Intermezzo '05-


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古代進と雪の100題−No.52
「そばにいるだけで。」より

air line

 古代進の様子がヘンだ、と相原義一が知らせてきたのは、今月に入って二度目
の短い航海から戻ってきた時だった。寄航時などに予定が合えばなんとなく皆が
集まる軍基地近くの酒舗にいる。
「別にどこが、ってわけじゃないんだけどね…」
困ったような顔をして、相原義一は言った。
「なんだか時々、上の空ってか。――もちろん小さなふねだし、指示間違えたり
なんてことはないんだけど。ちょっと元気が無いってか」

 いくら古代が元気なヤツだとはいっても、年がら年中能天気にしていられるわ
けはないだろう。ましてや南部や太田など、一緒になってからかって遊んでくれ
るメンバーが乗り込んでいるわけではない。もはや重鎮となった彼らは、その、
24歳という若さで、艦長であり室長であり管轄長であり――相原と古代2人だけ
であとが新兵やヤマトと関係のない年長者の中では、2人で軽口叩き合うという
わけにもいかない。
 ねぇ? と佐々は首を竦めて見せて、バーボンのグラスを口に運んだ。
 まぁ、今頃、戻ってきてユキさんとどうせラブラブ、なんだろうから。こんな
こと心配している我々が余計なお世話かもしれないんすけどね。と、心持ち自嘲
気味に相原は言う。彼は酒に強くないのでいつものように、ジンジャーエールで
ある。氷を齧るのが好きらしい。
「そういやぁ、そのユキは?」
くいくい、と相原は首を振った。「まさか婚約者フィアンセとの熱い再会、を邪魔して
飲み会に呼び出すわけにもいかないでしょ。呼んでませんよ」
なぁんだ、と佐々は言い、
「――お前こそどうなんだ。その、美少女なフィアンセを放っておいていいのか」
宮本暁がそう言って、糾弾するのを、ぷいといった様子で答えた。
「僕にはまだ“婚約者フィアンセ”なんて人はいませんって。明日、お家を訪ねる約束
してんですから、良いんです」
おやまぁお堅いことで、相手があの人じゃぁしかたあるまい、とひとしきり口々
にそう言った。

 「あ、いたいた、ここだぁ」
「先輩〜、こちらでしたか。遅れましてっ」
ばたばたと駆け込んできた2人を見て、相原が眉を上げた。
「なんだ、お前ら。別にお呼びしてないぞ」
 まぁまぁ、そんなつれないこと仰らないでくださいよ、と図々しく隣に滑り込む
1人と、向かいに座ろうとする1人。
さすがに同席していた佐々と宮本に対しては、「失礼いたしますっ」「お邪魔させて
いただきますっ」と敬礼して挨拶したが、相原の迷惑そうな顔をものともしないあた
り、厚顔というのか、もしかすると実は親しいのか。
 「おい、お前ら。ここはうちのふねん中じゃないんだから。古代艦長の躾を
疑われるようなこと、すんなよ」相原が怖い顔をしてみせると、それでも素直に
笑ってみせた。
 「彼らは?」宮本が訊くと、「騎兵戦闘員の弓木と航海士――たぁ名ばかりの半
分戦闘員、桑野。当艦のヤンチャ坊主どもだ」相原がそういう言い方をするのが
可笑しいが、ぷ、と笑いそうになった佐々も顔を引き締め、
「ふうん」じっと彼らを見る。
なかなか良い面構えしてんじゃない? と内心。
その様子は、気に入ったのかもしれない。
 「佐々、先輩でいらっしゃいますよね?」
桑野といわれた方が見上げて愛想を言った。こくりと頷く――難しい顔を作って。
「あぁ、佐々葉子だ。――その分だと、知ってるな?」相原の方を向く。
彼は両手を拡げて肩をすくめた。
「俺じゃぁないですよ、チクったの。艦長自ら吹聴してんじゃ仕方ないっしょ」
「まったく、古代か――まぁどうせ明日の昼には発表されるけどな」
「――ご一緒できて、光栄です」と桑野は手を出し、佐々に握手を求めた。
「こら、握手は上の者から、レディーファーストが基本だぞっ」
こつん、と相原が頭を叩く。
「いってぇ……いいじゃないですか、ねぇ、佐々先輩」
仕方ねぇな、という表情で佐々も苦笑し、「はいはい、よろしくな」と言った。
 「俺は“先輩”ってわけにいかないっすよね、たぶん」
「あぁ――たぶん部下になる」
まぁ私は戦闘機隊だからな、直属っていうわけじゃないだろうが、突撃隊なら同
じだな。佐々はそう言って彼(ゆみき)に笑みを投げた。

