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No.81 【星の彼方に】

 
『ヤマトよ永遠に…』の古代守と島大介
うち設定で、この2人は直属の上官・部下で(本編を見てもそのように見えます)
個人的にはデザリウム来襲の瞬間にモニタで無人艦隊を呼び出し、「島!」と言う守さんに
あの瞬間から想起した一連の話の一部。未完の『イカルス神話・1』、『一粒のりんご』に
つながっています。
例によって、好きなキャラクターのイメージを壊されたくない方は、お読みにならないでください。
また、一見アヤシそうに見えますが……さて!?

そんなものでよろしい、という方のみ、どうぞ。


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「え? 出張、ですか? 参謀と?」

 定時報告のかたわら夕方出頭してきた島大介に、上官である古代守参謀は「3日の出張」
を伝えた。
 「あぁ、そうだ。――別に俺1人でもいいんだがな――君の腕があれば、仕事の効率は3倍
良い」にやりと笑って。
「仕事そのものは1泊2日で済む。そのあと月基地に寄って、俺はそこから極秘任務で10日
ほど留守にするからな――その間の引継ぎも頼みたい」
「引継ぎって――」
「参謀補佐もやれってことだ」
えぇっと島大介は驚いた。――そんな、忙しい仕事、できませんよ。
 大丈夫だ。森くんもいるしな。

 ということで、明日夕方から宇宙だ。――徳川に留守中の代理と管理責任を、それと、
1人補填のアルバイトをやるから、心配することはないぞ。
午前中は引き継ぎ業務。午後2時までに終えておいてくれ。
 そうテキパキと言われて、本部を辞した。

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 仕事は、無人艦隊と衛星の実際の点検チェックだった。
 地球の周りに張り巡らされている防衛網――その実際を目で見ていく。それを動かして
いる島にとっても必要なものだったし、その実際のプログラムを構築した古代参謀の行動も
理解できたし、徳川太助とリレーションを取るためにも島にはそれが必要だった。
 また、細かく移動する衛星の間を動き回るのに、島の操艦術は有用でもある。
「戦闘艇の運転なら、任せとけ、なんだがな」
と古代守は言って、快適快適、と島の運転する2人には少し大きめの高速艇に座っている。

 仕事は予定どおり、2日で終わった。

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 月基地――。

 硬化テクタイトの大きな窓からは、その全天を被うような、青い地球の姿が見えた。
「島――この店、知ってたか?」
「いえ……」
艦載機隊が常駐しているこの基地自体、来た憶えもあまりない。
 ふと加藤三郎や山本明を思い出した。
「加藤――三郎隊長が、愛用していた店だそうだ」
その想いが通じたように、名を出されて、島ははっと顔を上げた。
「艦載機隊の溜まり場だよ――山本も、吉岡も、鶴見も、工藤や岡崎も――配属されたコス
モタイガーの連中は三日に開けずここに来ては飲んでたそうだな」
「誰から」
「進が言っていた――あいつもよく月には来てたからな」
「そうですか…」
 黙って2人、グラスを空けた。

 加藤三郎――山本明。鶴見、吉岡、工藤、岡崎――戦闘機隊のみんな。

 「どうした、島」
守の声に、はっと我に返る。「想い出したか――」
「いえ……少し、ですが」
「そうだろうな。皆、お前にとっては大切な仲間だった――」
 俺も。
冥王星会戦までに失った仲間たちのことは、今でも忘れられない。
スターシアに言われ、デスラーに確認し……すでに全員が亡き者となったことを知らされて
も、この目で見たわけじゃないからな。
部下、戦友――辛いな。
 そう言って、また地球を見上げた。
 「言ってましたよ――」ふと島は口に。
「毎日毎日――イスカンダルから還って、再び俺たちがヤマトを発進するまでの間。少しず
つ赤から青色に変わっていく地球を眺めていたんだそうです――。
三郎は……あいつらは、そうやって俺たちが地球や…宇宙でがんばっていると想像していた、
と言っていました」
「そうか――」
「優しい男だったな……」しみじみと。
 「弟が、いるな」
「えぇ。四郎、といってましたね。――今、最上級生じゃないですか」
「……俺が教えることもありそうだ」
「へぇ――有望ですか」「トップだな、飛行科の」
「さすがですね」「進の、良い相棒になってくれればいいが」「本当に…」
 加藤の弟の話をしながらも、島は別のことを考え始めていた――。
 守さんは、このあとどこへ行くのだろう…10日も。

