けんか

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89.【けんか】


 「そんっなこと! お前ぇに言われたくねぇっ」−−ばこ。
「言われたくなきゃ、言われねーようにしろって」−−ぼす。
「他所の班のことに、口出すなっ!!」−−ばき。
「出したくなるようなこと、すんなよっ!!」−−べし。
「よけーな、お世話、っだっ!」−−ぼこ。
−−ばしべきぼか。どすっどすっ。

 「まぁた、やってんのか」
ブラックタイガーの機体の影で、ののしりあいながら、すでにくんずほぐれつ……の加藤
と山本である。
呆れた顔で、何とかしてくださいぃ、と呼びに来た若いの(といっても加藤や古代と同期
だ)について格納庫に行くと、2人はもはや本気の殴り合いに発展していた。

 山本が手を上げると、ローカルな“避難命令”が出る。
「大事なもの持って、さっさと逃げろよ」
というのが整備兵や工作班の間で木星軌道を抜ける前に既に出されていた――なんと
向坂副班長自らお出しになった特別通達だ。
(ふだん、クールで穏やかに見えるのにな)
だいたい、あまり何があっても斜に構えていて本気で相手にする様子はあまり、ない。
だが、一旦火が付くと、誰も止められないほど激しい――。
山本明について、隊員たちが旅に出てから知った一つである。
 訓練学校の同期というのは彼の代はほとんど残っていない。
ヤマトの中には一人だけ……松本匠がそうで、あとは下級生ばかりだ。だが2期生の
超有名人――そこで山本を知っていた連中は余計に驚くらしい。

 「山本さんって、ホントはあぁいう人だったんですね」
何人かの4期生からそう言われたことがある。
ナンパで、いつもクールに構えていて。女にモテて、喧嘩はするけど本気になったこと
なんかない。いつもしゃらりと勝ってた。
成績だけは抜群で、真剣だが冷めた目をしている……。
 そりゃ当たり前だろう、と宮本は思う。
訓練学校はあくまで訓練をする処だ。実戦の相手がそこにいるわけではない。今、ヤマト
に乗り、具体的に自分たちを苦しめてきた相手と戦い、そして使命を追ってイスカンダル
へ向かっているのだ。――だから。本来の姿が出てきても、当たり前なんじゃないか。
そう。宮本暁が知っている山本もクールな若者で、今、此処で見せている姿が本来だとす
れば、それは快い驚きでもあった。
(加藤や…古代の所為かもな――)
そういう思いもある。
(――だけど、そういうヤツだと思ってたよ)
宮本暁の意見は、そうだ。

 誰だって命は惜しい。
 あの2人の間に割って入って、無事なわけはないし。だいたい、上長たちの喧嘩に割り
込める部下がいるはずもない。
――宮本なら何とかしてくれるだろう、そんな若者たちの保身も見える。
宮本は唇の端をゆがめて少し笑うと、もう、いいだろう。そうつぶやいてつかつか、と
格納庫の隅に置かれていたあるものに近付き、ごそごそ、とそれを持った。

 ばしゃ!
 頭から水をかけられて、加藤三郎と山本明は我に返った。
「ぶ。あにすんだよっ!」「つめってぇ!」
顔中、痣だらけだ。恐らくその服の下も。沁みるだろうな。――だが、致命傷になるよう
な傷は負ってないだろう、一級の戦闘員が素手で攻撃を仕掛けたら相手を殺してしまう。
互いの力量が互角だからこそガードもまたできるのであって、それは2人ともが“喧嘩も
強い”ということでもある。
 「もう、いいだろう。いい加減にしろ」
「宮本さん――」「宮本…」
水は貴重だが、割り込んでこっちが怪我をしたんじゃ割に合わない。効率的ってもんさ、
と宮本は平然としている。
「部下どもが引いてるぞ。――何が原因か知らんが、班長たるもの、あまり感心せんな」
ヤマトの中で、こんな説教はするだけ無駄ともいえた。
だいたい、チーフの古代戦闘班長にしてからが、そんな常識の通用する相手ではない。
いい男が台無しだな、とそんな風にも思ってしまう。
 2人はふい、と顔上げて宮本を見、めーわくかけてすんません、と言うと、また互いの
顔を見た。
「おい、俺ぁ納得したわけじゃねーからな」加藤チーフは頑固にそう言う。
「それぁこっちの科白だっ」――山本こいつのどこが、クールだって?
「決着、つけるか?」「あぁっ。いつでも来い」
 「――いい加減にしろっ。ジャレるのもほどほどにしとけよ」
そう言うと。
「なんっ…」加藤がカッとなったのを、
「ジャレてなんかいませんが」と山本が受けて。
「…あぁ、わかったよ。お前の好きにしろ。その代わり、きっちり落とし前付けてやるか
らな」山本も譲らない気配で――だが、一応引いてみせた。

