air icon そののち

CHAPTER-17 (086) (073) (038) (087: 1 /2 /3) (061) (099)


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= 2 =
 旗艦・戦艦アクエリアスはドッグでメンテナンスの最中だ。多くの乗組員は休暇に
入り、幹部と一部乗組員だけが忙しく動き回っている。
――搭載されている高速艇が密かにアクエリアス・ルナへ向かったのは翌日のことだ。
その艇内には、古代進外周艦隊司令と、その副官・風間巳希の姿がある。
「――今回は科学技術省との連携がけっこうなポイントだな」
「はい。……少し仕掛けが多すぎるような気もするんですがね。……マスコミからの
要請もあり、軍広報の方もそれに乗ることにしたようです」
「防衛同盟についての世論も捨ておけない、というところか」
「そうですね」――ガルマン=ガミラス帝国を中心とする防衛ラインが、太陽系を
含む銀河第×枝への他星系の侵入を阻んでいることには違いがない。もちろんその
構築には地球側も人材やシステムを出しており、それの予算等に対する世論も、平和
が続けば続くほどに難しくなってきている。――さらに心配はいくつかあった。

 「反対勢力の動きは?」
「――現在の処、大きな情報は入ってきておりません。最大勢力はグリュンヴァルト
ですが……あそこは最近、少し不安定だという情報がありますね」
「不安定?」
「――内部にいくつか派閥がある可能性が出てきました。歴史のある群れですから、
敵対行動を取る時期は波がありましたが…」
 古代は息子・守が中学に入ったばかりの頃に誘拐された事件を思い返していた。あ
の残党はついに捕らえられないままだったが……。グリュンヴァルトは急進的な組織
ではない、というのが関係者の間での現在の共通認識ではあるが、古代個人としては、
許すわけにはいかない相手である。
 同グループについては急進派と穏健派、もう一つあるらしい核の部分についてはほ
とんど情報が無い。何度も失敗し犠牲者を出したことから、潜伏者スパイを送り込むのが不可能
だという所為もあっただろう。
 「――現在の処、まったく動きは伝わってきていませんね」「潜伏者もか?」
「……少し気になる情報はあるのですが」口を濁す風間である。
「――良い。お前の主観でいいから言ってみろ」古代は風間が、こういうことに関して
憶測で物を言うことを厳しく戒めているらしいことを推察していた。自分で裏を取るか、
確証データが無い限り口にしない。それは慎重ともいえたが、時折は危険を伴う。
彼はその情報網と人脈を生かし、自身で動くこともままあったからである。
 「俺の下にいるからには」古代は何度か言ったことがある。「――単独調査はするな。
危険が伴う可能性のあることは勝手にするな。必ず、何か連絡つなぎをつけてから行なう
ように――そうでなければ、俺はお前を引き受けない」そう厳命してあるが……風間が
自分を思っての行動を取ることがままあるのにも気づいている。
 「――何かあるとすれば、“月”かと」
「! ガニメデではなく、か?」
「はい……でも」風間は微かに頷いた。「……あそこは、大丈夫でしょう」
「そうだな」
加藤四郎が治めている。彼なら信頼して任せて大丈夫だろう――だが、要素が多す
ぎる、か。確かにそうである。
 「取材に入るのは黒崎さんたちのクルーだったな」
「――そこがメインですが、ジャーナル社1社ではフォローし切れませんので、明朝めいちょう通信社が
広域はカバーします」
「明朝、か……」あまり良い思い出はなかったが大手でバランス感覚もある。古代の
特番を作りたがったりミーハーな部分も多い。しかしなにかと軍寄りの通信社で付き
合いも浅くはなかった。

 ともあれ、万全の準備を。真田の口癖であったように『こんなこともあろうかと』
という準備のため、艇は極秘裏にアクエリアス・ルナの第一基地へ向かっている。

moon icon

 その日、古代の乗る高速艇はアクエリアス・ルナに着き、科学技術省長官兼地球防
衛軍科学局特別室長・真田志朗と古代進は、久々の再会を喜んだ。風間は改めて副官
として彼に紹介され、その広範で大掛かりな“夏の大演習”について、様々な議論と
調整が成され、真田の研究中の実績データの検討やルナの現状、その他について緻密
な打ち合わせが成されたのであった。

 西暦2216年――。地球の北半球は、暑い夏を迎えようとしていた。

Fin


PS この話は 三日月小箱百之御題 2005−No.39 「der Mond/大輔、月へ行く」 に続きます


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――17 July, 2009
綾乃


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