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【気になるひと

−−A.D.2200
:古代進&ユキの100−No.90「愛してる」


 

・・・格納庫の日常茶飯事・・・


(1)
 
 森ユキの感情きもちを知らないのは、古代進だけだった――。


 

 (ちぇっ。……何だってんだ――)
むしゃくしゃする。
格納庫でまた生活班長とモメた。……だいたい、あの女は生意気すぎる。

 最初は、まるで“白衣の天使”を地で行くような美女だと思ったものだ。
軍の中央病院で、兄さんの戦死にひどく落ち込んでいた俺の前に現れた、ひ
どく華奢で優しい微笑みのしっかり者の美女――。てっきり年上のお姉さん
だとばかり思っていて、正直ひと目惚れ、というか憧れた。こんな大事な際だ
というのに、何度も頭をぎったくらい、強烈な印象の美女。
――ところが、ヤマトに抜擢されて来てみれば、居たんだ。そこに。
同じように“目をつけ”たらしい島(ってこういう言い方は良くないけど、使わせ
てもらう)と、一瞬のうちにライバル意識が走ったのは言うまでもない。
しかも、生活班長――こんな若い娘が!? というような重要な部署で。おまけ
に策敵オペレータをさせれば一級だし、艦内のメインコンピュータも扱える。
工作班長の真田さんと一緒に、多くのバイオ生化学の知識も持っているらし
い――オールマイティかよ…なんて尊敬するを通り越して呆れたほどだ。
 だが。
 あ〜んな、じゃじゃ馬で、子ども(なところがある)だとは思わなかったっ!!
なぁにが「試験は通りました。あとはA級の実機ライセンスが欲しいんですっ」
だとぉ?
戦闘機は遊びじゃない。いくらペーパー試験通ってたからっていって。コスモ・
ゼロなんかに乗れるものかっ!! ……人の気持ちも知らないで。


 

 ビーメラ星での救出劇のあと、何か肩に力が入っているとでもいうように、
森ユキの戦闘機への執着は、傍目にもよくわかった。暇さえあれば格納庫や
シミュレーションルームで見かけたし、多忙な生活班の業務はこの、戦闘の
薄くなった今の時期だからこそ、加重を増しているといえなくもない。
そして努力の甲斐あって――戦闘センスの方は、お世辞にもよろしいとはい
えなかったが、気の強さもここまでくれば“ご立派”だ。何とかライセンス
をやれる一歩手前までもってきたといえよう。
 だが、古代はユキにコスモ・ゼロに乗ってほしいと思っているわけではない。
(人を救う手が、人を殺す技術をこれ以上覚える必要があるのだろうか――)

 白くて細いユキの手。
 しょっ中、怪我をして医務室に連れ込まれる古代の背から包帯を巻いてく
れるその指先は、ドキリとするくらい細くてしなやかだ。――この手にコスモ
ガンを握ることがある、とは信じられないくらいに。
いや、その指がしなやかで強いのは知らないわけではない……何故なら、
平手打ちされれば、それなりに痛い……からである。

 (わかってんのかなぁ――戦闘機に乗って出る、ということは、攻撃目標に
されるってことだ。相手、撃ち落さないと堕とされる。逃げてお終いってわけ
にいかねーんだぞ…)
古代の気持ちも知らず、真剣な目で計器を睨んでいるお嬢さんは、あれだけ
オペレーション能力は高いくせに、いまひとつ、敵を追い込むことに向いて
いないらしい。
(――戦闘センス、ってあるんだよなぁ)
はぁぁ、とデータを見ながらため息をつくと、加藤が同じことを考えている
のだろう、苦笑いをして見ていた。
「まぁ――生き延びられる技術を沢山持っているにこしたこたぁねーぞ」
お前の考えていることなんかお見通しだ、と加藤三郎が言う。
「…だけどな。戦闘機は乗るだけで戦闘引き寄せるんだ、お前だって、わか
るだろ」
「あぁ――わかるさ」
 加藤の「わかる」は、「古代の気持ちも」わかる、のであって、だけど森が
何故ゼロに乗りたがるのか知らないんだよな、お前。と内心でため息をつく。
加藤や山本には丸分かり――少しでもお前に近づき、苦労を分かちあい、
そして。ひいては古代おまえを守りたいとくらい思ってんじゃねーのかって。
そのくらいは察している2人なのだ。


