天使 −イオの風に−


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【天使・1 −イオの風に−】

−−A.D.2192、木星宙域
:お題2006-No.55 【天使・1】

−−このお話は、宇宙戦艦ヤマトの二次創作小説ではありますが、
当ウェッブのオリジナル設定で進行します。
登場人物はほとんどがオリジナル・キャラクターです。
詳しくは 三日月小箱・NOVEL「YAMATO2199」をご覧ください。
作品およびキャラクターのイメージを壊されたく無いという方は、
お読みにならず、ページを閉じてお帰りください。
この警告を無視してお読みになった場合、責任は取れません。
−−なお、原作の著作権を侵害する意図はありませんが、
パロディおよびオリジナルとして掲載された作品
およびデザイン等の著作権は放棄しません。
無断転載・転売・設定の勝手な持ち出しその他はお断り申し上げます。



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 西暦2190年――。木星の衛星・イオ

 わーっ、わーっという声がする。
「てめぇ、このあま。舐めんじゃねーぞ」
「ふんっ、あんたたちの言いなりになるようなあたしたちじゃないんだよっ。宇
宙の女を舐めんじゃないわっ」
 声のする方にぱらぱらと人だかりが出来ていた。
「なんだろう?」
伊勢祥太郎いせ しょうたろうは、同僚たちと出た夜の街でそれに遭遇した。
多少、酒が入っている。基地研修に来て1週間が過ぎていた。
その成果を祝してというわけではないが、少しリラックスした気分で街へ出た。
 「よせよせ、酔っ払いの喧嘩だろ?」
「…かといって、見過ごすわけにはいかんだろ」

「――だけど治安はけーさつの仕事だろよ」
まだ若い、研修生たち――皆、士官候補生だ。
好奇心に負けてどれどれ、と見てみると。
(えっ!)
 路地を背にして女が3人。大柄な女が背にもう1人を庇い、さらに1人は少し
間を置いて固まるようにして、それを取り囲もうとしている男たちを睨みつけて
いる。
「――ちょっとお誘いしようってだけじゃねーか。ヤボなこというなよ」
「な、姉さん、こっちきなよ」ずい、と1人が背に庇われてる方に手を伸ばすと、
その女はえい、とその手を振り払った。「いやだって、言ってんじゃないかっ」
「あんたはお呼びじゃないって。邪魔するんじゃねぇ」
 地元のチンピラどもだというのは一目瞭然だった。
辺境の衛星。治安警察はあるが、男と女の揉め事に介入したりはしない。
――しかも、どうみても女たちの方が、余所者。かかわりを怖れたか、人々も
疎らになっていた。

 「わっち――いててて」
突然、1人が腕を捻り上げられて声をあげ、にらみ合っていた男女はそちらを
向いた。
「どんな理由があるかは知らないが」その腕を押さえたまま、ずい、と前へ出て
伊勢は声をかける。穏やかとすらいえそうな声だったが、「てめっ。邪魔しやが
ると」と、振り仰いだリーダーらしき男は、彼らの着けている制服を見た途端、
少し引いた。
「――治安は警察の仕事だとはいえ…見過ごすわけには、いかない」
どん、と突き放して。「なにおっ」と見上げられるのに、殴りかかろうとした男た
ちをリーダーらしき男が止めた。
「やめろっ、てめーら」「ヘッドぉ」
「やっちまいましょう、どうせ、こいつら基地の…」
「だから、やめろっつーてるだろ、ぼけ」
 「女性を男5人が囲んで力ずくというのはいただけないな。ここは俺たちに免
じて勘弁してくれないかな」
柔らかな口調で彼は言い、なにお、偉そうにと見返そうと思った連中は、その
後ろにズラリと威嚇するように並んでいる制服の男たちの目線とまともにぶつ
かるハメになった。
皆、不敵に、余裕すら見せて笑っている。
「本気で、やりたい、というのなら、お相手しないでもないですけどね」
伊勢の後ろから、井地知という男がそう言い、
「そうそ。ちょうど食後の運動にも良いかな、ってね」
高田という男が茶々を入れた。

 劣勢とみたか、捨て台詞を吐いて去っていくところなど、まるきりの莫迦で
もない、と伊勢は思い、「行った行った」と仲間たちが野次馬を散らせるのを
片目で見て、女性たちに近付いた。

 
 よく見ると3人とも――女性たち、とはいっても。普通のお嬢様ではないよ
うだった。
「ありがとう、礼を言うよ」前へ出ていた女が伊勢に近付いて言った。
「――私は苫牧地佳子とまいち けいこ。“ペガサスのケイ”っ ていえばたいてい通りがいいと
思う。長距離個人カーゴのパイロットだ」
ぺこりと頭を下げ、また後ろの2人もそうした。
「――防衛軍士官候補生、伊勢といいます。何もなくてよかった。こちらは仲
間の井地知いぢちと高田、それから九龍くりゅうと中居」
「いったい、どういうこった?」高田が言い、
「私が――アキといいます。私が道をを妨害したとかで絡まれて…言いがか
りなんですけどね」
「アキはかわいいからな。あいつらには目の毒よ」もう1人が言った。 未宇みう、と
名乗った。
 それにしても勇ましい風体だった。昔でいえばトラック野郎、とでもいうのだ
ろうか。女ながらに――といっては失礼かもしれないが、なかなか迫力がある。
「海軍さんなんだね。研修?」
 こわもてだと思っていたケイは、笑うと邪気のない笑顔になった。
「えぇ。今日は飲んで気分よくなっていたところだ」
「そりゃお邪魔しちゃったね」
少し困ったように笑った顔が、印象的だった。


 
 
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