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 翌朝は早いが部屋で飲まないか、と言うのを固辞すると古代参謀は無理強いはせず、ホテ
ルの上階にあるバーで待ち合わせた。着替えてくつろいだ格好の彼もそれなりに絵になって、
同じ男として見惚れるものもあるな、と島大介は思う。
 ウェイターにワインらしきボトルを渡し、先に着いていた島の席へするりと滑り込んできた。
「いいの貰ったんだ」と舌なめずりせんばかり言う。に極上のワイン、大戦前のだぜ、と。
 「そんなのどこで手に入れるんです――」
「いやな、立場上、いろいろな」
……つけ届け、といわれる類のものだろうと想像はつく。ヤバそうなものには手をつけない
とユキも言っていたが、まぁ物と相手を選べばワインぐらいは。だからといってそれで何を
手心加えるわけではなし。
――参謀も大概性格が悪い。
 店の人がサーヴしてくれたものをグラスに注ぐ。
キン、と叩くと、ガラスがキレイな音を立てた。

 旨いな――。
 えぇ。久しぶりにいいワインですね。

 ほろ酔い加減で――疲れも溜まっていた。
 少し気持ちよく上気して、口調もだんだん柔らかくなってくる。
「だいったい、古代はですねぇ」
「進のことか」
「えぇそうっす。ユキを放りっぱなしすぎですよーー」
「そうだそうだっ。あんないい娘を放っておくと、俺が貰っちまうぞ」
「守さん、それ冗談になりませんって」
「わはは、そうか」
 ふと、真面目に声を落として。
「島、お前、ホントに好きな女いないのか」ふっと笑って島も答える。
「――守さんと同じ、ですよ。たくさん、居ますって」
「時々、お持ち帰り?」
「えぇまぁ――不自由はしてません」
「ほぉそうか――運命の相手は、いないってことだ」
「余計なお世話、です」
 そうか。「俺は別に、お前でもいいぞ?」
ずずいっと体を寄せられて、え、と引くと手首をつかまれてそのたいへんに魅力的な瞳が不
思議な光を放ってじっと見ていた。「……さ、参謀――守さん。離してください」
 一瞬の後、その目が悪戯っぽくくるりと光ったと思うと
(こういう処、古代とそっくりだ――いや、この人の方がかわいげがあるというのか)
ほい、と手を離されて戸惑った。
(なんだ、冗談か……)
ほぉとするのと同時に、少し肩が寒い気がしたのは不思議だ――まったく、参謀も人が悪い。

 古代守はほぉと息を吐くと半面が星を採光する天井を見上げている。
「――あの向こうに、イスカンダルはもう、無いんですね…」
その心の裡を読んだかのように、島が言った。
守は答えず、くい、とグラスの赤を呑み込む。
「――あぁ。無い。彼女がその手で、爆破したからな――お前もその目で見たはずだ」
苦いでもなく苦しいでもなく。淡々とした口調で守は言って、またワインを口に運んだ。
――テレザートも、無いんですよ。
そうは言わなかった島だが、その気持ちは流れ込んだように守に伝わって、二人してまた空
を見上げた。

 星の彼方に…… 貴女がいると思えばこそ。
 俺は、此処でも生きられる。

 遠い星の女を愛した男たちは、しばらく黙ってその沈黙を聞いていた。

 「ねぇ、守さん」
ん? と目を上げた古代守の明るい表情は、それを憂えているようではない。
――このひとは、強いな。と島は思う。
スターシアさんを、愛していらっしゃいましたよね? 今でも、ですか。
あぁ、と古代守は答えた。
 地球の危機も知らず、二人で過ごした。あの遠い星で――白色彗星の接近と銀河宇宙の
蹂躙はデータとして入ってきてはいたのだがな、まさか地球へ向かうとは思っていなかった
し、俺たちに手出しできるものでもなかった。
荒廃したイスカンダルに生気を取り戻してみようかと、いろいろやってもみた。
少しずつ、変わっていく彼女が愛おしくもあり、驚きもあり――長いようで短い2年だった。
俺は信じていたんだ――進や、お前たちが地球に居る限り。何も心配することはない、とな。
そして、その通りになった。
だが。今は――。
 それきり守は口を噤んだ。

