画像 by 「Silverry moon light」様

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