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057. 【コスモ・ゼロ】

 格納庫へやってきた。 ――部外者が勝手に近づいてはいけないことはわかっている。
でも。
加藤くんたちが便宜を図ってくれたことや、チーフである古代くんが特別訓練をさせて
くれていることもあって。最近では、出入りしても怒られることはなくなった。
何よりもこの、格納庫の雰囲気が――少しずつ好きになってくる。
だって。
 ここにはあの人の愛しているものが、たくさん、あるのだもの。

 「ご苦労様ですっ」
当直の隊員が敬礼をして寄越すのを、少し後ろめたい気分。でも、生活班長としての
仕事も、第一艦橋での勤務も、そして医務室での仕事もある私にとって、自分のために
ゆっくりできる時間なんて、沢山はない――。
ヤマト農園や、皆の部屋のチェックや、レクリエーション施設の点検なんかも。
 だけど時には。
自分のエリアじゃない処へ来て――やりたいことも、あるの。ゆっくり…。

 ナースが履く靴は、底が特殊加工になっている。上に艦内服を着ていてもこれがラク
だからそのまま履いていることもあって――深夜に足音が響かないという意味では、
ちょっと良いわね。
 ハンガーの横にある手すりに取り付いて――ブラックタイガーの個性的な機体を眺めた。
 おっといけない。
勝手に人の機体に触ると、また怒られちゃうわ――。皆、だって。自分の体や分身みた
いに。まるで子どもか恋人みたいに、自分のタイガーを大切にしている。
時間があれば磨き、手を入れて。自分が真っ黒になるのも構わず、油まみれになっても。

 見上げた一番上に、コスモ・ゼロがあった。
 オフホワイトの機体。宇宙のじゃじゃ馬っていわれる、クセのある、高性能機。
誰よりもあの人が愛している、あの人の分身――。
とん、とそのパネルに飛び移り、そっと触れてみる。格納庫の明るいとはいえない照明
でも、明るい色の機体に自分の顔が写った。
古代くんがぴかぴかになるくらい磨いているものね――。私も本当は整備もできなきゃ
いけないんだろうけれど。

……乗るものに手をかけるのは当たり前。面倒を見るのも当たり前。
以前、まだ平和だった地球で――乗馬をした時に、父に厳しくそう言われた。世話を
できないのなら、乗る資格もないんだよ。まぁ最初はいいけれどね。そう微笑んで。
馬を乗りこなせるようになったころ、厩舎に出入りもするようになって――それから。
あの爆弾が降ってきはじめて私は郊外の自然を忘れ、消毒液の匂いと戦いの硝煙の
中に身を置くようになったのだ――。
それを懐かしむことも、後悔することもない。
でなければ。出逢えなかった人――私が勇気を持たなければ、来ることの適わなかっ
た、この星の彼方。

 コスモ・ゼロの機体は冷たく、優しくユキの顔を映し出していた。
(こだい、くん――)
そっとそのゼロの肌を撫でる。
冷たい温度――でも、優しい。
(護ってね、古代くんを。あなたならいつも、あの人を護ってくれるでしょう?)
物言わぬ機体に語りかける。
古代くんが、誰よりも愛しているこの、コスモ・ゼロに。
絶対に連れて帰って――私の許へ。
いつも共に戦場を駆け、宇宙を駆ける、あなたへ。

 ヤキモチを妬いているのだろうか? ユキは自分に語りかける。
いいえ。
ただ、羨ましいだけだ。
まだ自分では十分に動かすことのできない――古代進が、誰よりも思い入れているも
のが。

 もうっ。
 想いに耽っていたユキだったが、急に頭を上げて、そう思い至った。
「ユキちゃんが、ここまでアプローチしてるのに、なぜ、気づかないのよっ!」
そこだけ、声に出てしまった。
響いた気がして、慌てて口を塞ぐ――。
 いや。
気づいてないわけはないし――大切にしてくれるのかも、と思うこともある。
でも。
「いーっだ。ガミガミ屋の、おこりんぼ!」
コスモ・ゼロにむかってあっかんべーをしてみて。
銃の訓練の時も、この子に乗る時も。それ以外の時も。
なんだかいつもガミガミ言ってて。そのくせ、子どもみたいに私の言うことなんか、
聞かない。いつも無茶ばかりしていて――食事だって。

 ふっとユキは機体に映る自分の顔に笑いかけた。
(憶えてらっしゃいよ、コダイススム! そのうち、乗れるようになってやるわ。
 そうしたら――)
どうするというのだろうか。
森ユキは、その機体にもう一度笑いかけると、
「よろしくね、ライバル」
と言って、そこを後にした。

――Fin
   「宇宙戦艦ヤマト」イスカンダル帰路の頃

綾乃
Count001−−23 Oct,2006

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あとがき、のようなもの
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Cont 001 No.57 コスモゼロ (「コスモ・ゼロ」に改題)
 

count001−−記念すべき。は、「コスモ・ゼロ」と相成りました。
あいさんが管理運営されている 「古代君と雪のページ」 は、
いわずと知れた戦闘班巨大サイトです。古代進と森雪のいろいろな話、
しかも原則ハッピーエンドでラブラブな話が置かれてあり、
一つの魅力として管理人であり作者であるあいさんの個性に加え
様々な書き手の方々が作品を掲載しているという魅力があります。

熱い話や幸せな話を書くのは好きだけど。
どうも古代君やユキは苦手−−です。
こんなに好きなのに、ね。
なので、ちょいと「お題」に名を借りて、遊んでみようかと。
それと、生きて元気に動いている島くんや、その彼女(未定)、
独り者の真田さんとか、しぶとく元気な守兄さんなんかも
居ても良いかもしれない、なんて思ってみました。

もう一つは、古代進と森ユキの。Growing UpとFutureも書くか。
とりあえず、100もありますから。
ゆっくり埋めていくつもりです。
どんなお話になるかわかりませんが、よろしければ
時々覗いてみてやってください。

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