 お前は、辛い想いをしたんだものな――。
ぽん、と温かい手が腕に乗った。励ますように見る守さんは、信頼すべき上官で、やはり親
友の兄だった。
 それを見返して大介は言う。
 それでも、愛さなかったより、幸せです――。
その横顔に翳りは無い。


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  なぁ島。
守が言う。
「俺は明日から、少し留守にする――というのは前に言ったな」
「どこへ行かれるんです? …と、お訊ねしてもいいですか?」
いいや、と古代守は首を振った。何のために俺が月まで極秘でやってきたと思ってるんだ?
 そうか、ミス・ディレクションのためもあったのか、と島大介は思う。
いいところだよ――何も無い。小さな場所だが。そこには娘と、大事な仲間たち、そして
お前たちの仲間の想いを継いだ連中も居る――。

 古代守は口には出さなかったが。
 イカルス小矮星――天文台。台長を務めながら訓練学校分校を仕切っているだろう親友・
真田と、その手に預けてきた可愛い盛りの娘。久しぶりに逢えるな。
そして、この月基地で張り切って活躍していただろうかとうらの後継――その弟・四郎が
其処に居ることを古代守は知っていた。
(鍛え甲斐もあるというものだ――)
そして其処には――極秘裏に、ヤマトもある。

 地球がどのような道を歩むにせよ……今、俺ができることは、彼らがより大きく羽ばたけ
るように、その道筋を作ること。
なぁ、そうだろう?
 星の彼方に今も、その存在は輝き続ける――スターシア。わが最愛の女神。
 そして古代守は、頼もしい後継の一人として横にいる若きリーダーの一人、島大介をも
見やった。
「ゆっくり休め――明日は、俺も乗ったふりして出航してくれるな?」
「はい、了解しました」
 島は大方を察していた。――もちろん古代守が何をどう、考えたのかまではわからなかっ
たが。上官を信じる。
「お留守、確かに預かりましたよ――」そうして小さな声で言った。「真田さんによろしく」
古代守がえっ、と驚いた顔をしたのも無理はなかっただろう。
――島にしたところで、当てずっぽうを言っただけだ。
どこに向かうかも、どちらに発つかも知らない。だがきっと、そうなのだろうと感じたのだ。

 月は、平和を享受しており――そしてまた日々は戦いに向け時を刻んでいく。
西暦2202年のことである。

――Fin
  
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綾乃
――11 Jun, 2009・改訂


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古代進&森雪100のお題−−新月ver index     
あとがき のようなもの

count070−−「星の彼方に」
 サイトを閉じた頃、この「お題」は60を突破して、完走までもう少し! というところに来ていました。
苦手なお題なので、のんびり、楽しみながら書こう…と思っていたものの、艦載機隊ものなども書く
機会が増え、また一番苦手だった、森ユキ視点の話が結構書けることを楽しんでもいたのです。
 ネタだけできていて書き上げてない作品が20以上あった…ということもあり、それだけでも仕上げて
しまいたいな、と思ったものの1本です。

 『ヤマトよ永遠に…』については、異論があるでしょう。ただこの時期の島大介を描いてみたいという
のはあり、また古代守・進兄弟が揃って軍に奉職し、それぞれの位置で活躍していた唯一の時期で
もあり……守さんはどんな先任だったんだろう。それを考えるととても楽しい。古代守については小箱
の管理人とは意見が合わない(解釈が異なる)ままでしたので、これらの何本かは私が勝手にイメージ
して書いたものです。ちょっとお茶目で大らか、弟には実は負けてるなぁと思いつつそれが嬉しい。
苦しい若い時代に弟の面倒を見、だがそれによって自分が支えられてきた、
本当は弱いところもある
にーちゃん。古代進に対しては“かわいい”だけではない複雑なものを持ち、それでも大きな愛情で
その進やその仲間たちを包み、信頼している守。……島大介という位置にいるひとを軸に、そんな
ことがかければいいな、と思っていました。
 この物語は、三日月小箱 Memorial『一粒のりんご』 などに、ゆるやかにつながっています。
お楽しみいただければ幸いです。
 (2009年6月 綾乃、記す)

Count078 Phese09−−Sep, 2006/10 Jun, 2009改訂
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