planet icon 再び…
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21. 【再び…】

 どこだ…。

 目を開いても、閉じても、わからない漆黒の闇が辺りを包み、古代進は無意識に
精一杯手を伸ばして、空を掴んだ――。
と、思っていた。
が、実際には、意識不明のその体は動いたわけではなく、ただ意識が闇の中で足掻
いていたにすぎない。

 暗い。
 誰か、いないのだろうか?
 いや。
俺は、誰だ――? 俺はついに、此処へ来てしまったのか? 死の世界に?

 どうしたのだっけ……。
 意識は緩くまとわりついて、記憶は定かではない。
 光が走って、そう。たくさんの光が襲って来、それを追って飛び出した。確か、
仲間たちと。圧倒的な重量のものが迫ってきて、目の前でそれに吸い込まれていく
僚艦たち。
絶望と、叫び――。
 俺たちを守って、盾になろうとする先輩たち。
 落ちていく艦から敬礼を返す先任――やめろ……やめてくれっ!

 俺たちはそれに応えることはできない。
無力だ――ただ、無力で。目の前にあるものをせいっぱい踏み分け、力を尽くして
も果たして届くかどうかわからないのに。それでも、振り返ることも留まることも
許されず、ただ、前へ歩むことしか。
 何ができるわけではない。ただ、信じること――だがその絶望に、99%の絶望の
先に1%の光…だがそれを見失いそうになる。足許に、奈落。先に、暗闇。
背からは爆風と、目の前には、血の飛沫(しぶき)――。
可能性は限りなく、ゼロに近かった。

だが。
ただ一つだけ明らかだったのは。
“俺たちが諦めれば――その可能性は、確実にゼロになる”という、それだけ。

まだ俺は意識があるのか。
まだ、だめなのか。
休息は、遠い――まだ、この泥のような体と、痛みを引きずりながら、まだ前へ行
けというのか。
 敵だけではない。味方と――仲間たちの屍を踏み越えて。まだ。
足許が、ぬるむ。ずるりと踏みしだいた床は、肢体の感触で。
吐きそうになりながらも――だが俺は進むしかない。
テレサに見せられた映像が、真実で事実なのなら。
完全な降伏も、徹底抗戦の末の殲滅も、同じなのなら――。
人が、人であることすら許されない、そんな結末を受け容れるわけにはいかない。
――それが、この手で億という単位を葬った、俺の。地球人類の選択の末。

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 星が流れる――体が重い。
手も上がらない――眠りたい。だが眠ってはならないのだ。

 こ、だい……くん。

 まるで光のように、やわらかな声が遠くに呼んだ。
「古代、くん……」
ゆ、き? ――いるのか? どこだ。

 また意識が混迷する。
「古代君っ!」
突然、光の色が変わり、痛みが唐突に沸いた。
――現実が、まるで殴るように頭を直撃し、古代進は目覚めた。
「……! どうなったんだ。地球は、ヤマトは――地球艦隊は!」
 佐渡酒造が、そこに居た。沈痛な面持ちで――古代。お前は休んでおれ。
皆、必死で戦っている。問えば答えざるを得ないアナライザーに問うと、地球艦隊
は全滅、ヤマトは木星付近を、どうにかこうにか航行していると。
「俺は。……俺を、第一艦橋へ。ユキ!」
古代くん。――森ユキは動こうとはしなかった。それどころか、ちょうどやってき
た空間騎兵隊長・斉藤に命じ、医務室へ封じ込めすらしたのだ。
 頭はがんがんする――こうしている間にも。地球は。戦況はどうなっているのだ。
 ヤマトはまだ戦える――俺は、あそこへ行かなければ。
だが。痛みと、足の怪我で、自分で動くことはできなかった。

