time icon −愛−Love


CHAPTER-11  (025) (089) (060) (033) (036) (035)



60. 【愛】
・・・はじめに・・・
このテーマで、さらに「古代進と森ユキの100」だと思って、お読みになると
思いっきり裏切られる内容かもしれません。一応、2人のLoveLove、ではありますが、
余分なやつは出てくるは、いちゃいちゃはしないは…。で、少し重かったりなんかも。
それでもよろしければ、ということで、お進みください。

加藤四郎については 三日月小箱/新月の館−オリジナル設定 です。
好きなキャラクターのイメージを壊したくない方、オリジナル・キャラクタ嫌いな方には、お薦めいたしません。
お読みになる場合は、自己責任で、お願いいたします。当方では一切、関知いたしません。

(1)

――A.D.2205年、地球


 そろそろかしらね。

 リビングの壁に貼られた旧態然としたカレンダーを眺めながら森ユキ――本名、古代ユキ
はこっそりと微笑んだ。
前のから3か月が経つ。さすがに艦隊勤務中は服務規程が放っておかないだろうし、現在の
副官はそのあたり面倒見の良いきっちりした方だから、一度はやっているとしても。
来週戻ってきたら、絶対に一度はやった方がいいわね。
 そんな風にひとりごちて、またユキはにっこりと微笑んだ。

 (そういえば、加藤くんも地球に戻ってくるんじゃなかったかな。連絡しとこっかな)

ふんふん、と鼻歌を歌うように、リビングを横切ると、回線の端末を開く。官舎から官舎へ
のメールはプライヴァシーは保証されないので、個人の、定時連絡の入れられるメールBOX
へ向けて、短い伝言を。
『葉子へ――戻ったらいちど一緒にいらっしゃい? 年中行事やっちゃいましょ? 日にち
ご連絡ください ユキ』
 外周艦隊へ出ている夫の古代進が帰還する嬉しさもある。…順調にいけばあと数日。
特に磁気嵐が吹いたという記録もないし、冥王星近辺で小競り合いがあったという話もきか
ない。外周部分で何かあればユキの立場で、知らないわけもないのだから、おそらくもう木
星軌道に達しようとしている頃だろう。そこから月軌道までは中・小ワープを繰り返し、
地球までは、すぐだ。
 自然、顔がほころぶのを感じて、こういうのを幸せっていうのかしら、とも思う。

 久しぶりに早く帰れた日。忙しくて日々の生活もただ過ぎていく毎日、深夜に戻り、疲れ
切って明日のために眠りに入るだけの日々には、時間ができたら、家のことや自分のこと、
あれもやろう、これもやらなければ、と思うのに。いざ早く帰れる日があると、その時間そ
のものが貴重な気がして。お茶の一杯を飲んだくらいで1人静かにのんびりしてしまう。
そして、ゆっくりと夫となった古代のことを考える。
彼と共に乗艦勤務している、もとの仲間たちのことも。
 戦艦アクエリアスが就航して1年。ユキと古代が結婚してまだ日も浅い。残される寂しさ
もあったが、こうして帰りを待つのもなかなか悪くないのだと思うのだ。
近くに居て触れ合える幸せも確かにある。だが、遠く離れて想い合うのもまた、それが深ま
るような気がして。……その想いが艦を引き寄せ、互いを近づけるような気もするような時
があるのだ。もちろん、錯覚なのだけれど。




(2)

 「こんにちは」
玄関の方で穏やかな声がして、背の高い姿がモニタに映った。
その隣には寄り添っている小柄な女性の姿。
「来たよっ」こちらは元気いっぱいだ。
 「おう、来たな?」
進は穏やかな目を上げると、自分で立ち上がって扉を開けにいった。

