air icon そののち

CHAPTER-17 (086) (073) (038) (087: 1/ 2 /3) (061) (099)



No.87 【いじわる】
 
= まえがき のようなもの(ご注意含)=
『宇宙戦艦ヤマト』の創作二次小説です。
お題は「古代進&森雪ファンのための100のお題」からお借りしたものですが
主役は、まるきりのオリジナル・キャラクターで、風間巳希といいます。
オリジナル・キャラが苦手、という方は、このまま引き返してください。

時代は『完結編』後。直後の古代進と森ユキの婚約時代に始まり、この
“風間くんもの”は3作目です。その10年後……を少し覗いてみます。

「女神の微笑(女神)」
「幸運の神(ラッキー)」 を未読の方は
先にお読みいただいた方がよいかもしれません。特にこの話は「幸運の神」のその後、です。
さらにこれは、(主役は交代しますが)「大輔の夏休み(der Mond)」(現在は未リンク)へ続きます。
いずれも物語としては完全にOriginalですのでご注意ください。

ご承知のうえ、先に進まれる場合は、下からどうぞ。
――西暦2216年。地球は平和のうちに新たな道を模索しています。
古代進は第七艦隊=太陽系外周艦隊司令として戦艦アクエリアスの艦長を務めています。




flower clip


= Prologue =

 「え? 出張ですか? またずいぶん急なのね」

 息子の守が学校の合宿で明日まで泊まり、という夜。古代進は愛妻にそう聞き返さ
れていた。妻である森ユキもすでに復職して現在は防衛軍秘書室に勤務している。気
を緩めることのできる職種とはいえないが現在は平和…けっして安穏とした中で過ご
した年月ではなかっとはいえ、12年――つまり守の年の分、地球への異星からの攻撃
は、無い。地球は順調に復興を遂げている最中だ。
 最年少の艦隊司令として第7外周艦隊を統べる古代進は、珍しく長めの回周で地球
圏へ戻ってきており、さらに地上にいる。夏期ということもあって訓練学校の臨時コ
ースを頼まれ、後輩の面倒を見たりもしていた。――イレギュラーの上にもイレギュ
ラーが重なって、ふだんならこういったことで咎めだてするはずもないユキの声も、
自然、困惑を帯びた。
(そろそろ守の進学の相談も……なんだけどな)
 中学生になり、自分の意思もはっきり示すようになってきた。ふだんは愛くるしく
て柔らかい印象の子だが、いざ“あのこと”となると頑固で、同じく見かけによらず
“頑固親父”の進は説得しきれていない。
(まったく――自分の息子のこととなると……なんだから)
ふぅ、とため息をつく母も、けっして本人の望むように跡を継いで宇宙戦士になって
ほしいなど思っているわけではないのだ。優しくて、誰からも愛される優等生。仲間
や友人も多く、上の学校も良い処を期待できる、と学校や級友たちからも期待されて
いる。まぁ古代進の息子なのだから当然――自分の夫が本来そういう性向の持ち主
だったろうことを息子の中に発見し、つくづく血とは不思議なものだと思うユキである。
 話し合いなさいよ、お父さまと。
本人にはそう言い、納得もしているようなのに、そう決めた途端、すれ違いが多い。
なかなかうまくいかないわね――そういう想いも外に出ての困惑だった。
 「合宿から帰ったら話があるからって、言ってたなそういえば」
その心の裡を読んだように古代進は少し首をかしげた。次の瞬間、ふっと笑うと、ユ
キの手首をつかみ、くい、と引き込むと。「そういう顔もキレイだ…」と突然言った。
ぽ、と赤くなるユキ。
「まぁっ――何、おっしゃるの」
んっ。ちゅ、とキスが降って、
「ごめん――忘れてたわけじゃないんだ」「進さん…」

moon icon

 というような顛末があったが、その理由は翌日、防衛軍かいしゃへ行ってすぐにわかった ユキ
である。
「――大規模演習、ですか?」
「あぁ…」藤堂長官のあと、防衛軍のトップに選ばれた柏崎は久々の文官上がりだが、
藤堂の子飼いともいえる男である。――平和時のシビリアンコントロールをアピール
するための人事、とも次の長官までの単期“暫定政権”ともいわれているが、肝が据
わっており武技一式もこなす硬骨漢だ。専門は法律……彼によって戦時中の不可抗力
による罪から極刑を免れた軍人は少なくない。別名・“ホトケの柏崎”――だが実際
の軍事法廷での舌鋒ぶりはホトケどころではない辛らつさで、人はいったい何をして
そう呼ぶのだろうとユキや周りの部下たちは想う。平時には好々爺に見えた前長官に
比べ、取り付く島もなさそうな雰囲気に威圧される者は多い。

 「――君は、平気そうだな」
最初の頃のある日、お茶を持っていくと突然にそう言われた。
 「……終わられましたの? 明日の案件は苦労しそうですわね」と話しかける。
「あぁ…」
とイスに沈み込むように背を持たせかけて、めずらしく柏崎は深い息を吐いた。
「君は、平気で話すな、と言ったんだ」
「なにがですの?」ユキは笑顔でとん、と彼の好みの温度に調整された日本茶をデス
クに置く。
「皆、ワシのことを何と言っているか、知っとるか?」
くすりとユキは微笑んで、「存じていますけれど――関係ありません」そう言って
「お茶、熱かったら仰ってくださいね」と言う。
「――さすがにヤマトの森ユキというか、ワシ程度ではビビりもせんか」
苦笑、という口調になる。
「気にされてますの?」可笑しそうにユキが言うと、長官はふっと笑った。
「おかしいか? ワシが風評を気にすると」「えぇ」こくりと頷く。
「まったく、ハッキリ物を言う人だな。――藤堂さんが頼りにしたのもわかるよ」
 異星人と対峙し、いまや盟友となった宿敵・デスラーと銃を構えたこともある。
敵将軍に捕らわれて一歩も引かず、白色彗星の露と消えた仲間たちの名誉を護り、
夫・古代進の背後を守って世間とコトを構えたことすら――。華奢でたおやかに見
えても歴戦の戦士・ヤマトの森ユキなのである。
「……それに、私が怖いのはただ一人だけです」
「ほぉ? 其れは誰だと聞いてもいいかな」
ユキはまっすぐ「古代進――私の夫ですわ」と言った。
 柏崎は外周艦隊司令の青年将校・古代進の優しげな表情を思い浮かべる。
目つきこそ鋭く、戦艦に乗せればカリスマを発揮する男だが。自分たちとのやり取
りでも控えめで言葉少なく、実直な士官という印象が強い。顔立ちはどちらかとい
うと童顔で柔らかいのを、そのエッジの立った顎や頬の線や目つきが裏切っている
のだ。
 その口調に込められたものに長官はヤマトの歴史を頭の中で走査する。古代進とい
う男や、この二人が抱えてきた歴史の重さも――「重い、言葉だな」
「ありがとうございます」ユキは微笑んだ。

 「演習の準備があってな。調整に行ってもらう必要がある――短距離だが。真田
くんとのリレーションがけっこう、な」
「アクエリアス・ルナですか?」こくりと柏崎は頷いた。手許のベルを押すと、すぐ
に扉が開いて、お呼びですかという声とともに一人の男が現れた。
「入りたまえ――詳細は、彼と打ち合わせてくれないか。プランの細かい処を作成し
たのも、彼でね」
 ハッ、と敬礼をして入室する若者を振り返り、ユキは驚いた。
「まぁ…風間、くん」彼はぴっと敬礼をし、爽やかな笑顔を見せて言った。
「風間中尉、入ります。――お久しぶりでございます、奥様」


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