 「で?」
一通り乾杯したり情報交換したりして、各人が落ち着くと、宮本は相原に問う。
おい、と佐々がそれをつついた――若い連中の居る処で。という意味だが、
「あぁ、この連中なら大丈夫です。意外にこう見えて口も堅いし、艦長を心配して
ることについては人後に落ちません」
「――古代の追っかけなのな?」
「そういうことです」「そうっす」2人の声が揃った。
「それに、情報呉れたのも、こいつらでな」相原が苦笑して言った。

 「ともかく、艦長らしくないんっすよ――」「そうそう」
もちろん、仕事を失敗するとか、指示が曖昧だとか、厳しくないとか、そういう
わけではないのだが。何かちょっと心配ごとがあるようにも思えるし、時々(一瞬
だが)ぼぉっとしていることがある。というのだ。
 「何にもなければいいんですが――また地球に何かあったとか」
「ユキさんと何かあったとか…」「人事異動だとか…」
「「どっちにせよ、俺たち心配で」」
 ハモるなよ、と宮本は呆れたが。
「相談するならお前らが一番いいと思ってな――南部や太田が出ちまってて居な
いだろ。まさかハイパー通信でそんなことも言えまい。……証拠があるわけじゃ
なし、艦の者が“なんとなくそんな感じ”だっていうだけじゃね」
 「――でもな。古代の場合、“決定的なことが起こった時は”」
「すでに遅し、ってことになる可能性大、だろ?」宮本が引き取った。

 そんなこんなで古代進を肴に盛り上がる5人である。
「で、あいつはいつごろからオカシイんだ?」
佐々が言って、そうだなぁ……と相原・弓木・桑野の3人が首をかしげる。
「この間の航海の前までは平気だったろ? 会ったし、家にも遊びに行ったけど、
普通だったぞ? ユキともラブラブだしな?」な? と佐々は宮本を見た。
 「え、佐々さん、艦長んちに遊びに行ったりするんですか? いいなぁ……それ
に、怪しいっす」桑野が言い、「莫迦もん。あたしは嫁さんとは親友だっ」
とポカりと頭を殴られた。
「いってぇ……も、ひどいですぅ」いきなり懐いている桑野である。これは、彼の
持ち味というかキャラクターなのかもしれない。
「いっそ、皆で遊びに行ってみる、というのも手だな」宮本がニヤりという風情
でそう言って、「それ、名案!」と桑野が手を叩くも、弓木がぶん、と頭を振った。
「だめです――も、言ったんです。よね? 副長」と相原を見やる。彼もあぁ、
と頷いて、「断られたんだよ。それってヘンじゃない?」――なるほど、確かに
ヘンだ。
 「ユキとの短い逢瀬を邪魔されたくないってことじゃないの?」と佐々。
「でもそんなこと、今までなかったろ?」と宮本。
――再び顔を見合わせるご一同である。
 「旅の間に何かあったのか?」「それしか考えられないけど」
「地上で、じゃないだろな、時間的に」
年長3人が言い募るのに、ううむ、と考え込む。

 あ、は、え。と、3人は顔を見合わせた。
……もしか、したら。

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