hisho icon 禁域タブー −set triangle・first contact−



(1) (2) (3) (4) (5) (6)
    
   
【禁域 −first contact−】

−−A.D. 2217年、地球
:古代進と森雪のお題100-No.43「三つ巴」


seiza icon

= Prologue =


 ええい、ちくしょうっ!

 風間巳希かざま みきは自室へ戻ると明かりもつけぬままに制帽をはぎ取り、床へ叩き付けた。

 (……俺の、ミスだ。もう少し…もう少し注意していれば……わかっていた――疑っ
ていたら手を、打て! そう…!!)
そう、決めていたはずではなかったか!?
確かにこちら側にはほとんど犠牲は出なかったかもしれない。だが、月基地は炎上し、
修復には何週間もかかるということだし、あわや……大事な方たちが。
その娘やほかの人たちが犠牲になるところだったのだ。
そして……心弱き善良な若者がまた一人。失われてしまった。

 (ちくしょうっ!)
そのことそのものが、風間の罪を責めているような気がした。
 あの男に係累があり、その体の弱い妹が囚われていることは気づいてもよかった
はずだった。
 自然主義を謳う原始共同体に近いということまでがわかっている“グリュンヴァルト”
本体。その実態はいまだ明らかではなく、中心のメンバーらしき者の正体もわかってお
らず……だが、“耳”の一人が言った。
――あれは人を囚うことはしない。ただ、人は自ら捉えられるのだ、その心弱き善良
な者と、体弱く社会不適合とされた者たちは。
 気づいてもよかったはずだった。
 長浜一樹、という機関技術者。最後の最後には司令をかばったのだとはいえ、あの
爆発を招き、そして少なからぬ犠牲を護衛艦ヘクトルの乗組員に出していた。艦長・
甲斐も危ないところだったのだ。

 誰も、風間の責任だとはいわない。…彼がこうして陰で情報を集め、手を打ってき
たことなど知りもしないだろう。作戦も、演習も、結果として成功し、民間人の犠牲
はなかった。軽い船酔いくらいで、軽症の者すらない。ただ一人、川上准将がクレー
ムを出してきてはいたが、それは是枝中将が処理するだろう。…あのひと――古代
司令にご迷惑をかけるようなことは無い。実績として数えられるようにやったつもりだ。
そうなることはあっても、絶対にマイナスにはならないという自信はある。

 拳を握りしめながら、風間はそこまで冷静に頭の中で検討をすると、ようやくほぉ
と息を吐いて動き、明かりをつけた。


 上着を取り、ばさりとソファに投げ出す。壁際の棚からボトルを取り出し、グラス
と氷を……からん、と何とも言えない音がし、ぐい、と彼は一口めを喉に放り込んだ。
カッと喉が焼ける感じがし、またふぅ、とため息をつく。
(あれで、良かったのだろうか???)
自分ができる精一杯はやったつもりだ。だが。
(……だめだ。精一杯、ではない。なかった。俺はもっと……完璧にフォローしな
ければならなかったのだ)
表だけに目が行き、裏を忘れるなど本末転倒である。
自分の分を、彼はそうわきまえている。

 (失敗だ……俺にとっては。だが)
 そこで卑屈になったり、実績そのものを全否定するほど、彼は感情的でもなければ
莫迦でもなかった。
(次は、絶対に……間違えない)
く、と宙に目を据えると、ぐっとグラスを握りしめ、もう一度また酒を喉に流し込
んだ。
「見てろ…グリュンヴァルト。……この俺が、いつかその正体をつかんでやる」

planet icon

 もう、誰も傷つけさせない――。
 たとえ心だけでも。もちろん体も、、、目の届く範囲の、基地や建造物もだ。
風間巳希は、誰にも見せたことのないキツい瞳で、またじっと見据えるのである。

 
背景画像 by 「幻想素材館Dream Fantazy」様 

Copyright ©  Neumond,2005-09./Ayano FUJIWARA All rights reserved.


←新月の館  ↑Archive 扉へ  ↓次へ  →旧・NOVEL index


inserted by FC2 system