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 扉が開いて、島大介が入ってきた。
その表情と口調が、事態の切迫感を告げていた。
(う、そ。だろう――)
 微かに首を振る、島。
「地球が――降伏した。俺たちはどうすべきか。――艦長代理としての、お前の判
断を聞きたくてな」
 島の内面は推し量ることができない。
テレサから、あの白色彗星の侵略の実際を、映像で見せられていたはずだ。
島は彼女について何も語らなかったが――そのことだけは仔細に語った。
「あいつらには、引き分けも、温情もない――ただ、殺戮。侵略、殲滅。
だからこそ彼女は――それに手を貸すことも、黙って見過ごすことも、できな
かったのだ」
自分がそれに巻き込まれ、宇宙の塵になることを望まなかったのだ――。
だからこそ、あの星とともに身を躍らせ、ヤマトに賭けたのだ、と。
 後半は口にしなかったが、島の想いは伝わっていた。

 「古代――どうする」
島の漆黒の瞳が語っている。
俺は、お前に従う――ヤマトは、どうするべきか。教えてくれ、と。
古代進は告げた。
「ヤマトがある。俺たちはまだ生きている――皆を集めてくれ」
島大介は力強く頷いた――わが意を得たり、とでもいうように。
「――俺を第一艦橋へ」それは有無を言わさない命令。

ユキはゆっくり傍に近寄り、その体を支えた。
「行きましょう、古代君――私があなたの杖になるわ」
看護師として、恋人として。
愛する人を守りたいと、梃子てこでも言うことをきかなかったユキである。
だが。
今は共に歩む、ヤマトの戦士として。このひとを支えたい――たとえ命果つる
とも。
 ユキの瞳も、古代と同じものを見ていた。

crecsent icon

 「俺たちもヤマトもまだ生きている」古代の言葉を待っていたのは、それが、押
し付けの演説ではなく、隊員たちの想いを具現していたからにほかならない。
「土方さんは言った――ヤマトは死なん。生きて、生きて、最後まで戦えと。
われわれは戦う――ヤマトはまだ諦めはしない。
地球の未来は自らの手で、掴み取るんだ!」
 食堂を振るわせる叫び。
古代――それを待っていたぞ。
俺たちは最後の1人になっても、地球を、踏みにじるやつに渡すものか。
 静かに、黙ってそれを見つめる島大介。最初に呼応したのは真田志朗だった。決
意を秘め、拳を振り上げるコスモタイガーの面々。工作班、機関部、砲術班――
皆が。

 再び…。
 「地球へ向け、発進!」
古代進艦長代理の言葉を受け、ヤマトは白色彗星へ最後の戦いを挑む。
その戦いの先にこそ、人類の未来――わずかな希望が残されていると、信じて。
傷ついたヤマト――傷ついた体をもたげて、わずかな武器と意思で強大な敵に立ち
向かうため。
 再びの――そして最後の戦いと「しなければならない」
それは、地球で待つ人たちにとっても、同じ、一筋の希望だった。


――Fin
   「宇宙戦艦ヤマト2」 A.D.2201年

綾乃
Count 005−−30 Oct,2006

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古代進&森雪100のお題−−新月ver index     
あとがき、のようなもの
現在のデータ
Cont001 No.57 コスモゼロ(改題「コスモ・ゼロ」)、Cont002 No.100 誕生、Count003 No.15 兄と弟、Count004 No.41 ヤマト艦長、Count005 No.21 再び…

count005−−「再び…」
すみません、スゥイートでもラブラブでもありません(笑)
 おまけに、あまりデキがよくない、、、(爆)
そのくらい、本編でのインパクトが強かった回でしょう。
 ヤマトが被弾し皆が爆発を止めヤマトを助けようと懸命に働く中でのユキの本編での言動は、 実はあまり好きではありません。皆、命賭けで地球への想いと義憤に燃えている中、 ユキだけは古代くんの無事ばかり願っているように見えて。オペレータの仕事、 艦橋での任務。しかし22話では一転して佐渡とともに看護師としての任務に目覚め しかし古代進を心配する中−−戦いに向かおうとする時、その支えになろうとする。 そういうユキは好きですね−−だから此処は必須なわけです。 健気な女と思ったでしょうか? いや彼女の中にも同じ想いがあったはずで その時に共にいられてよかったと心から思ったことでしょう。
 そんな御話ですが…この後のシーンは辛いですね。
 艦橋メンバー視点での話は書いたことがありませんが、そのうちまた挑戦するかも。

 時々覗いてみてやってください。

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