 「お久しぶりです。無事のご帰還なにより」
加藤四郎がそう言うと、古代はにこと笑って「嫁さんから聞いてるだろうに。佐々が無事な
ら無事に決まってるさ――でもまぁ久しぶりだよな、今日はゆっくりしてくれ」
右手を握ってうながすと、横で佐々葉子は笑顔なんだか憮然としたのかわからない表情で。
「嫁さんって誰」と、地獄の底に響きそうな低い声でぼそりと言った。「亭主なんぞ持った覚
えはないぞ」
古代はくすっと笑って。「はいはい、わかったわかった」「なんだよそれっ」
ここでにらみ合いが始まってしまうと、いつまでもランチにありつけないと思った四郎が、
「あぁ、わかったから、もういいでしょ。葉子さん、玄関口で迷惑だよ」と大人な発言。
「なにっ」
ぷん、とした顔で睨み返しながらも、素直に靴を脱いでおじゃまします、と上がった。
 「ユキ、お招きありがと。邪魔するね」
「ようこそ〜。お2人とも久しぶりね」
ユキは地上勤務だし、加藤四郎は現在は、真田の下でアクエリアス・ルナと再生された月面
基地を行き来しながら仕事をしている。所属はまだ地球の本部参謀本部。地球防衛権の再構
築は完了しておらず、なにかと三角点を行き来する日々だ。
 佐々の帰還に合わせて数日地上にいられるシフトなのは、なかなかラッキーだったといえ
る。だが、その影にその上司の思惑や、長官の敏腕秘書殿の手がなかったとは言い切れない
処が、知らぬが仏ともいえた。


 「あぁおいしかった」
「毎度のことだけど…ユキさんの手料理食えるなんて感激」
しごく満足した顔で褒める二人に、ホスト側の2人は顔を見合わせた。
「んふっ、ありがと」
ユキの笑顔は何よりものご馳走だよなと四郎が思ったというのは葉子には内緒だ。
「加藤くんて本当に褒めるの上手よね。何でもやってあげちゃお、って気になるわ」と笑って。
そうかな? と葉子が思ったというのは、これまた四郎には内緒である。
「――でもね、私が作ったのは半分」
「だよな」口が悪いのは親友殿である。
「あらっ。なによ」ユキは少し眉を寄せて葉子を睨む。
「手の込んだやつは古代だろ――」「うるさいわよっ」
別にユキも本気で文句を垂れているわけではない。友人同士のじゃれあいみたいなものだ。

 「今日はのんびりしたんだろ?」
リビングを片付けてしまい、食後のお茶をいただきながら、ユキが“準備”をしているのを
見つつ葉子が古代に話しかける。
「あぁ――ゆっくり、久しぶりに寝た」
「普段なら休みでも朝早いんだけどね――」ユキがそばを通り過ぎながらそう言った。
――古代は朝は強い方だ。睡眠時間も、決まった時間取れば大丈夫だから、休日の貴重な時
間を無駄にしたくなくて、むしろ割合早く起きてしまったりもする。もちろん、休みも2日
目になれば朝か夕、少しのトレーニングは欠かせないので、そのために起きたりすることも
ある。だが休みの間に1日くらい……必ずこんな日があるのだ。
 『古代くぅん? いつまで寝てるの? もうお陽さまが高いわよ――』
しゃっと寝室のカーテンを引かれ、まぶしい光が入ってきて、ようやくもぞもぞと布団から
顔を出す。惰眠をむさぼり、何もせず、出かけず、本を読んで…静かに過ごす。
何も考えず――ユキのことだけ見つめ、考えて。
 加藤四郎も早起きである。たいてい、葉子より先に目が覚めている――というよりも、
この2人の場合、どちらかが目覚めるともう一方も起きてしまう。
もっとも四郎は、朝ののんびりした平和が好きで、その気分を楽しみながらとろとろしてい
ることも多かったが…。

 「さ、用意できたわよ」
ユキがばさっと白いケープを翻しながら言った。

中庭に続くリビングの戸を開け、壁から組み込みの水道を引き出し、洗面台を作る。
「あ〜。やっぱやらないとダメかぁ?」
古代が往生際悪くそう言うのに、
「ダメよ。ぐずぐずしてると加藤くんみたいに角刈りにしちゃうから」
「ふぇ…」古代は肩をすくめて立ち上がった。
「俺から――かな」
「そうね、一緒にできれば面白いけど」くすっとユキが笑った。






←新月の館annex  ↑進&雪100 indexへ戻る  ↓ご感想やご連絡   →三日月MENUへ

このページの背景は・・・  salon様です

inserted by FC2 system