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 「――おい、山本。上官を殴ったら軍法会議だぞ、わかってるか」
軍隊において規律は第一優先事項でもある。指揮系統の混乱は、生命にかかわるからだ。
最初の頃、やはり喧嘩の仲裁に入った宮本が、2人を前にして言ったことがある。
口に出すのは危険だと思いつつ、言わないわけにはいかなかった。
あまりにも激しい殴り合いで、B.T.隊の非番のメンバーは皆集まってきたほどだ。
それだけ目撃者が居れば、逃れることはできない。先に対処しておいた方が賢明だ。
 加藤が肩をすくめてため息をついた。
「――宮本さん。うちの隊内では、期間限定で解除してます、それ」
「あん?」
「限定解除・治外法権、もらってます。BT隊内――期間限定で」
 要するに、加藤隊長や分隊チーフに逆らってもいいってことか? それはマズいだろ?
「飛んでる時は別っすよ。乗った瞬間に、無いです。それできるって信頼してますから、
俺」
加藤三郎はそう言った。
――異例だってわかってますよ。戻ったら俺、処分されるかもしれない。
だけど、チームってそんなもんじゃないでしょう? 俺たちは全員、戦闘機パイロットだ。
他の班とは違うんですよ、それぞれが技術も持って、地位も持って、頭も持ってるはずだ。
経緯も経験も違う。それを統括して、1年の間、狭い同じ城の中に篭ってやってかなきゃ
ならない。
だからです、好きにさせようって。いつでも俺、受けて立ちますんで。
 それで統率していけなきゃ、チームの頭なんて、張ってられっか…それは、若輩の自分
が命がけの隊を率いていかなければならないことへの、加藤三郎の“賭け”でもあったろ
うか。――不満が裡に篭るのを恐れて。現に、工藤・岡崎隊との間は、最初からしっくり
行っていたわけではない。
 それにすぐに応じたのが、山本明だった。
何かというと気軽に手が出る――それは、自ら突破口を開こうとした彼の計算だったか…
…それとも、ただの本気だったのか。
「だいたい、ヤマトの中って特殊治外法権なんですよ――艦長の方針もあるし、戦闘班長
がだいたい、あぁですからね」加藤隊長が言った。
「俺ぁ、力で押さえつけようとは思いません――や、腕力なら使いますけどね」
腫れた顔でぶすっとしたまま、不敵に加藤は言った。

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 どうにも合うわけはないと思っていた山本明と加藤三郎が、それからも時々、そうやっ
てジャレてるのを見かけるようになった。――相棒、といってもよかったかもしれない。
よく一緒に居るのを見るからだ。
 山本は喧嘩が強い――訓練学校や近辺のスクール出身者なら知らぬ者はなかったはずだ。
自分も前の隊で見ている――私刑まがいの目に遭いながらそれを潜り抜けてきたヤツ。そ
れと対等に戦えるんだから、加藤三郎も相当な腕だということだ。
また、自信がなければ「気に入らなければ殴ってよい」などという発言をするはずもない
のだ。怖がられるのはまだ良い――莫迦にされたら、それこそチームの未来は、ない。

 「仲良いのは結構だけどな」
ため息をつくように言うと。
「だれ、がっ」「こいつとかっ!」
互いが指差してイヤな顔をする。――そのタイミングの合い方ときたら、これを仲良いと
いわずして何ていうんだよ、と思う。
「――どうする? 古代に報告するか?」
“上官”の加藤に訊く。「――自分でやるからいい」横向いてぼそりと。
「……当直表の配分で喧嘩になりましたって?」山本が呆れたように言う。
「っ! こいつゎっ。もう一回やるか!?」加藤はまだ納まらないようなのである。
「苦情が出たからってお前が苦労するこたぁないだろって言っただけだっ」
「うるさいっ。俺が決めたら俺が法律だっ!」
「――いや、だからもう好きにしろよって。きっちりフォローはしてやる」
「いらんお世話だっ」「意地っぱりっ」「おせっかいっ」
――女子高生の口げんかか…。宮本はため息をついて、目の前の若者たちを見た。
 まぁいい。
仲良くしろよ。