 

 α星での危機、艦長の手術。そしてバラン星での戦いを無事切り抜け、古代
進は艦長代理を拝命していた。
――その時の天啓……俺は。彼女にはふさわしくない。
【生きて、帰る。】
それが目標だったはずが、その頃、古代進の目標は変わっていた。
 一つ頭抜きん出てしまった古代に対し、島と古代の周りの連中が勝手に反
応し、ぎくしゃくと派閥抗争に近い感じが艦内を支配しつつあった。――いくら
ライバル意識ばりばりで長年過ごしてきたとはいえ、それと同じだけ積み上げ
てきた互いへの信頼もある。当人は、周りが言うほどに本当は気にしていな
かったのだろうが、人の気持ちを無碍にできないのは島の特徴ともいえた。
どういう態度を取ってよいか逡巡していた部分もあったろう、食堂で図らずも
爆発してしまった感情の末、島にポロりと本音を吐いた古代である。
 戦って、勝ち――コスモクリーナーを得て、凱旋する。
それが古代進がヤマトに乗った目的だった。
もちろん、最初は「兄や両親を殺した敵を許せない――復讐してやる」。
だが、長年自分を追い立ててきたその心根は、もちろん古代の奥底に瘧の
ように渦巻いてはいたが、そんな私怨で成功するはずのない旅だということ
は、リーダーの一人として艦をまとめながらここまで来た間に見に沁みていた
し、ともかくも地球には、それを待っている人々が居る。
古代は、その私怨を戦いの場に向け発散することはあっても――この旅の
中で、それを捨てようとしていた。
 それは、戦闘機に乗り、1対1でガミラスと対する時に感じたもの――相手
も人間。何らかの理由があって、地球へ侵攻してきているのだ、と。それを
確信したのは、捕虜をつかまえた後のことだっただろう……。
敵も必死だ――図らずもドメルとの戦いでそれが裏付けられてしまった。
だから古代の本音は――。
 「ヤマトが帰れば良い――」
そう変わっていた。
戦闘班長――自分を生かせる立場に就けた。
その中で、精一杯生きている。……仲間に恵まれ、彼らと共に…だが、彼ら
の屍を踏みしめながら、でもある。
 帰ること。コスモクリーナーを得て。
この厳しい戦いとギリギリの旅路の中で、自分が生還できる可能性は万に
一つも無い。古代進はそう考えるようになっていた。
生きたいというのは戦闘員の本能のようなものだ。もちろん、指揮官は生き
のびなければならない――作戦を成功させるために。部下たちを守り、返す
ために。
だが、それが最終目標ではないのだ――ヤマトでは。
 潜入部隊を指揮し、コスモ・ゼロで率先して出る。……ここまでそれが成
功してきたのは僥倖に過ぎない。
 そしてその中――ヤマトの操舵を握る島と、ヤマトふねの守護神ともいえる
真田。この2人を失うわけにはいかない、と。そう考えるようになっていた。
(俺には待っていてくれる家族も、親族も――無い)
友はほとんどこの中に居る――14の時から寝起きを共にしてきたやつら。
だから。
 (帰るのは別に、俺じゃなくったって、良いんだ――)
ヤマトが戻れば良い。戦闘員は、その他を守るために、存在する。
だから――万が一。俺が生き残れる確率は、高くはないだろう。
たとえ戻ったとして。俺に、何が、ある?

 ユキには生き残って欲しい。生きて、幸せになってほしい。
そのために地球を守りたい――いつか、ほのかな恋の憧れは、そういう
想いで古代の胸を浸すようになっていた。

 そして。

 
背景画像&イラスト by 「Little Eden」様 

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