 「何見てる、解散っ!」
回りを遠巻きにしていた隊員たちを一喝して追い返す。
「一応、医務室行って見てもらえ。いいな、必ず消毒してもらっとくんだぞ」
敬礼を返すと、2人は並んでボヤきながら歩み去った。
 「あ〜あ、またユキにお説教食らうのかぁ」「何言ってる。お小言貰って嬉しいくせに」
「抜かせ――そういうお前だって」
医務室へ行けば森ユキがいる。――ヤマトの女神。
それだけでも癒しになるだろうか。

 旅はまだ始まったばかりだ。

――Fin
「宇宙戦艦ヤマト」よりOriginal Side Story「YAMATO2199」A.D.2199年

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綾乃
Count062/Chapter 11−−05 Sep, 2007

 

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あとがきのようなもの

count062−−「けんか」
   加藤三郎と山本明。二次小説ネタの王道っす。この2人って、いつも喧嘩しているようなイメージがあるんですが、本編では、ほとんど絡みらしい絡みも出てこない…テレザートに向かうヤマトに一緒に飛んできた時に信頼しあってる様子は伝わってきましたけどね。あと、彼が白色彗星に…のシーンでの三郎くんの絶叫とか。
   話が先に出来て、タイトルはあとから探しました。うちの この2人はけっこう大人に書かれてしまっているし、実際、デカいやつらだったんだろうなと想像してますが、元気に活躍している若い時代をもっと書きたいなと最近は思っています。なにせ、「ヤマト2」までしか現役では生きてませんからね、期間限定で厳しいところです。だから、短編の方で悩んだり、苦しんだり、はじけたりする彼らを書きたいな、と最近強くそう思うんですよね。
   よろしければ NOVELの「YAMATO2199」第二部 も読んでみてください。少しずつ、そんな部分も垣間見えるようになっていると思います。

 

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古代進&森雪100のお題−−新月ver index     
CHAPTER-01                    
01-No.57 コスモ・ゼロ 02-No.100 誕生 03-No.15 兄と弟

04-No.41

ヤマト艦長 05-No.21 再び… 06-No.53 復活
CHAPTER-02                    
07-No.01 一目惚れ 08-No.78 温泉(未) 09-No.82 10-No.03 旅立ち 11-No.84 First Kiss 18-No.83 プライベートコール
CHAPTER-03     12-No.09 もう、我慢できない   13-No.18 ありがとう    
14-No.20 告白 15-No.26 ふたり 25-No.14 記念写真         26-No.80 自棄酒(未)
CHAPTER-04 16-No.29 My Sweet Home   17-No.70 冬木立 22-No.22 エンゲージリング  
28-No.08 願い星                 58-No.31 新入り(未)
CHAPTER-05
parallel・A
19-No.06 心の変化 20-No.95 ラブシュープリーム      
43-No.96 約束(未) 21-No.75 旅行(未) 35-No.58 さよなら(未 42-No.35 再会        
CHAPTER-06                    
23-No.48 若い人 29-No.02 片思い 30-No.04 メッセージ 25-No.14 記念写真 33-No.62 チョコレート 27-No.43 三つ巴(未)
CHAPTER-08                    
37-No.50 忘れない 40-No.19 ただいま 41-No.16 イスカンダル 46-No.30 おままごと 39-No.05 氷の惑星 37-No.11a ライバル
CHAPTER-09 48-No.27 永遠の誓い 49-No.28 いつまでも 50-No.13 帰ってきて! 45-No.10 不安 31-No.45 たったひとり(未)
CHAPTER-10 51-No.07 孤独(b) 52-No.32 もののふ         47-No.63 クッキー(未)
CHAPTER-11 57-No.25 帰りたい… 62-No.89 けんか 61-No.60 39-No.33 叶わぬ恋 60-No.35 再会

 

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